マリアベル ビ-ラヴド
お疲れさまです。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!
邸宅に馬車が着くと、馬車止めに大ぶりなゴーディ家の馬車が止まっていた。昨日乗ったばかりだから、間違いない。
「マリアではないわね。アイシュア様かしら?」
マリアが使っているものは、もっと小ぶり…と言っても、家のものくらいはあるけれど、小さい。
「お嬢様、ゴーディ家のアイシュア様とマリアベル様がお見えになられてます。アイシュア様はエアリル様と共に執務室へ、マリアベル様は応接室にてお待ちです」
ポーチで出迎えてくれた執事が、わたくしから帽子を預かりながら告げる。
「あら、待たせてしまったかしら」
優雅さを損なわない急ぎ足で、メイヤと玄関ホールをくぐる。
「マリアベル様は、自分はお約束をしていないので、お気になさらずと…」
と、いうことはアイシュア様だけ、エアルがお約束をしていたのね。
「このまま向かいます」
バルが応接室の扉を開けてくれた。
窓辺に立つマリアが「リュミ!」と少し焦ったようにわたくしに駆け寄る。
「ごめんなさい、急に訪ねてしまって」
「いいのよ、わたくしこそ遅くなってしまって…何かありましたの?」
「…少しね。お話しできるかしら?」
もちろん承諾しかない。
「東屋でお話ししましょうか?」
これは二人きりでの合図である。部屋だとメイドも護衛も立っているが、東屋だと人払いもしやすい。距離も離れているので唇も読まれない。パーラーメイドに東屋にお茶を用意させるように伝える。
「バルもメイヤも今日はもう戻って。休日なのだから」
これに否はない。きっぱりと告げると二人は礼をとり、部屋を後にした。
東屋には風よけもあるし、日はまだ高い。
「王都街にお出かけをしていたと、執事に聞いたわ」
降るようなライラックの花びらをまとうマリアは、本当に愛らしいけど、やはりいつもの快活さがないように思える。
「ええ、昨日話したハンカチの手芸糸を見にいったのよ。手持ちの色が足りないから」
「そう、お兄様の分は…」
「もちろんマリアにお願いをしたいのだけれど…本当にどうしたの?」
薄紅色の唇をきゅっとかむ。
「お母様がご懐妊をなさったの」
マリアのお母さまは三十七歳くらいだったかしら?たしかに今世では遅いかもしれないが、あり得ない話ではない。出産に不安があったとしても、今世には神官も医師もいる。マリアの横に座り、背に手をおく。
「ゴーディ家のためにも、おめでたいお話しだと思うわ」
「ええ、本当に嬉しいの。妹や弟は昔から欲しかったし」
「なら…」
大きなグリーンの瞳から、涙が溢れそう。
「自分が…浅ましくて…」
「マリア?」
「これで、もしかしたら、お兄様と…と、考えてしまったの、良しとされないだけで、一緒になるのが認められていない世界ではないから…跡取りの問題がなくなるって、生まれてくる妹や弟のことを考えなかった」
それは…マリアはマリアベルになる前から、アイシュア様のことを慕っていたわけだし、まだ生まれていない弟妹のことまで、考えられなかったとしても仕方がないと思った。
「お父様から、お母様のご懐妊の話しを聞いた時に、真っ先に考えたのは自分のことだったわ。でも、お兄様がおっしゃったの『守る家族が増えるのなら、俺も腹を括る。嫡男としてゴーディ家、一族。領民を守ります』と、お兄様はいつも、周りのことを一番に考えているのに、浅ましかったのは…私」
「マリア…!」
ぎゅっと抱き寄せれば、ぽろぽろと溢れる涙が服をぬらす。
「浅ましくなんてないわ。ずっと好きだったんですもの…本当にとても大切に思ってらしたのだから」
「リュ…ミ…」
