どうせ上げる花火なら…
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「ガツンとやってやりましょう、エアリル様」
メイヤさんの怪我のことを聞いた私はそう言った。
リュミのお宅での刺繍会。わたくしは、シルヴァン殿下のハンカチ担当だったために、お邪魔をしていた時のこと。
最近のエアリル様の御人気は、学園に入ってから、留まるところをしらない。
要らぬ秋波が増えて面倒。そうおっしゃっていたエアリル様のご心配が形になってしまったのだ。
メイヤさんが眼鏡を壊して、リュミと帰ってきた。最初は「落としました」と言っていたそうだけど、メイヤさんの弟でもある、エアリル様の従者バルルーサさんがしつこく確認をしたところ、どうやら学園の図書室で、何冊もの本が落ちてきたらしい。走り去る足音は聞いたが、姿の確認ができなかったそうだ。眼鏡も壊れていたし…。
落ちてきた本で擦ったのだろう、メイヤさんの赤くなった患部をリュミが痛ましげに見ている。
「頭部にも落ちたようだから、僕の水の加護よりジュリアス様にお願いしようと思っていたんだが…留守にしていてね。今日中に連絡が取れればよいのだが…」
「エアリル様、私は大丈夫です」
きゅっと唇を噛んで、リュミが瞳を伏せる。
「メイヤが心を壊してしまったりしたら…」
「姫様、何をおっしゃっているんですか。心配のしすぎです。私はこんな事で心を壊したりしません。姫様がご無事で良かったです」
そう言って、わたくしより熟練度の高い指使いで、キリアン様の担当ハンカチに刺繍を入れていく。
「メイヤ…」
ゲームで悪役令嬢リュミエールは、メイヤを冤罪にかけ心を壊してしまう描写があった。本当のリュミは、もちろんそんなことを考えもしないし、姉妹のように仲が良い。それでも、どこか気にしてしまうようだった。
エアリル様はリュミとは背が違いすぎるので、姉上を美しく躍らせることができないとおっしゃり、今年のパートナーは、気心のしれたメイヤさんにお願いをしようと思っていたのだ。「来年なら、姉上より高くなっているから」と微笑んでいたのに。
「誰がやったのかもわかりませんが、メイヤさんがエアリル様のダンスパートナーを務めることを羨んでの行動なら、絶対にこのままにはできませんわ」
私の刺繍枠を見ていたメイヤさんが、そっと囁く。
「マリアベル様、山羊の刺繍部分が少し大きくなってますわ。姫様のものと比べると…」
「あら、どうしましょう」
「大丈夫よ。ヴィンセント殿下の山羊も合わせましょう」
勢いがついてしまったせいか、図案より少し大きい。
「マリアベル様、メイヤにも護衛を付けます」
エアリル様がそうおっしゃるのに頷く。
「ええ、それはいいわね。でも、今回のことを成功事例にはさせません」
「それは…」
首を傾げる銀髪姉弟の髪がさらりと揺れる。
「わたくしと踊ってくださいませ!エアリル様!」
「駄目です、ガーディ家ご息女にそんな真似を…」
メイヤさんが焦って止める。
「それよ!仲が良いと思っても公爵家息女のわたくしには、手が出せませんでしょう?わたくしには護衛もいますし、心配はありませんわ」
オロオロとするリュミ。
「エアリル、どうしましょう!今年はわたくしと…」
リュミの家の客間が慌ただしくなった時だった、ドアからノックの音がする。エアリル様が誰何の声をかけた。
「ジュリアス・ハイン様が、お見えになられております」
「良かった、こちらに案内を頼む」
メイドに通されたジュリアス様は、外出用のカソックコートを身に着けていらした。連絡を受け、出先から直接来たとのこと。
「遅くなりました。怪我をなされた方がいるとか…」
「ご足労をいただいてすみません、わたくしの侍女が…」
事情を聞いたジュリアス様は金の髪を一つに括ると、メイヤの頭部から、傷のある目元までゆっくりと手をかざす。
「気持ちが悪いとか、めまいはないですか?」
「はい」
銀色の瞳がオパールのように光を揺らぐ。
