友人とのランチと布石
お疲れさまです。
いつも読んでくださって、ありがとうございます。
嬉しいです。
エアリルと待ち合わせをしたのは、食堂前。
先日、エアリルが食堂に行ってみたいと言っていたので、早速予定を合わせた。
できれば、純粋に食事を楽しみたかったが、色々な布石を打つべき問題が起きたこともあり、エアリルと一計を案じたのだ。
友人に少し奥まった壁側の、護衛をしやすい場所を取っておいてもらう。ついでに周りも固めてもらった。皆、口の固いやつばかりだから、エアリルが到着するまではばれないだろう。
人のざわめきがエアリルを連れてくる。バルを後ろに従え、口元には我関せずの柔らかい微笑み。僕を見つけると、少しばかり目元を緩めた。
「待たせたかい?」
「いや、時間通りだよ。席は友人に頼んで取ってあるから…今日はAが夏牡蠣のフリッターで、Bが牛のロティ。ベリーソースがけ、スープはオニオンスープ」
「僕は夏牡蠣で、バルはロティかい?」
「はい。私が注文し運びましょう…マイク様はいかがなさいますか?」
おや、先日の街歩きから呼び名を改めたようだ。様はいらないんだけど…。
「じゃあ、Bを頼むよ。バル」
「承りました」
人垣を抜けるまでもなく、自然に人がわれて道ができる。すごいな公爵家。
「リュミエール嬢は良かったのか?」
「ああ、姉上も来たがったが、姉上が来るとマリアベル様もいらっしゃるだろう。そうなると…やんごとなき方々も顔をだすと思えないかい?」
食堂から人がいなくなるかもしれない。
「それに今日は、友人と楽しみたい」
「ふはっ、楽しめるように頑張るよ」
人気のメニューや、サロンとはメニューが違うとか、取り留めのないことを話す。少し待つと、バルが友人の手を借り、食事を運んでくれた。
「そうだ、今日はデザートを持ってきているんだ」
そう言って、バルの持っていた小さなバスケットを開ける。
「分けてもらってきた」
ジャムクッキーが二種入っていた。赤いジャムの乗ったものと片方はマーマレード?
「美味そう…だけど」
「クリームが苦手な僕のために姉上のお手製なんだ。苺はゴーティ家のものだよ」
「二分の一の確率でうちの姉が入って(手伝って)ます」
バルが補足する。色々と問題がありそうなクッキーだ。
「あーこれを少し分けて頂くことは?」
「もちろんだよ。少し多めに分けて頂いたからね。毒見はいる?」
「いや…いい」
食事を半分ほど終えたあたりで、声がかかる。
「マイク!食堂にいたのね」
従姉妹を釣り上げた。
「やあ、マギリア。これからかい?」
「ええ、ご一緒しても?」
マギリアの隣にはスルツ伯爵家のエヌメラ嬢。なるほど、彼女だったか。
「悪いけど、今日は友人と一緒でね。席も空いていない、またの機会にでも」
「そんな、いいじゃない。ねぇ、あなた、もう食べ終わっているなら譲って下さらない?」
バルが護衛だと知っているらしく、バルには頼まなかった。友人は目くばせをすると席を立った。
「どうぞ、お嬢さん。マイク、また後でな」
「あら、お友達だったのね。ごめんなさい」
僕らの了承を得る前に、マギリアは友人と座る。
エアリルに見入ったままのエヌメラ嬢の不躾な視線をいなし、エアリルは食事を進めた。
「あの…マイク、ご紹介はして下さらないの?」
「ああ、エアリル、従兄弟のマギリア・マイオニー、お隣は…?」
「エヌメラ・スルツですわ。レイクツリー様にはごきげんよろしゅう」
「スルツ伯爵令嬢か、たしか同じ薬草学をとっていた」
やっと瞳を合わせてもらえた、スルツ伯爵令嬢の声が震える。
「は、はい、我が領でも薬草が多少とれますので」
「マギリアはコリンヌの義姉にあたります」
「先日、コリンヌ嬢には会ったな。王家の温室を加護力にて救ったと聞く。明るく元気なご令嬢だった」
