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最後の悪役令嬢

コリンヌ入りました!



 やっとここまできた。

 私、コリンヌ・マイオニーは市井で生まれ、地母神テラーアの加護を受けている。

 オレンジがかった金髪は肩のあたりでふんわりと揺れ、ぱっちりとした空色の瞳。肌はきめ細やかで、健康そうなバラ色の頬、桜色の唇に小柄な肢体。

 自分で言うのもなんだけど、笑顔がめちゃ可愛い。

 いつも一生懸命で、天真爛漫、三悪のコリンヌはみんなの妹枠である。

 近所のヤローからの秋波もうるさかったが、神殿に認められてからが、また大変だった。

 両親は悪い人ではなかった。しかし希少な加護持ちとなると、誘拐に合う危険も多いことから、貴族の庇護を受ける方が良いと神殿から諭されて、王立学園に通う一年前の十四歳の時に、貴族家への養子縁組が決まった。

 百二十年ぶりに現れた大地の加護を持つ娘。

 十歳時から神殿に留め置かれたコリンヌに、一番先に目を付けたのがキュービス侯爵家だった。

 キュービス家の派閥である、マイオニー家に入れることで、自身の領地で恩恵を受けるも良し、王家に取り込まれるにしろ、神殿に置くにしろ、貸しにできる寸法。うまくやったと思う。


 養子先で礼儀作法と貴族教養を一年で仕込まれて、軽く死ぬかと思ったが、コリンヌのポテンシャルの高さでギリギリ及第点を取れた。

 それもこれも、全てこれからの人生がかかっている。上手くやらなきゃ。

 

 控え室代わりの生徒会室に集められた、攻略対象である宰相の息子と伯爵令息、時期神官長を前ににっこりと微笑んだ。


「コリンヌ・マイオニーです。ジュリアス様お久しぶりです。同じ学園に通えるなんて心強いです。皆様もよろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げる。令嬢らしくない?これがコリンヌの売りだから。

 それが証拠にクール系緑髪眼鏡。侯爵家嫡男のキリアン・キュービスが頬を赤らめた。


「ああ、平民が貴族社会に慣れるのは、大変かと思うが励むといい」


 色彩が茶色しかない、マクシミリアン・ビンチョス伯爵令息が、目を合わせてにっこりと微笑んだ。


「きみを受け入れたマイオニー家の義父は、婿入りをした僕の叔父でね。つまり、きみは従妹になった訳だ。何かあったら言ってくれ」

「ありがとうございます!頼りにしていますね」

「コリンヌは相変わらず明るく、可愛いね。君が神殿から去って神殿は火が消えたようだよ」


 でたな。金色イケメンめ。


「ふふ。ジュリアス様が神殿からしばらく、居を移す方が皆さん寂しいのではないですか?」

「仕方ないよ。君の加護力を上げるためにも、光の魔力は必須だからね。今は叔母もいないし」

 

 大地、植物、光合成。大地の加護には光の加護が重要らしい。

 肩をすくめながら、ジュリアス様が微笑む。


「それに君も私に会えないと寂しいでしょ?」

 

 とにかく、この男は軽い。神官職にあるまじき軽さである。


「もう、ジュリアス様ったら」


 ポカポカ打つ振りをする。コントだ。落ちはない。

 そうしていると、ノックの音がした。同室に控えていたメイドが扉を少し開けると、侍従らしき男性と話している。


「殿下たちだろう。こちらで来合せる約束をしている」

「まぁ、一緒に入場をしてもよろしいのですか?」


 一応聞く。知ってるけど。


「ああ、コリンヌの紹介を式典でするから」


 ビンチョス…いつの間に名前呼び。

 扉が大きく開くと、体格の良い厳めしい顔をした年配騎士の後に、黒髪をゆるく一つに結ぶ、背の高い男性が続いた。

 切れ長の目はゆるりと半月を描いている。整った鼻梁に薄い唇は微笑みの形をとっていた。王家の血筋を表す金輪を光彩部分に持ち、紫紺の瞳孔。完璧すぎる容姿、この王国の双子の王子、第一殿下ヴィンセント・クロヌロアである。悔しいけど、少し見とれた。

