マリアベルとダンス練習
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大晦日ですねぇ(笑)
「あの、シルヴァン殿下、もっとしっかり握って下さらないと…」
「ああ、そうだな」
「…ダンスですから、ホールドは苦手ですか?」
手や肩、腰。何もかも小さくて力を入れ過ぎたら、壊しそうだと思う。
いや、一部のみ、他の女性より特出して大きいから、目の毒で、エアリルはよく気にもせずに踊れたものだ。ダンスは苦手ではない。外交でもよく踊るし、幼年の頃から女性パートまで踊れるように仕込まれた。
「少し、待っていて欲しい。休憩をしよう」
始めて十分もしてないが、従者であるビンチョスを置いて、慌てて城内のホールから出る。
「アイシュア!」
「殿下、いかがしました。今日はマリーとダンスの練習では?」
アイシュアは、いきなり騎士団執務室に飛び込んできた俺を訝し気に見た。
「本日は、城内でお過ごしと聞きましたが?」
「すまん、少し聞きたい。マリアベルなのだが、お前はどの程度の力加減で触っている?」
「は?」
この男は何を聞いているんだ?妹に触ると言ったか?が、顔に出ている。
「俺は身体強化がある。もちろん、普段は出していないが、マリアベルを壊しそうで怖い」
「触ると言いましたか?」
執務室に剣呑な空気が漂っていく。慌てて、アイシュアの従者であるヘンリーが間に入った。
「アイシュア様、触るってそういう意味じゃないです。マリアベル様が小さいので…」
「「小さくない!」」
えええっと、ヘンリーが嫌そうな顔をする。
「ごほん、その、マリーがたおやかで、女性らしいので困っているわけですね」
「ああ、他の女生徒などとは違う」
少しの疑念はあるが、妹が褒められているのは悪い気がしないらしい。
「大丈夫です。マリーも身体強化は持っておりますので、多少のことには対応できます」
喧嘩じゃないんだから…と呟きながら、げんなりした様子でヘンリーがアイシュアに声をかける。
「お二人で強化使って踊ったら、床抜けます…技術的なことです。アイシュア様」
「ああ、多少、重心を下に置いて踊ります。後はマリーが合わせるかと…」
「なるほど、ではリードを任せても」
「ふむ。ですが、任せっぱなしにされても困ります。マリーは心優しく、控えめなところもありますから」
「わかる。あるな」
二人は知らない。エアリルにガンガン、でかい花火上げましょうと迫っていたことなど。
アイシュアと納得のいく合意をした後、俺はホールに戻る。ホールの側に備えたベンチに座り、ビンチョスとお茶を飲むマリアベルを見つけた。
「あ、お帰りなさい。シルヴァン殿下、どちらへ行かれていたんです?」
愛想よく笑うビンチョスに苛つく。何でおまえが仲良くなってるんだ。
「アイシュアのところへ…身長差があるので、どのようにすれば良いかを聞いてきた」
「そうでしたか、あ、こちらにどうぞ。今お茶を頼んできますから」
あっさりと席を譲り、ビンチョスは席を立ちホールを去っていく。
「油断のならない方。うっかりリュミの情報を話してしまうところでしたわ」
小さく溜息をつくマリアベルが視線を上げる。
「シルヴァン様、次回からは高めのヒールを履きますので、ホールドの位置も変わります。ご心配なく」
「それでは、マリアベルの負担がないのか」
「お兄様と踊る時にもこーんなに高いヒールを履いておりますから大丈夫です」
指を広げてみせ、笑うマリアベルが愛らしい。
「では、私からマリアベルにダンスシューズを送ろう。その、今回のお礼に」
「とんでもありません。殿下のパートナーを努めることは誉れでこそ、お礼をされるなど…」
「いや、是非受け取ってほしい。ジェシカと言ったか?」
マリアベル付きの侍女に声をかける。
「ビンチョスに母上のところから、ダンスシューズのデザインを、借りてきてもらうように言ってきてくれ」
「承りました」
「あの、シルヴァン様本当に大丈夫ですから、王妃様のお抱えの職人の物など、恐れ多いです」
首を振り、受容しないマリアベルに言う。
「安心して良い。母が使っているのは、城下で腕の良い職人の物が多い。安くて良い物だそうだ」
「まぁ…さすが賢母と呼ばれている王妃様ですのね。城下で買う事で、経済を回しているのですか…」
感心をするマリアベルには悪いが、倹約志向の高い母が王家御用達というだけで、物を選ぶのが嫌なだけだ。それでも、家族を褒められて悪い気はしない。
「ビンチョスがデザイン画を借りてくるまで、もう少し練習をしよう」
手を差し出すと、先ほどより上手く握れた気がした。
何曲か踊ると互いに慣れてきたのか、テンポも合わせやすくなってくる。
「シルヴァン様は体幹が、とてもしっかりなされておりますのね。わたくしに合わせて下さっているのに、背が丸くなっておりませんから、とてもスマートですわ。それに…」
褒められた。嬉しい。顔にはださないが。
「それに?」
「足さばきが…普通の方とは違う気がします」
ああ…勘がいいな。爺ぃの指南を受けている俺は、足音をさせないとかを普通にしてしまう。
…マリアベルが俺の『アサシン』の加護を知ったら、嫌悪するのだろうか。
「幼年の頃から、古武術に近い指導を受けている」
「そうでしたのね!」
「マリアベルは、加護が人を殺めることも可能な物だったら、どう思う?」
かなり湾曲な聞き方だ。悟られ、嫌がられたら。
「別に。人を殺めなければ良いのです。わたくしたち、ゴーディ領の者は、反対に、魔獣を殺めて生きておりますし、父もお兄様も、自分の生に覚悟を持って取り組んでおりますわ。理の中で、ご自分で上手く折り合いをつけていけば良いのかと…」
何でもないようにマリアベルは言う。王族の加護は秘匿とするものだが、俺は家族以外にそう言ってもらえる人がいなかった。どこかで、周りの者に露見するのを恐れていた。
「そうか。マリアベルの考え方は良いな」
救われたような気分になる。マリアベルにもっと自分を知ってもらいたいとも、そして好きになってもらいたい。
「まぁぁ可愛いですわ、あ、これも素敵」
「マリアベル様、こちらのデザインも似合いそうですわ」
ビンチョスの持ってきたデザイン画を見て、侍女と嬉しそうに声を上げる。
「好きなのを選んでくれ、どれ?」
「い、いえ、一つでは足りませんから、家で用意をしますわ」
どうやら、いくつか候補があるらしい。スケッチブックを立てて顔を隠し、ごにょごにょと呟いている。
「いくつでも良いけど?」
「もっと言えません」
いくらでも与えたい「見せて?」そう言いマリアベルの持つスケッチブックを覗き込む俺の唇と、顔を上げたマリアベルの旋毛が当たる。
「ひぁっ」
「つっ、すまない」
侍女にもビンチョスにもスケッチブックで見えなかったはずだ。俺は口もとを押さえ、横を向く。マリアベルはしばらく、スケッチブックから顔を上げなかった。
兄上に言えないことが初めてできた。
きっと、ビンチョスは当然。
ジェシカも気づいていたでしょうw
ヴィンセントは言わずもがな。