「ふは、本人はかなり猫かぶってたらしいけど」
「あれでかい?」
くくっと僕に寄りかかり笑いをもらす。マギリアたちには非常に仲が良さげに見えただろう。
「あ、あの、マイクにお願いがあったんだわ、私」
なんだい?と言いたげに首を傾げる。話だけでも聞いてあげるよ。
「ダンスレッスンのパートナーをお願いしたいの、ほら、わたくしの親しい男性と言えばあなたしかいないし」
その件か。親しいと言われれば、親戚だしなぁ。
「ごめんよ、マギリア。エリィとパートナーを組むんだ。エリィの婚約者は学園内にいないから、頼まれているし」
「そんな…エリーチカは妹じゃない」
それを言うなら、きみは従姉妹だよ。
「お願い。あなたと踊りたいの」
「そう言われても…講師にお願いするとか?」
パートナーのいない者は、講師に頼むことができる。でもそれは二曲まで。三曲全部頼むと、それはそれで人付き合いに問題ありとみなされる。頼める友人関係がないのかと。反対に学園授業であっても、三曲踊れるのは婚約関係にある二人のみだ。
「レイクツリー様はお決まりですか…そのお姉さまと」
それまで大人しかった、スルツ伯爵令嬢が勇気を振り絞りました。みたいにエアリルを見る。
「姉上とは、身長差があるからね。私では姉上を引き立てられない。姉上には頼んでいないよ。メイヤ…姉の腹心の侍女に頼んでいたのだが…先日、図書室で怪我をしてね。まだ考え中なんだ。ああ、バルが姉上の相手を一曲は努める」
バルはなぜか俺を見て礼をとる。
「メイヤさんが怪我を?それはリュミエール嬢もご心配だろう。リュミエール嬢は大丈夫なのかい?」
不自然な棒読みになってないよな。
「ああ、護衛を増やしたからね。メイヤにも…付けることにした」
それを聞いた二人は、明らかに落ち着かなくなり、瞬きも増えていた。
警告はしたよ。
「それよりもマイク、せっかく従姉妹がお誘いをしてくれているんだ。エリーチカ嬢のついでにお受けしては?」
悪意のない提案だ。僕はふきだしそうになるのを我慢した。
「そうだな。まとめて面倒をみるか…マギリアどうする」
「……お…願いするわ」
僕は承諾の意味を込めて頷く。
「エアリル様、次は移動ですのでそろそろ」
バルが温度のない声音で告げる。
姉に怪我を負わせたかもしれない者が、隣で食事をしているのだ、平常心ではいられないだろう。
「そうだね。マイク今日は楽しかったよ。来週の晩餐は肉料理をたくさん用意しよう。君の好きな紅茶も」
「楽しみにしている。あ、クッキー…」
「バスケットごと持っていってくれ。私のおすすめはレモンジャムだよ」
揶揄い交じりに眦を下げて微笑う、その表情はリュミエール嬢を思い出させる。
「ん、ありがとう」
エアリルが去った後の食堂は、緊張感が霧散したかのように、いつも通りの食堂に戻った。
「僕もそろそろ戻るよ。生徒会室に殿下方をお待たせしているんだ」
この危険物を早く届けなければ。
「え、ええ、そうね。マイクは忙しいんですもの」
「ビンチョス伯爵令息、是非あなたを、我が家のお茶会にご招待をしたいの」
エアルと縁をつなぎたいのか、微笑んだスルツ伯爵令嬢が、そんなことを言い出した。
同格の爵位である。ここで断っても何の問題もないが…。
「ありがとうございます。最近は所用が多く、予定が合えば是非」
如才ない笑顔で答える。たぶん、予定は合わない。
生徒会室に向かう前にレモンクッキーをひとつ口に入れる。
少しほろ苦く、甘かった。
少し、謎をふくみました。次回できちんと
ご説明をできるかと…思います。できるかな(笑)
さて、40回目です。ここまで読んでくださって、
本当にありがとうございました。
これからも頑張ります!




