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ジュリアスの若者指南 2


 神殿から出ると、前には僕の使っている馬車が止まっていた。ジャックが扉を開けてくれる。


「ありがとう。レイクツリー公爵家まで、ああ途中で焼き菓子買いたいな」

「承りました…マイク様、お顔がすっきりされていますね。何かありましたか?」


 話を聞いてもらったとは言いづらい。家は聞き留め、流すのが生業だから。


「ジュリアス様と少し話をしたんだ。中々ためになる話しを聞けたよ」

「そうでしたか、良かったですね」


 本当にそう思った。少なくても、気持ちに一区切りがついた。


*   *   *


「私にはあなたが、リュミエール嬢に惹かれているように見えました」


 前置きもなく、ジュリアス様はそう言った。

 いつもの僕らしくないから、話をしようだなんて、誰にも言われたことはなかった。上手くいけば、コリンヌの加護の話をもう少し引き出せるかも…と思い、再びソファーに腰掛けた僕は少々面食らう。


「えーと、それは表情に出ていたとか、言葉の端々で…でしょうか」

「周りの方々は気が付かないと思いますよ。貴族の方々は元々、顔に出さないのは得意ですし、ビンチョスは話も巧い。あなたは加護的にも悟らせないのでしょう」

「は?」

「噂の恐ろしさも、真実の恐ろしさも紙一重ですしね」


 確かにそれはある。仲の良い夫婦が噂一つで壊れることも、真実の愛などと言うものが、一瞬で壊れる様も知っている。


「だから、どこか他人事で終わらせようとしていませんか?せっかくの初恋を」


 な、よく、そんな恥ずかしいこと、ペラペラ言えるな。

 気が付くと、ジュリアス様の瞳は銀色はずなのに、薄く藤色がかっている。


「言っていて、恥ずかしくありませんか?」


 聞いている僕の方が恥ずかしくて、口元を押さえる。


「別に?よっぽど御せない気持ちを持て余して、恰好をつけている方が恥ずかしいです」

「……ジュリアス様以外にはばれていないんですよね」

「まぁ。あと一人くらいですかねぇ」


 ぎょっとする。


「自分と同じように相手を見ている相手がいれば、気になるもんでしょう」


 ああ…みょうに腑に落ちる。紫紺の金輪が浮かんだ。


「僕は…手が届かなくても、目の届く場所にはいて欲しいと思っています」


「この若造はずいぶんお行儀がいいなぁ」


 急に口調が変わった。緩く結んでいた髪をほどくと、美しい金髪をかき上げる。足を組み、ソファーにどさりと体を凭れる。


「吃驚しました?私の見栄えはいいから、どこかの貴族の落とし種だとか色々言われてますが、元は捨て子の神殿育ちです。この所作も口調も整えたものですが…好きな人には真摯に愛は告げますよ。それこそ、みっともない姿も見せるでしょう」

「あの…」

「親にもらえなかった愛情を女性に求めてみましたが、きちんと返されたこともなかった。求められるのは、見栄えの良い、時期神殿長と言う名の男です。まぁ後から考えれば、望むばかりで、返したこともなかったかもしれません」


 そう言って、ジュリアス様は自嘲気味に笑う。


「コリンヌは神殿に来た頃から破天荒というか、無鉄砲というか面白い娘でね。目が離せませんでした」


 ああ、それはわかる。


「でも、嘘はない。まっすぐな信頼を見守りたいと思った時には、恋に堕ちてたんでしょうね」


 それもわかる。彼女を見守りたい。頷きそうになった僕に可笑しそうにジュリアス様は言った。


「君もそうしたいの?マクシミリアン・ビンチョス」

「僕は…」

「若造らしく、当たって砕けてみてもいいでしょう?そんな風にあちこちを恨むくらいなら、キラキラした思い出に変えればいい。欠片くらいは拾ってあげます」


 ……本当にジュリアス様か?


「まぁ、私は長く見守ったおかげで、離さないと言ってもらえたので、私も離しません」

「ひょっとしたら、惚気られてます?」

「いや、決意表明かな。誰かに言っておきたかった」


 ふっと気が抜けたように可笑しくなる。


「僕は恰好をつけていましたかね?」

「ええ。かなり。ビンチョスの言葉は加護から、相手を惑わす力があるかもしれません。本当に伝えたい言葉は、曖昧な言い方は避けて、真摯に伝えるが吉ですよ」

「今度は占いですか?」


 二人で笑ってしまう。僕は居住まいを正した。


「告解です。僕の髪色に似た薄茶のドレスを着てくれた彼女を、素直に褒められませんでした。浮かれるくらいに嬉しかったのに。彼女のために言ったことなのに、レイクツリー公爵家のためだと、エアリルの親友だからと言ってしまいました。本当は彼女に隣国の縁談なんて受けて欲しくなかった…間違えたはずなのに、間違いを正せない」


 口に出る言葉は止まらない。


「ははっ最低で、青い」


 膝を叩いて喜ぶジュリアス様を僕はじとりと睨む。


「神官のくせに赦さないで笑い飛ばしますか」

「女性を褒めないのは最低だな。そして、言ったことは若くて青い。今、私に言ったことをそのまま告げてみれば良い。赦してくれるかは、彼女が決めるよ」


 本当にそうだ。


「聞いてくれるかな…」

「言わないよりはマシ」

「最悪な告解になったよ」


 笑いながら席を立つ。そろそろ動かないと、エアリルとの約束に間に合わない。


「ああそうだ、ジュリアス様」

「?」


 まだなにか?って顔して僕を見る。瞳は銀色だな。見間違えだったのか…。


「僕のことはマイクと、ジュリアス様まで断らないで下さいね」


 くつりと微笑んだジュリアス様が光の祝福を唱える時ように、僕に左手をかざした。


「仕方ないな。マイク、励みなさい」




 ジュリアスside


 吃驚するくらいに言葉が継いで出た。あれは俺じゃない。

 マクシミリアン・ビンチョスのバッドエンドは、ヒロインを思うあまりに妄執を拗らせてひどいものだった。それを知っているから、少しでもそんな未来を変えたくて、呼び止めてしまったのだが…。


「おいおい、いるのかジュリアスが!」


 自分の体を両腕で抱けば、神官にしてはごつい私の体がそこにある。

 便宜上神は、生きて死んでいくのだから、本人たちは気が付かないと思っていると思うが、同じ刻が何百と重ねられていたとしたら、繰り返された記憶が、すり減った魂に刻まれていたのだと思う。

 ジュリアスだって、三悪ヒーローだったのだ。悪い奴ではなかった。


「お前も大変だったよなぁ…でも、ビンチョスを見捨てられないなんて、最後まで神官してるじゃないか」


 きっと、私の言葉では、彼の気持ちは動かなかったと思う。


「私じゃまだまだ、頼りないかもしれないが…」


 せめて、今の私でやれるだけやろう。『海の災厄』では加護力で救えるだけ救おう。

 とりあえずは…コリンヌを愛称で呼んで、大切だと伝えたい。


「コ、コ…」

「鶏かな。鶏だな。コケコッコーですか?」

「ココ。これからそう呼ぶ。これは私だけだからっ」

 もっと格好よく、呼ぶつもりだった。



 深層心理下にいたジュリアスが頬杖をついて退屈そうに『ヘタレめ…』と言った気がした。


お疲れさまです。

いつも読んでくださってありがとうございます。


李池のキャラノートにジュリアスは『情に厚い』と

書かれていて、それは前のジュリアスだよね。

と思い、書いた一本でした。

ビンチョスもなんとかしたかったですしw

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