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退場。

お疲れさまです!

いつも読んでくださって、ありがとうございます。

嬉しいです!


「どうして、わたくしの宝石を売らなくてはいけなかったのよ!」


 先ほどからカルナラが煩かった。わたくしだって、気に入っていたバッグや靴、ドレスまで手放したのだから諦めなさいよ。


「言ったでしょう、お父様からの路銀が途切れたと、お母様に内密に書簡を届けたけど、連絡がつかないのよ」

「だから何!」

「カルナラ、昨日の午後に外交文官のクノンスが現れて、私たちに強制退去が言い渡されたわよね」


 遅めの朝食をとって、午後からの予定を立てていたところだった。クノンスが何名かの騎士を連れ、面会を求めたのだ。カルナラはいよいよ王城へ居を移すと考えたようだったが、クノンスの硬い表情から、とてもそうは見えなかった。 


「残念ですが、王女殿下方に強制退去の書状が出されました」

「どういうことですの、我々が何か?」

「あなた方に、暴行容疑がかけられております。三名の身元のわからない者が、王都西にある下街に倒れておりました。療護院に運ばれましたので、命までは落としておりません」


 わたくしは慌ててカップをソーサーに戻した。カップを持っていると手が震えそうだったからだ。


「暴行?わたくしたちは何も知りませんわ。こちらの国に着いてすぐ、皆さんの手配にてこちらのホテルに居を取ったのですもの」

「そ、そうよ!一国の王女に失礼ではなくて?」


 カルナラは土壇場での、はったりは強い。


「ええ、私どもそう考えておりましたが、二人は外国籍のようでしたので、通訳を付けて話を聞きました。そして、別の一人がこちらの国の者でした」


 カルナラがジルと呼んでいた、国境の辺境地で拾った男だとすぐに気づく。やたらと容姿を気にする、高慢な男だった。カルナラも気が付いたようだが、表情は出さなかった。


「ジルニス・スルト。彼はこの国の侯爵家子息です。辺境地を見回る第三騎士団に勤めていたのですが、三週間ほど前から姿を消しておりました。その彼に話を聞いてみたところ、ナーラとネアと名乗る豪商の娘に連れられて王都に戻ってきたと、豪商の娘と王女殿下方の風貌、話の成り立ちが実に、王女殿下方と似通っております。彼はまだ治療中ですが、動けるようになり次第、面会をして頂ければはっきりするでしょう」


 抑揚もつけずに事実だけを述べているクノンスに腹が立つ。まるで、わたくしたちがやったと、知っているようだわ。


「わかりました。わたくしたちは何も知りませんし、その方がお元気になられたら会いましょう」

「お話しが早くて助かります。アスパーニャへの報告は済んでおりますから、ご心配なく。ご退去の際には安全にお送りしましょう」


 クノンスが帰った後、カルナラは「ジルが侯爵子息だったら捨てなかったわ!」と騒いでいたが、どちらにしろ、ばれるのは時間の問題だった。

 このまま強制退去になったら…お父様になんて言われるかもわからない。


「なんで会うなんていったのよ!あ、会ってジルに頼むのね」

「そんなはずないでしょう、頼んだところで、どうして暴行をした私たちの頼みを聞くっていうのよ。下手をすればそのまま捕まるわ」

「そんな…ど、どうする。私、知らないわよ。あんたが捨てろって…」

「馬鹿みたいに、あんたがあちこちで連れてくるから!それになんで暴行なんかするのよ!」


 冷静でなんていられなかった、本国から付いて来ていた護衛達三名を睨み、喉が痛くなるくらいに叫ぶ。


「アスパーニャじゃ、そうしていたじゃないですか」


 悪びれもせず、そう話す護衛に、ミネアは目の前が真っ暗になった。後々面倒にならないくらいに、脅すだけで良かった。話にならない。雑多なアスパーニャと法改正がしっかりと整備されている国とは違う。賄賂などで罪が軽くなるなんてことはない。


「逃げないと…」

「えー本国から迎えにくるのを待ってもよくない?」

「来ないわよ、だって本国からの路銀が届かなくなったもの…切り捨てられたのかも…」


 やっと事実に頭が追いついたのか、カルナラが焦りだした。


「と、とにかく国に戻って、お母様に会いましょう」

「そうね、お母様ならなんとかしてくれるわ」


 護衛達に本国までの安全な道筋を探らせる。行きのように旅行気分ではない。隠れて安全に帰るにはお金がかかった。すべての用意ができたと護衛に知らされたのが二日後。深夜のホテルを裏口から抜け、路地に入り、ただ護衛の後を歩く。


「王都から港に抜けます。港から船で二時間。そこからは行きと同じで馬車です」

「ねぇ、この黒いフード被っていなきゃだめ?」

「カルナラ様の髪は目立ちますんで…」


 本国に着いたら、この馬鹿な護衛達に罪はかぶせるけど、それまでは助けてもらわないといけない。カルナラにそれだけは言い含めた。


「わかったわ」

「港までの馬車はこの先に用意させました。ミネア様?」

「危険な目に合わせるけど、あなたたちだけが頼りなの。本国に無事に戻れたらお礼はするわ」


 今まで命令か無視しかしていなかった、護衛達の顔に喜色が浮かぶ。

 絶対に許さない。私たちに迷惑をかけた罪人として()()()するわ。


「絶対守りますんで、お任せ下さい」


 一刻ほど狭い馬車に揺られ、港に着いたらしく馬車が止まった。潮の香がする。


「ここまでは大丈夫だったようです。急ぎましょう」


 扉を開け、先に降りた護衛が、一瞬で目の前で吹っ飛んだ。


「な…」


 ガタガタと馬車が揺れる。


「降りろ」


 扉に手がかかる。

 ギッギギィバキィ。金属音のいやな音がした。

 私は歯の根が合わないくらいに震えていた。カルナラが隣に座った護衛に何が起こったのかと、怒鳴ると同時に扉が外れた。いや、引きはがされたのだ。身体強化をされた人の手によって。


