ビンチョス フェイバリット
お疲れさまです!
いつも読んでくださって、本当にありがとうございます。
馬車を見送って、周りを見回す。どうやら、レイクツリー家の護衛も帰ったらしい。大切なお嬢様なのはわかるが、あんなに物騒な雰囲気をばらまいていたら、要人だとばれてしまうだろう。
エアリルにも頼まれたし、少しの間見守るだけのつもりで来てみたら、美しい銀髪を隠し、清楚な服に身を包む彼女を見つけた。本人は周りに馴染んでいると思っているようだが、零れるような麗しさで周りの目を引く。
そして、心許ない足取りで、侍女と二人してキョロキョロする姿は、学園での冷静たる淑女の彼女ではなかった。
気が付いたら話かけていた。
エアリルのことでお礼を言われた時にも思ったが、彼女は公爵令嬢としての淑女であると同時に、普通の年相応の少女である。
食事をご馳走した後で言われたお礼に吃驚した。当然とされるかと思っていたから、きちんとお礼を言われ、結局マイク様の様も取れなかった。
僕としては、相手の顔と名前を一致させられるところも良いと思う。ビンチョス家では大切な資質だから。
美しい物に感激し、侍女とのおしゃべりにころころとよく笑い、甘いものに舌鼓をうつ。
類は友を呼ぶのか、マリアベル嬢もそうだ。貴族子女としての矜持と内面の甘やかさとの開きが、今まで側に侍ろうとしていた女性たちとは違い、両殿下が気になってしまうんだろう。
「マイク様、馬車がきました」
ジャックが馬車を回してくれたらしい。
「ありがとう」
馬車に乗り込むと、小窓から聞いてくる。
「邸まで戻りますか?」
「いや。先ぶれをだして、王城に」
報告をするのが、もったいない一日。
でも、いずれ両殿下の耳に入るなら、僕から話す方が良いと考え王城へと向かう。馬車の中で報告することを組み立てるけど、なかなか上手くまとまらない。
手芸糸を持ち、自分の胸元に添えた手袋の白、覗き込んだ紫瞳のそばの小さなほくろや、柔らかなネロリの香り、花弁のような唇。
…簡単に思い出せてしまう。
「やばい…」
「お疲れですか?」
俺の呟きを耳の良いジャックが、また拾ったらしい。
「あー少しね。終わったら、早めに休むよ」
「伝えておきましょう、今日はマイク様の好きなミートローフですよ」
「それは楽しみだね」
独り言もいえないなぁと小さくごちた。
「兄上、ビンチョスが訪ねてくると先ぶれがあった」
ノックもせずに入ってくる片割れに、かけていた眼鏡を額までずらした。
「何かあったのか」
「お耳にいれたいことがあるらしいよ。何だろう、エアリルが抗議文を送りつけて、スルト侯爵家がのされちゃったとか?」
朝方まで、話したと言うのに、まだシルヴァの溜飲は下がってないらしい。
「抗議文だけで降爵は難しいな」
「だから俺が」
「物理的にも、スルト領民の受け入れが決まってからじゃないと駄目だ」
昨晩から、この議論は平行線だ。
私も金利的制裁を加えられないかと、考えてはいるのだが、如何せん領民にしわ寄せがいきそうで、無益にしかならない。
「アイシュアに頑張ってもらうしかないか」
シルヴァがソファーセットに散らかった書類を集め始めた。マルカが居れば、多少は片付けてもらえるのだが今日は休み与えている。
ビンチョスが来るなら、座れるようにしておかないと、と思ったらしい。
「陛下に第一騎士団長としてはどうか、二人で進言をしておこう。本人のやる気も必要だな」
「それが一番、肝心なんだけどね」
俺ものんびりとカフェを煎れ始める。
「足すなよ」
いつの間にか。俺の手元をみていたシルヴァが言う。
「もう、飲み切ったから足さないよ」
「では、ビンチョスは今日、リュミエール嬢と一緒に過ごしたのか?」
「はい。エアリルに所用があったために、頼まれました。マシュー手芸店と王都で評判のカフェだけですが」
ヴィンセント殿下が足を組み替える。これは少し苛ついているときの癖だ。
「お忍びデート…」
シルヴァン殿下の目がやけにきらきらしている。
「違います。街歩きに慣れている僕に、お目付けがまわってきただけです。養護院に持っていくための教材…それに両殿下への贈り物のためでもありました」
「…それは?」
「先日のお詫びにハンカチに刺繍をして贈ろうと思ったらしいです。そのため、両殿下のお色の糸を…」
『瞳は柔らかなアンティークゴールド』彼女の仕草が蘇る。小さくかぶりを振ってきりかえた。
「俺のもあるのか?」
「もちろんです。お茶会参加者にと言っておりました」
ヴィンセント殿下が口元を何度か擦った。
「量が多くて大変ではないかな」
「ゴーディ嬢が手伝うみたいです。アイシュア殿の分とか…」
腕を組んだシルヴァン殿下が俺を見る。
今度はこっちの機嫌が悪くなったみたいだ。
「あークラスも一緒ですし、名呼びも許されたのですから、シルヴァン殿下の分はゴーディ嬢にしてはどうか、と話しだけはしておきました」
外注に出されないだけでも感謝をしてほしい。
「いや、リュミエール嬢からでも嬉しいけどね」
はいはい。
「ゴーディ嬢はマカロンとかも好きみたいですよ。王家主催のお茶会では、メニューに入れてもよろしいんじゃないですか」
「もうそんな季節か…」
「来るかな?スルトは城内にいれたくもないのだが」
前回の時は王族への拝謁をすませると、二人揃って、早々に帰ってしまっていた記憶がある。
「シルヴァ、それは難しい。腐っても高位だから」
両殿下の辛辣な言葉を聞き流すふりをして、へらりと笑う。
「今回はお席をご指定されれば良いじゃないですか、全体立食を止めて」
自由にさせなければ良い。目の届く場所に居てほしい。
ヴィンセント殿下が、いつもの笑顔とは違う表情で、にっこりと微笑む。
「シルヴァの従者は優秀だ」
「俺もそう思ってた」
……お褒めにあずかり光栄です。とは言えなかった。
貴族子女としての矜持と内面の甘やかさとの開きあたりで、ギャップ萌えを入れたかったのですが、わかりにくいかぁ…と、もだもだしておりました(笑)