初めて会った時に泣いてから、マリアは泣かなくなった。癇癪をおこして泣いて、相手を困らせる昔の自分ではないからと。先日の馬車の中でだって我慢をしていた。
「公爵家の嫡男である前に、お前の兄であるって言ってくださっていたもの…」
言葉にできない思いがたくさんある。
「そうよ。マリア…」
「ずっと…お兄様だもの」
私は東屋で彼女を抱きしめることしかできなかった。
姉様が戻ってきたと、報告を受けてから、窓から見える離れた東屋を、僕はずっと注視していた。
寄り添う姉様とマリアベル様は、先ほどからお茶を飲むわけでもなく動かない。
話したかぎりでは、アイシュア様は今後、ゴーディ領を継ぐ者として動くそうだ。スルト侯爵家には一切立ち入らせない。考えをを巡らせれば、それが一番良いことなのだけれど…継ぐとなれば、今後のことも考えて、それなりの伴侶も必要になる。
「父とも話したが、エアルの用意してくれた草稿を使わせていただこうと思っている」
しばらく書面から顔を上げなかったマリアベル様とは明度の違う、深い緑の瞳が僕に向く。
「それは良かったです。家はもう送ってありますから、両家から出せば牽制くらいにはなりますからね」
「ああ、このままでは、マリーに良からぬことも起きかねない。これから生まれてくる妹か弟にも」
「そうですね」
アイシュア様は一番にマリアベル様のことを考えるくせに、これで良いのかと思う。兄妹婚は最近、良しとされていないだけで、今でもたまにみかける。大きな問題は跡取りだけど、それも解消される。昔からマリアベル様の思いは、あんなに透けて見えているのに。
まぁ、僕も姉様と…と言われれば、姉様のことは大好きだけど、それはお互いにちょっと違う感情だとわかっているから、難しい問題なんだけど。
「時間を取らせたな、そろそろマリーを…」
「マリアベル様なら、姉上と歓談中のようです」
アイシュア様が立ち上がり、僕の後ろから窓を見る。
「何かあったのか?」
「さぁ、でも、あの年代の女性には色々あるのではないでしょうか?」
「泣いてないか?」
目がいいな。
「流行りの恋愛小説でも読んでいるのでは?」
挨拶もそこそこに飛び出そうとするアイシュア様をやんわりと留める。
「風が冷たくなる前に、邸には戻らせます。もちろん、帰りは僕が送らせていたきますから。今はこのまま」
「しかし…」
無自覚の溺愛は質が悪い。
「姉上の泣き顔を見る気ですか?止めて下さい」
「え、泣いているのはマリーでは?」
「こんなに遠ければわからないでしょう、二人で感動して泣いているのかもしれません」
舌戦で僕に勝てると思わないでほしい。
む、や、でも…と繰り返すアイシュア様には早々にお帰りをいただく。風が冷たくなってきた。暖かい部屋に戻り、甘いミルクティーを用意するから、早く温まってほしい。晩餐はマリアベル様のお好きな、鳥とポロ葱のグラタンにしてもらおう。何なら、今日は泊まっていただいて、明日は我が邸から登園をしてもかまわない。マリアベル様付きのジェシカに連絡を取れば、用意をしてすぐさま飛んでくるだろう。
アイシュア様は強く優しい方だけど、ちょっと鈍感だ。
いや、違うな。恋愛にだけ鈍感なんだ、人や魔物の機微には敏感なくせに。
もっと早く、マリアベル様の思いに気が付いて、もう少し距離を取って差し上げれば…。
「エアル?」
僕の視線に居心地悪さを感じていたのか、訝しげに名を呼ぶ。
「戻ってから、草稿を清書して、スルト侯爵家に早々にお送りください。時間はありませんよ。詫状が届く前にですからね」
「わ、わかった」
見送りは執事に任せた。
僕は、早く二人に声をかけに行かないといけないから。
本日はお休みをいただいていたので、少し早めです。
タイトルがカタカナにするか、英語にするかで迷い
そもそも、センスない?
結局、よくわからなくなり、今ココ(笑)




