キリアン様とランチ
お疲れさまです。
いつも読んでくださって、本当にありがとうございます!
キリアンからお昼に誘われた。
朝の馬車止めはそこそこ混んでいて、いつもより丁寧に開いた馬車の扉に、顔を出すとキリアンが立って手を差し伸べている。
「は?」
「おはよう。コリンヌ」
「お、おはようございます、キリアン様」
そのままキリアンに手を取られると、馬車から降りる。
「え、キリアン様?」
マギリアが後ろから顔を覗かせるが、キリアンはそのまま俺の鞄を自分の従者に預けた。
「淑女科まで一緒に行こう」
「はぃ…」
何かやったかな…。王城の温室をみてから、ちょくちょくキュービス領に呼ばれるようになった。もちろん、王都からの日帰り距離で、ジュリアス様も一緒だ。温室くらいなら良いが、まだ俺の加護を広い農地に張り巡らせるほどの力はない。一面がやっとだが、ジュリアス様の光の加護を経てからの、仕事となる。
「何かありましたか?」
「今日の昼の予定はあるか?」
「ごはん食べます」
キリアンの足が止まる。
「では、私と食べよう。話がある」
え、キリアン様とランチ!フラグ回収か?
「西の東屋…アルルで待っていてくれ」
アルルって三番目か、なんでわざと旧バレイア語で番号をふるかな?三番でいいのに。
「わかりました。あ、でもランチボックス、食堂で用意をしてから…」
「私が用意をしてある。身ひとつできたまえ」
「はい…楽しみにしていますね」
フラグ回収ではなさそうだ。従者の人から鞄を受け取り、キリアンと淑女科の前で別れる。
教室に行く手前の廊下で、早速マギリアが近づいてきた。いると思ってた。
「キリアン様なんだって?」
「何かお話しがあるようで、昼休みに会います」
「お昼をご一緒するのかしら?いいわ、付き合ってあげる」
うきうきしたマギリアに、きっぱりと断る。
「キュービス領の件かもしれません。マギリア様はご遠慮下さい」
「なによ、その言い方。心配してあげているのよ」
「他領の件になりますから」
「場所はどこ?」
うわ、付いてくる気か?それ駄目、絶対。
「キュービス侯爵家の保護下にある私がお話しできません。ご配慮下さい」
「マイオニー家だって、派閥の一端だわ」
あー言えばこう言う。いい加減うんざりしたところで、鈴を転がしたような愛らしい声がかかった。
「それくらいになさったら?マギリア」
振り返ると、つやつやとした薄い茶の髪に、利発そうなレンガ色の瞳をした少女が立っている。目立たない風に見えるけど、絶対可愛い。
「エリーチカ…」
「あまりに強引で、聞いていて見苦しいわ。コリンヌさんもお困りになっているじゃない」
「わ、わたくしは、コリンヌを心配して」
「それが余計なの。コリンヌさん、初めてご挨拶を申し上げます。マクシミリアン・ビンチョスの妹、エリーチカです」
エリーチカさん、ディードレスを譲ってくれた、マイクの妹さんか。確かに色味が似ている。小さくお辞儀をしてくれるから、俺も返す。
「コリンヌ・マイオニーです。ディドレスをありがとうございました。すごく可愛いくて、嬉しかったです」
「気に入っていただけたなら、良かった。兄も似あっていたと言っていたわ。これからは従姉妹としても、仲良くして下さいね」
望むところだ!可愛い子は大歓迎!
「もちろんです。ありがとうございます!」
「エリーチカ!」
「なぁに?マギリア、そろそろ授業が始まってよ。教室に入ったほうがよろしいわ。コリンヌさんまで、遅刻をしてしまうでしょ」
できるビンチョス兄妹は違う。
「では、私は失礼します」
「ええ、またね。コリンヌさん」
エリーチカさんのおかげで遅刻もせず、教室に入れた。
マギリアは不貞腐れた顔をしていたが、昼休みについてこなかった。ほんと、感謝しかない。
東屋三番に着くと、すでにキリアンが待っていた。従者の他にメイドもいる。わざわざ、連れてきたの?メシを食うだけなのに?