「馬車ごと潰されたいのか」


 男の声が車内を支配する。


「降りて、降りてよぉ」


 カルナラが護衛を押し出すと、震えながら降りる。目の前に先ほど飛ばされた護衛と、御者をしていた護衛が倒れている。呻き声が聞こえるから死んではいないようだが、体を折り、周辺には血溜まりができていた。

 傍に立つ瘦躯の、目元しかわからない黒装束の男が、クキクキと首を動かす。


「着くの遅すぎ、待ってたよ」


 押し出された護衛が慌ててナイフを出すが、瞬きの間もなく間合いを詰められ、男の膝に顔を埋められていた。護衛の口からぽろぽろと落ちる白い物が歯なのか、鼻を潰され、血まみれの顔を押さえたまま道に転がる。


「いやぁぁ、なに、なんなの!」

「た…たすけ…て、お母様、おかあさま…」


 座り込み、カルナラと抱き合う。私は急に向き合わされた恐怖に、顔を涙と鼻水でぐちゃくちゃにして、母を呼ぶしかできなかった。


「お前たちが捨てた男たちの、足、折ったのどれ?」


 三人の護衛達を指さし、男が聞いた。


「知らない、知らない」


 本当に知らないのだ。首を振り答える。


「ふーん。じゃあ全員折るか」


 手近にいた男の足を踏んだ。酷く嫌な音がする。


「が、ぁぁあああ」


 悲鳴にも似た声を上げる護衛に一瞥もしない。

 気負いもなく、倒れている護衛達に近づいていくと、その度に絶叫が聞こえて、恐ろしさで耳をふさいだ。こんな恐怖知らない。


「これから船にのって帰るんだっけ?じゃあ、護衛はいらないよね。船あっち」


 指差した場所に、漁船のような船が泊まっていた。

 腰が抜けた私を無理やりカルナラが立たす「立って、死にたくないでしょ、立ちなさいよ」木製の舟橋まで二人で支えあい、ふらふらと歩く。


「ひどい姿だな」


 低く、それでいて甘い声に顔を上げる。真上まで上がる月を背に、金色の長髪が靡いた。冴え冴えとした美貌に、影を落とした瞳は海のような青。


「私に会いたかったんだろう?」


 甲板室の屋根に腰かけている男は、口元に緩やかな笑みを浮かべ呟いた。


「あ、あ、あんた、なんで」


 カルナラが今までの恐怖を忘れたかのように、見上げている。


「帰りの船はこちらで用意させてもらったよ。バナナはないし、少し寒いかもしれないが、我慢をしてくれたまえ」


 そうよ。カルナラはこの男に会いたくてここまで来たのに、なんで私までこんな目に合わないといけないの。 


「あたしはぁ、あんたに…会い…」


 カルナラが手を伸ばす。


「お前には一つだけ教えてもらった。望む相手がいたら、追いかけるくらいの気概はみせるべきだと」


 何言ってるのよ、そんなこと…。


「では、二度と会うことはない」


 後ろから黒装束の男がのんびりと歩いてくる。何かされてはたまらないから、せっつかれるように、舟橋渡り甲板下に降りる。冷凍魚が並べられている船倉庫には毛布が置かれていた。


「寒い…、ねぇ、さっきの」


 カルナラは諦めきれないのか何かを言いかけたが、男に投げられた毛布を慌てて体に巻く。


「二時間でオキマまで着くから、凍えないように頑張るんだな。そこまで行けば国から迎えがくるってさ」


 黒装束の男が、梯子を使わずに軽くジャンプをすると甲板に上がった。

 徐々に扉が閉まっていく倉庫扉から覗きこむ、黒装束の男とその後ろに金髪の男が見えた。涙が溢れる。何か言ってやりたいけど、声にならない。


「ばいばい」


 ガチャリと重たい音がして、倉庫室の灯りが消えた。


 *  *


「あーもう、夜明けじゃん、今日、小テストあるんですけど」


 背伸びをしながら、シルヴァがぶつぶつ言っている。


「目が痛い…この魔法薬は、改良の余地あるな。助成金をだすか」 

「ほんと、それ、何とかしてよ」


 今晩のために金輪が目立たぬよう、共に点眼をしたシルヴァと笑った。


「やっと帰ったな」


 沖に見える漁船を見ながら言えば、隣で頷いた。


「おう。もう少しやってやりたかったけど、安全に返さなかったって文句言われても困るし…こんなもんだな」

「三人の足を折るのはやりすぎだ」

「だって誰がやったか言わないからさー」


 わざと泳がせて、ここまで追い込んだのは、先日のお礼だ。シルヴァが嬉々として手伝ってくれた。


「小テストの範囲で山かけくらいはしてやろう」


 実に嬉しそうに片割れが振り返った。



R15か…R15なのか…

いっそR18まで上げてしまった方が良いのでは!

と焦った李池の呟き回。


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