ヴィンセントの帰還
お疲れさまです!
いつも読んでくださって、ありがとうございます!!
アスパーニャ国の離宮、寵妃宮の煌びやかな贅を凝らした一室に、女性の怒声が響く。
「何で見つけられないのよ!あんなに目立つ容貌の二人よ、ホテルには問い合わせたの!」
何名かの従者の中から、年かさのいった者が恐る恐る答える。
「偽名だったようです。あの二人に会った店で、二人が買ったとみられる商品の送り先を、調べさせましたがそんな住所はなく、万が一にと港に問い合わせたところ、あの晩に一艘のみ出航したと報告が…」
「あれだけ、海が荒れいていたのよ。出るはずないでしょ、もう一度探しなさいよ!」
喚き散らし、もっていた扇子を、カルナラ・オブラ・アスパーニャは従者に投げつけた。
「カルナラ、その辺にしなさいな」
側で見ていた着飾った母親に窘められたものの、憤りは収まらない。
初めて店で見た時から、欲しくなったのだ。美しい金の髪、瞳はアスパーニャの海の青。
寄せられた顔は端正であった。切れ長の目元、国にはいない、白い陶器のような肌。薄い唇に低く甘い声がのると、言った言葉は下品であったが、それだけでも腰が抜けそうになった。
「海外からのお忍びであったかもしれないわね。もし、港に顔が利くとなれば、相応の貴族だわ」
「…!お母様、わたくし…」
「いくつかの国をまわってみれば宜しいわ。お父様には伝えておきましょう。見つけたら、今度こそ逃しては駄目よ。その体と愛らしいお顔で摑まえるの」
「カルナラ一人では心配だわ。わたくしも付き合ってあげる」
不意に割り込んだ声は、母の隣でのんびりとお茶をしていた妹のミネアだった。
「ミネア…あの男は私のものよ」
たおやかな指先でカップを持つ、赤毛のカルナラとは違う黒髪の美しい妹を睨む。
「見つかってもいないうちから、怒らないでカルナラ」
「ミネアも一緒に行くなら仲良くね。この国の貴族にはいないような、金回りの良い男を摑まえてきてちょうだいね」
「はぁい。お母様。金髪の男には近づかない。それならいいでしょ?カルナラ」
「…仕方ないわね」
不承不承ではあるが頷く。妹は悪知恵が利く。味方であれば心強いのだ。
**
兄上が到着したのは、出航の知らせを聞いてから翌日の夜中であった。
「兄上!」
「シルヴァ、来たのか」
船から降りた兄上は足元が少しふらついている。
「詳細は親書から確認をしたけど、ひどい目にあったな。陛下たちも心配をしていた。報告は明日で良いと」
「わかった。爺ぃ今日はもういいよ。シルヴァがいるから」
「承りました。失礼いたします」
気配を消すラディーチェは、俺はどこにいるのかわかるが、兄上には把握は難しい。俺の視線のさきに、兄上は手を上げた。
「細君によろしく言ってくれ」
馬車に乗り込むと、兄上から甘い匂いがした。これは香水などではない。
「果物の匂いがする」
「港まで向かったのが、バナナを運ぶ馬車だった」
「ふは、控えめに言っても最高だ。あとで話してくれ」
「ああ、なかなかの冒険譚だった。お礼を考えなくては…」
港から王城までは一刻ほど、用意をしてあった軽食と果実水で、兄上は一息ついたようだ。疲れているのだろう。うつらうつらとする。
「揺れるが、少し眠ったほうがよい」
兄上が何度か頷く。
「次は俺も同行しよう。任せてもらえるか?」
「近いうちに…」
眠ったらしい。
「片割れの受けた礼は、必ず私が返そう」
その翌日、久しぶりに二人で学園に登園すると、リュミエール嬢を兄上は生徒会室へ呼び出した。
「先日、訪問を受けた時には失礼をした」
兄上の手元には、薄い紫色のシルクハンカチ。金糸で月桂樹の縁取りにイニシャル。封蝋と同じデザインの陰陽、その両端に佇む小さな二匹の山羊。
俺もハンカチ地の色違いのものを受け取る。
デザインは似ているが、俺の山羊はSの文字に上っていた。作ったのは、マリアベルだった。
「…私たちは紋に山羊を使っていると公表をしたことはないが、何かの偶然で知っていたのか?」
俺が思った疑問を、兄上はリュミエール嬢にする。
「いいえ。でも、美術館でエレヘス様の絵から、しばらくお動きになられませんでしたから、お好きなのかと」
「ああ、どんな断壁であろうと無事に降りてくる。平衡感覚に優れ、群れを好み、家畜としても有効。角も立派だ」
リュミエール嬢は目を丸くし、思わずといったように微笑む。
「ふふ、エレヘス様ですわ」
「…そうだね。好む神ではあるかな。ありがとう、大切にしよう」
「お言葉、嬉しく思います」
「リュミエール、私は無事に戻った」
「はい?」
「体調が悪くて学園を休んでいたが、無事に戻れたんだ」
兄上が言葉遊びのように仄めかした言葉に、リュミエール嬢は、美しいカーテシーと共に口にした。
「…御快癒お喜び申し上げます。お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま」
家族の前以外ではめずらしく、その時兄上は、心からの笑みを浮かべていた。
**
その日の課題を終え、コリンヌは一つ伸びをする。
「淑女科とはいえ、勉強はあるんだよね」
高校生をやり直している気分。いや、実際やり直しているのだ…机の引き出しを開け、日記帳を開いた。色々書き込みもしてあるし、万が一も考えて、中身は日本語で書いてある攻略イベント表。
なかなか予定通りにはいかないが、確認をするのが癖のようになっていた。
「近いうちにダンスレッスンイベがあるけど、誘われないだろうな。こっちから頼むか…マイクかキリアン様あたり誘ってくれないかな」
色々考えているうちに眠気もでてきた。
「そういえば、追加であった二人の悪役令嬢イベは夏前だったよね」
ある意味、恋のスパイス的に入った、ヒロインになるはずもない本当の当て馬令嬢であった。
「それに、性格が悪すぎて、俺は好みじゃなかったなービジュもマリアとリュミエールの方が、断然良かったし」
だめだ、本格的に眠い。
「まぁ、来てもコリンヌ様が返り討ちにしてやろう」
ベットに潜り込むと、夢もみずに眠りについた。
気が付けば、あともう一話で40話です。
あとがき何を書こうか、考えておかねば(笑)