 立ち上がり臣下の礼をとる自分たちに「楽にして、シルヴァはすぐに来るから」とこれまた低めの良い声でのんびりと話す。


「彼女が大地の女神の加護を持つ?」


 一人がけのソファーにゆったりと座ると、長い脚を組んでキリアンに聞く。


「はわわ、コリンヌ・マイオニーです。絵姿では拝見してましたが、絵と同じですね。あ、うちのお店に貼ってあったんです。うち、パンやだったんですよ。美味しいと評判で…王家の皆様の飾り絵、母さんが好きで、やだ、私ったらすみません」


 真っ赤になって慌てた風を装う。


「そう」


 あれ?笑顔が変わらない。ゲームだと平民だった頃の家族を忘れないコリンヌに、いつも周りで騒ぐご令嬢たちとは違うと興味を持ち、少し目を見張るはず。

 なぜ開眼しない?カッって!


「コリンヌ、慌てなくていいから」

 

 ポンポンと自分の側のソファーをたたくと、可笑しそうなジュリアス様に座りなさいと窘められた。

 ファンブックに書かれていた第一殿下の特徴は、いつも微笑みを絶やさず、表情が読めない。と、これか!


「兄上、遅くなってすまない」


 ノックもなく、ドアが開いた。

 金茶の髪に形の良いアーモンド形の瞳。第一殿下と同じ金輪の光彩に,紫紺とは真逆な緋色の瞳孔。凛とした第二殿下シルヴァン・クロヌロア。

 冷静な殿下と違って、こっちは行動派だ。

 素材は一緒のはずなのに、華やかさと爽やかで受ける印象は違う。

 双子の兄同様の整った色彩違いのイケメンが増えた。


 双子の笑顔に絆されそうになるが、こいつらは腹黒だと私は知っている。


「ああ、私も来たばかりだから、気にしなくて良い。マイオニー嬢、紹介しておこう、双子の弟シルヴァンだ。飾り絵で知っているかな」


「飾り絵?君が加護持ちの新入生か」


 にこりと笑う、艶やかさに目がくらむ。


「よ、よろしくお願いします」


 そっと手を差し出した。

 ゲームだと、ここでシルヴァンはヒロインの貴族子女らしからぬ行動にびっくりするが、世間知らずのコリンヌは握手を求める。


「あっ…握手はダメでした…か?」


 不敬だと知ってるが、やらねばならない。イベントですから。どんどこ親密度あげちゃうよ!

 上目づかいにうるうると見れば、シルヴァンはふっと笑った。


「いいや、よろしくたのむ」


 やけにあっさりしすぎているけど、よかった、こっちはシナリオ通りだ。

 シナリオといえば、赤髪騎士と引き隠りぼっちゃんはどうした?もうすぐ、俺の嫁と妻がここに討ち入ってくるはずなんだが…。


「今日はアイシュアではないんだな?」


 握手を終えるとシルヴァンが、護衛の年配騎士に向かって言った。


「甥なら、姪の式典入場後に学園内警備にまわります。公の場では王家の護衛騎士は、第一騎士団団長と慣習があります故」


 あれ?赤髪騎士は団長だったはずだけど…姪って俺の嫁か?


「相変わらず、あの兄弟は仲が良いようだね。ガーディ家のご息女は息災か?」

「は、おかげさまで…」

「エアリルはどうした?」


 これにはビンチョスが答えた。


「生徒会室に顔をだすように伝えたんですが、姉君のエスコートがあるからと断られました。今頃は会場の方にいるかと…」


 エアリルは俺の妻の弟だ。


「エアリルの姉贔屓も変わらずか」


 くくっと押し殺したようにシルヴァン殿下が笑う。

 ヴィンセント殿下が、ゆっくりと立ち上がった。


「では、そろそろ会場に向かおう」

「え、このメンバーで?」


 思わず、声にでた。


「コリンヌ?何かあるのか」

 

