男たちの社交
マリアベルとリュミエールが、お茶会をしている時のお兄ちゃんと弟です。
マリーとリュミエール嬢を四阿に送ると、エアリルの手を引きながら、どこの派閥に連れて行くかを考える。
ガーディ家の寄子派閥に連れて行くのは容易いが、レイクツリー派閥から見れば、自分のところの若様が、他の派閥に囲まれているのは気分がよくないだろう。
「アイシュア様」
呼ばれて振り向くと、ビンチョス伯爵家の三兄弟が立っていた。
三人とも同じ色合いで、顔だちもそっくりだ。
「こちらにおいでだったのですね。ぜひ兄弟たちを紹介させて下さい」
次男であるアルバルトは外国語教師が一緒で幼学院からの友人だった。
「嫡男のクノンスと末弟のマクシミリアンです」
「「よろしくお願いします」」
大中小、揃って頭を下げる。
「アイシュア・ガーディだ。クノンス殿にお会いするのは初めてだが、よろしく頼む。マクシミリアンはアルトによく似ているな」
「アイシュア様こちらは…」
「ああ、エアリル殿」
紹介をしようと少しエアリルを押し出すと、エアリルが胸元に左手を置き、口を開く。
「ミンスト・レイクツリーが息男、エアリル・レイクツリーです」
姉の前とは違う、しっかりした口調と整えられた態度に顔には出さないが吃驚した。
「レイクツリー公爵家の…失礼をいたしました。さすがお小さいとはいえ、公爵家のご嫡男ですね。お幾つですか?」
「五歳です」
「マイクと三歳違いですね。ぜひ、仲良くしてやって下さい」
エアリルは頷いた。
「アイシュア様、椚門の近くで蜂を見かけました。小さいご淑女には少々危険かと…エアリル様もお気をつけください」
「ありがとう、また授業で会おう。ああ、後で前にアルトが言っていた、旧バレイア語の辞書を届けさせるから受け取ってくれ」
「え、あんな貴重な本を…ありがとうございます!」
「うちの図書室に同じものを見つけたんでな。では」
「はいっ」
ビンチョス兄弟から離れると、エアリルが俺を見上げていた。
「どうした?」
「ビンチョス伯爵家のものたちから、何をお聞きになっていたんですか?」
その場で聞くこともなく、ちゃんと家名や爵位を理解しているらしい。
「ビンチョス家は耳が良い。たぶん何かの加護を得ているんだろう。愛想もよく、周囲から浮くこともしない。そのせいか情報も早い」
「なるほど…」
「末弟のマクシミリアンに至っては、すでに殿下たちの覚えもよい。ああ、友人のアルトは語学研究が趣味で、とくに旧バレイア時代の書物には目がないんだ」
ここまで言えば、あとはエアリル次第であったが、かみ砕いて説明をするまでもなかった。
「アイシュア様、ありがとうございます。マクシミリアン様とは仲良くします。どうぞ僕のことはエアルとお呼びください」
「エアル、姉君の前では様子がちがうのだな」
エアルは俯いて言葉を選んでいるようだ。
「生まれた頃から体の弱かった僕に、リュミ姉様は友人を作るべき王都の幼学院にも入らず、領地で療養をする僕とずっと一緒にいてくれました。僕は体力がない分、人より記憶力が優秀らしいです。でもリュミ姉様は僕が子供らしくないと心配をして少し不安になるみたいです」
五歳は子供だが…リュミエール嬢の気持ちが分かる気がした。マリーが使用人たちや、領民たちへみせる、しっかりとした口調の泰然な態度は、自分にみせる表情とまるで違うことがあった。
「俺もマリーがあまりに早く貴族淑女になられたら、寂しい気がする。マリーは公女である前に、俺の妹だからな」
エアルは何かに気が付いたように顔を上げると、子供らしく微笑む。
「次はどなたをご紹介してくださるのですか、先ほど拝謁をしましたが、僕は王家の方々とお話をしてみたいです。リュミ姉様に近しくなる可能性がありますから」
「ヴィンセント殿下は王城で剣の師匠が一緒だ。行こう」
「そう言えば、椚の下にいる蜂は群青色ですか?」
「よく知っているな」
叔父上のところ紋章だ。家とはあまり親しくはない。
「リュミ姉様に長男の釣書が届いてましたから」
「マリーにもだ。女性の趣味は良いらしい」
二人して顔を見合わせるとニンマリする。
「そちらから駆除しますか?」
「そうだな。手伝ってくれるか?エアル」
「勿論です。社交しなくちゃですね」
どうやら、マリーだけではなく俺にもかなり優秀な社交仲間が増えたらしい。
次は最後の悪役令嬢のターン(笑)




