報告とジャムクッキー
お疲れさまです。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!!
生徒会室に戻ると、昼食を終えた両殿下がカフェを飲んでいた。気を利かせたマルカが、俺の前にも置いてくれる。
「ビンチョス、昼食会はどうだった?」
シルヴァン殿下が、興味深げに聞けば、一人掛けに座るヴィンセント殿下も僕に視線をよこす。
「従妹であるマギリア・マイオニーにダンスレッスンのパートナーを頼まれました。と言っても妹とかけもちですが…」
マルカが、ああ、と納得をしたようにスケジュール帳を取り出す。
「そういえば、そんな時期ですね。今年は両殿下とも受講をして下さい。去年みたいにパートナーを決めるのが面倒とか言わないで下さいよ」
王立学園のダンスの授業の時間は、必ず受ける必須科目として入っている。これは卒業時の夜会参加のための履修登録にもなっていて、市井の者などには初心者も多いが、卒業までに実技は三曲、試験を落とさなければ、取れる単位でもある。
これで必要なのはパートナーだけだ、婚約者のいる者は相手の心配はない。まだ決まっていない者は、意中の相手にパートナーを頼むことで、アプローチのきっかけになるから、実技試験の一曲だけてもと、声掛けをする者も多い。
「実は、エアリルから相談をされました」
この話を聞いたのは二日ほど前のことだ。エアリルに人払いをされた席で相談をされた。
「マイクに話すということは、君の加護をあてにしたと思われても仕方がない。嫌だったらここで断ってほしい。友を失いたくはないから」
エアルから加護をあてにされたことなど一度もない。エアルはいつでも真摯に、僕のただの友人であろうとしてくれている。
「話してみなよ。エアル。親友だろ」
エアルは困ったように、それでも口元を嬉しそうに歪ませて頷いた。
「図書館にてリュミエール嬢の侍女が突然、不自然に高所にあった本が何冊も落ちてきて、怪我をしました。図書室に本を返しに行った二人は、少しの間離れていたらしく、護衛はリュミエール嬢と別の場所にいたそうです」
初耳だったのか、殿下たちの後ろに控えていたアイシュア様も眉をひそめる。
「嘆かわしいことですが、従妹のマギリアとスルツ伯爵令嬢が、関係をしていたのではないかと…王城でのお茶会の件は、マギリアが他家の令嬢へと話したことが発端になっており、スルト家の耳に入ったのでしょう。マギリアはその後も何度か高位貴族の茶会に呼ばれています。その頃からスルツ伯爵令嬢とは懇意になったと聞いております」
セバスがマギリアの最近文通を始めた令嬢たちの名前を挙げてくれた。さすがに中身までは確認はとらなかったが、学園に通い始めたことで、友人も増え、宛名だけでは特定ができなかったそうだ。
「なぜ、スルツ伯爵令嬢がレイクツリー家の侍女に?リュミエールを狙ったものではないのだな」
自然にヴィンセント殿下が口にだした名呼びに、少し気持ちがざらついた。
「…少し前から、エアリル宛に釣書と恋文めいたものが届いていたそうです。すでに断りはしています。リュミエール嬢を狙ったとも考えられますが…」
ヴィンセント殿下が思案気に足を組み替える。
「実行をしたのが彼女たちなのかは、わかりません。図書室の一番上の棚は高いですから…護衛を使ったかもしれないです。ただ、メイヤ嬢が図書館にて怪我をした件は、スルツ伯爵令嬢が関係していると思われます」
カフェで口を湿らせる。温くなってしまったがそれがちょうどいい。
「エアリルのダンスレッスンでのパートナーを、メイヤ嬢が務めると聞きつけたのでしょう、食堂でその話をした時の二人はたしかに動揺をしていました」
「スルツと言えばスルト侯爵家の筆頭寄子だったな」
「はい。スルト家から一文字抜いた家名を許されていたはずです」
マルカがよどみなく答える。
「またあの女がらみか…」
シルヴァン殿下が心底いやそうな顔をした。
「今のところ、スルトは騎士団長として大人しくしているようだ。息子は第三にまわしたが、娘もあれ以来、王城には顔をだしていない」
ヴィンセント殿下の言う通り、第三にまわされ、今は地方巡りだ。戻りは三か月後か。
エアリルは自分が原因で姉と侍女に何かあったら…と悩んでいた。
アイシュア様が難しい顔をしている。
「アイシュア、スルト家が絡んでいたとしても、お前には関係がないよ。その要因は俺たちにあるのだろう。とはいえ、スルトとは縁を選ぶつもりはないがね」
アイシュア殿の顔色を読んだのか、シルヴァン殿下がきっぱりとそう言った。
「エアリルは女性の護衛を増やすそうです。今後の憂いは減るでしょう」
少し布石も打ってきたし。
「ところでビンチョス、そのバスケットはなんだ」
うわ、シルヴァン殿下、目ざとい。
「エアリルにもらいました」
蓋を開けると、アイシュア殿から「あ、」と言う言葉がもれた。
「知っているのか」
「ええ。岩イチゴをつかったジャムクッキーです。よくレイクツリー家からいただきます。手製だったかと…」
「そうか」
それだけ言うと、なんの躊躇もなく、シルヴァン殿下が赤い方を口に放り込む。
「あ、駄目ですよ。私かビンチョスが食べてからじゃないと…」
ねぇ?って顔でマルカが僕を見るけど、毒慣らしは済んでいるとはいえ、得意ではない。
「公爵家が毒を盛るなんて、考えられないだろ。出自のしっかりしたクッキーだ」
「形式美って知ってますか?シルヴァン殿下」
「黄色はなんだ?」
「レモンです。私はそちらも好きです」
少し、目元の和らいだアイシュア殿が答える。
「そちらは大丈夫でした。僕も食べましたから」
「マルカ、カフェを人数分煎れなおしてくれ。カフェと食べたい」
ヴィンセント殿下のおねだりにマルカも苦笑いだ。
…二分の一、メイヤが入っているとは、とてもじゃないが、言い難かった。
ジャムクッキー、好きです(笑)
思ったより、前置きがのびましたが、
次回は踊ります。