 キリアンが眼鏡の縁を上げながら、怪しんだように俺を見る。


「ほ、他にご令嬢が来ないのかなって…ほら、皆様素敵だから、婚約者の方々もいらっしゃるでしょうし、エスコートをしなくてはいけないのでは…と思いました」


 だってさ、ゲーム開始時にあったんだよ。

 ヒロインをコリンヌで始めると、悪役令嬢となったマリアベル・ガーディとリュミエール・レイクツリーが揃って生徒会室に現れる。

 二人の言い分としては、公爵令嬢がエスコートもなしでは会場に入れない。だからといって身分の釣り合わない輩はごめんだと。

 高位貴族の責任を持って、自分達のエスコートをしろって乗り込んでくるはず。

 ちなみに二人とも俺の嫁と妻だ。

 前世の俺はよく言っていた。「三悪ファンディスク、十六番目の親友大団円エンドクリア後はそう言ってもいいよな」と。

 

 転生前の俺は二十八年間を男として生きた。

 

 亡くなった時のことは思い出せない。

 陰キャ分類ではあったが、家族と友人にも恵まれて、彼女だけはいなかった。

 でも、それなりに楽しくやっていたような気がする。

 

 気がついたのは五歳頃、近所の悪ガキに「大きくなったら嫁にもらってやってもいいぞ!」なんて散々、可愛い子はいじめたいの体現をくらった後に、言われたセリフで覚醒した。


「嫁ならいる!妻もいる!」


 突然叫んだ俺は、これが走馬燈かと納得する間もなく、記憶の濁流による頭痛に鼻血を出して倒れた。

 なんで選りに選って、コリンヌなんだよ。目の前のイケメン達なら誰でも良かったのに。

 小悪魔ベリーの可愛さに惑い、アイスドールの献身に癒やされ、コリンヌは妹枠だったが、数分の寝る間も惜しんでやったゲームに転生したのに…でも、その時に俺は思い出した。

 十六番目の親友大団円。

 逆ハーぎりぎりに全攻略対象の親密度を保ち、他のライバル令嬢の親友度を最大にすると迎えられるエンドだ。

 大地の巫女姫となった俺に、女性騎士のマリアベル、文官となったリュミエールが傅く。

 これこそ今世の俺に課せられたミッションだと。


「私たち全員、婚約者はいないから安心していい」


 でしょうね。

 キリアンがふぅと溜息まじりに告げると、それに付随するようにビンチョス…もうマイクでいいか…が殿下たちを見ながら頷く。


「殿下たちの婚約者が決まっていないのだから、僕たちもまだだ」

「私たちのせいかい?ビンチョス」


 微笑んだままのヴィンセント殿下が、首を傾げた。


「い、いえ、はい、ちがいます」

「どっちだよ?」


 冗談交じりに笑う、シルヴァン殿下。 

 なるほど、殿下たちの婚約者が決まらないと、チャンスがあるかと女性側も決めない。

 高位貴族になればなおさら。家の思惑で打診くらいはしているかも知れないが、それは水面下でだ。

 ゲームの強制力だけではないんだな。

 マリアベルとリュミエールに会えないのは残念だが、学園生活が始まれば、どうしたって絡んでくる。いやむしろ絡みたい。


「そうでしたか、私の考えすぎでした。すいません」

「気にしなくて良いよ、コリンヌ。殿下たちも早く決めて下さいね。私は大丈夫だけど」


 ジュリアス様がそう言って、エスコートの手を差し出してくる。


「コリンヌはもともと神殿出身になっているからね、ここでは私が適任だろう?」

「僕は従兄ですが…」

「お前が彼女のエスコートをしたら、もっと婚活から遠のくが…」


 ここは誰を選ぶかの親密度上げの分岐だったはず…。


「ジュリアス様お願いします!」


 思い切りよく、ビンチョスが頭を下げた。

 いや、お前が決めるんかーい!

 今世を生きてきてわかっている、ここはゲームの世界ではない。全てはシナリオ通りではないのだ。

 想定通りにいかない事の方が多い。

 俺はコリンヌ・マイオニーだが、ゲーム内のコリンヌの中身が男だったはずはないし、密かに親友大団円エンドを狙っているはずもなかった。

 だからこそ、そこに行くべき経路は間違わない。


「大丈夫です、自分で歩けます」


 コリンヌ(俺)最高の笑顔で答えた。


これで、何となく主要キャラの容姿にふれられたかしら?

よろしくお願いします!

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