「お待たせしました。遅くなってすみません」
「いや、淑女科の棟の方が遠い、気にしなくて良い」
促されて木のベンチに座ると。少し大きめなバスケットからサンドイッチやサラダ、フルーツなどがメイドの手によってセットされる。控えめに言っても最高。
「まずは食べてからだ」
「はい!」
サンドイッチはパンが美味い。うちの実家ほどではないが、口あたりも香りも良い。具のチーズやハム、パテの塩気が最高だし、サラダはシャキシャキで、フルーツの黄色い瓜は驚くほど甘かった。お腹もいっぱいになって、メイドによってサーブされた紅茶で一息つく。
「ごちそうさまでした。あの…キリアン様、お話しって」
「ああ、まずはダンスレッスン授業の件だが、知っての通り、君はキュービス家の庇護下にある」
そうだね。キュービス領で毎回、頑張って加護使ってるよ。
俺はふんふんと頷く。
「私には君の面倒をみる責任があると思う。その…君さえよければ、ダンスパートナーを受けてもいい」
「え、キリアン様がですか?」
そんなイベあったかな。まぁ、確かに知り合いもいないし、今年は講師に頼もうかと思っていたくらいだから、正直助かる。
「わ、助かります!三年以内に実技を受ければ良いとのことでしたが、淑女科ですし、知り合いもいないので…マイク様にお願いしようかと思っておりました」
「そ、そうか、マイクは妹君と従姉妹に頼まれていると聞いた」
おお、それは大変だ。マギリアの相手まで…。
「キリアン様はよろしいんですか?私、ダンスは初心者ですし…人気もあるのに」
キリアンは首に手をやり、照れくさそうにする。
「下手な声掛けをして誤解をされても困る」
モテ発言かよ。でも侯爵家嫡男で顔良し、頭良し、スタイル良しなら、致し方無し。
「わかりました。私、誤解なんてしませんから、ご安心下さい」
大団円エンドに必要なのは親密度だから、それは友情でもいいよな!
「そ、そうか…」
少し眉を落したキリアン様が、思い直したように顔を上げる。
「それと、君に生徒会を手伝ってほしい」
「生徒会…ですか」
「ああ、今の生徒会役員は兼任が多く、手が足りない。仕事は難しいものではなく、プリントをまとめたり、集計作業などだ。だからと言って、希望者を募ったりすれば、別の目的目当ての者が押しかける」
確かに、両殿下は公務があり先日も休んでいたし、マイクも従者になって忙しそうだ。本来ならリュミエールやマリアベルも生徒会に押しかけて、無理やりにでも手伝っていたはず。生徒会メンバー目当ての輩を、追い出していたのも彼女たちだった。
あれ?そういえば、何であの二人、生徒会を手伝っていないんだ?
「お手伝いをしたい気持ちはやまやまですが、神殿での加護力を上げる勉強もありますし…」
うん。これが重要。忙しいジュリアス様に付き合っていただいて、教典講義を受け、実際に農地などに行き加護を施す。教典にかかれた祝詞を理解しないと、言葉にしても効力はない。これが難しい。
「そうか…空いた時間だけでも良いのだが…」
がっくりと肩を落とすキリアンを見て、あーこれは、かなりキテると思う。心なしか昼食を食べたばかりなのに、三日は食べていないように見えた。
寄子としては、親をあまり無下にすると、いざという時にヤバイかな…後ろ盾なしの平民だし。
「週一回から二回ほどでよろしければ」
「本当か!」
がバリと体を起こすと、嬉しそうに俺の手をとる。
「ありがとう、帰りが遅くなる場合などは、必ず送る、マイオニー家にはキュービス家から口添えをしておこう」
あ、それは助かります。マギリアがまた騒ぐからね。
そろそろ両殿下たちとも親密度を上げたい時期だった。ちょうどいい。
「キリアン様は良くしてくださっています。その一助になれれば嬉しいです」
俺はにっこり笑うとその手を握り返した。
* * *
誘えた。言えたぞ!
ダンスレッスンのパートナーを考えた時に最初に浮かんだのが、コリンヌだった。
初めて会ったときから、明るくて愛らしいとは思ったが、今まで会った市井の者と同じように、すぐに媚びたり迎合するのではないかと考えていた。
すべての者がそうではないとは、わかってはいるが、学園に入り周囲の目があからさまに変わる様には、恐怖を覚えるほどだったからだ。
お茶会の日にヴィンセント殿下に頼まれ、温室に加護を与えにいったコリンヌにつきあった私は、真剣に教典を諳んじる小さな口元。空のように青い真摯な瞳に、目を離せなくなった。自分の知っている子女達がもつ、美しいと呼ばれるものとは違う。
せっかくのドレスが汚れることを厭わず、膝をつき、両手を土に添える。ふわりと魔力の揺れを感じると、やわらかな日差しのようにオレンジ色の光が満ちる。
「きれいだ」貴族男子の嗜みなどではない言葉がもれるのを私は初めて自覚した。
これからは、生徒会、ダンスレッスン、全て一緒だ。
庇護だけではない、コリンヌが一助と言ったが、私は私のすべてをもって守護しよう。
コリンヌの手を握りしめながら、私はそう決めた。
コリンヌ~!にげてぇ
クーデレきました。
いや、ツンかクーはヴィンセント。