「外傷だけのようですね。でも、淑女に傷を残すわけにはいきませんから、治癒魔法をかけます」
治療は三分ほどで済む。
「良かった。いつもの可愛いメイヤだわ」
「姫様ったら」
ほっとしたように、微笑むリュミに、ジュリアス様も相好をくずす。心配だったのか、バルルーサさんも肩の力が抜けていた。
「大丈夫かと思いますが、何かあったら、すぐに神殿へ来て下さい」
促されるままにソファーに腰掛けたジュリアス様が、すみに除けてあった手芸道具に目を向けた。
「メイヤさん、今日は細かい作業は駄目ですよ。早めに休んでくださいね」
「す、すみません」
メイヤさんが小さくなっていた。
パーラーメイドがお茶を煎れてくれると、学園での話になった。ジュリアス様は神殿や学園で見かけることがあったが、失礼ながらゲームの年上ナンパ男キャラのイメージだった。しかし、実際にお会いしてみると、おしゃべりが上手な、穏やかイケメンだとわかる。
「では…エアリルのお相手は決まっていないのですね」
「ええ。メイヤには来年頼もうと思っております。今回は…」
「わたくしが務めますわ!」
「え、マリアベル嬢がですか?」
ジュリアス様が、吃驚したのか目を瞬かせる。
「いいですわよね、エアリル様、ガツンとやってやりましょう!」
決めかねていたのか、エアリル様が「しかし…」と首をふる。
「公爵息女であるわたくしなら、誰にも文句は言わせません。どうせ上げる花火ならでかいほうがイイですわ!」
「花火…」
ジュリアス様が、突然吹き出す。
「くく、たしかにでかい花火ですね。エアリル、どうです?お願いをしてみては」
笑いをこらえ切れていないジュリアス様が問いかける。
「女性から、こんなにも熱烈なアプローチをいただいているのに、お断りは良くないですよ。私も何かあった時のために、気を配りましょう。学園への報告もまだですね?学園長へは私から言っておきます。今後は警護の問題もありますからね」
心強いジュリアス様の言葉もあり、エアリル様も頷いてくれた。
「では、マリアベル様、改めて申し込みます。私と一曲、踊っていただけますか?」
マホガニーのテーブルをはさみ、エアリル様が艶やかに微笑みながら左手を胸におき、右手を差し出した。少年らしい中性的な魅力がうりだったゲームのエアリル様がいる。不覚にもキュンとする。
「喜んで」
ちょん、とエアリル様の手へ右手を乗せた。
* * *
こうして、エアリル様と実技試験を受けたが…でもそれが、シルヴァン殿下からのお誘いも受けることになるとは、夢にも思わなかった。
リュミとこっそり学園の廊下の隅で、緊急会議を開く。
「マリアにシルヴァンフラグ…」
広げた扇ごしにリュミが呟く。
「違うわ、あれはエリザベスがやらかしたからよ!」
学生講師なんて聞いたことはない。侯爵令嬢があんな形で立ったら、高位貴族の嗜みとして誘わざるを得ない。他の下位令息は誘えないのですもの。でも、誘わないわけがあったのだろう。
「たしかに…両殿下で踊られたのも…考えられますわね」
「試験をパスするために、三曲を毎回一緒に踊れないでしょ?そうなると次は、エリザベスより高位の令嬢である私に助けを求めたとみたわ!クラスメイトですし!」
「なるほど…」
ふむふむ…とリュミが頷く。
「お二人とも、なかなかの策士ね。でも、うちの親類がやらかしたことですもの、責任はとるわ」
「でも…」
「大丈夫。ダンスは得意なの、ちゃんと務めてみせる」
授業の合間の休み時間だったため、予鈴が鳴った。
「あ、次は移動なの、行くわね」
「ええ、またね」
小さく手を振ると、踵をかえす。
マリアの小さな背中を見つめて、わたくしは呟く。
「マリア、私にはとても真剣に思えたのですけど…」
久しぶりの女の子回でした。楽しい!
投稿が遅くなってしまいすみません。
言い訳とかは書かないぞ、と心に決めていたのに、
心が折れるほど、ホームルーターの調子が悪い(泣)
近いうちに替える。ぜったい。




