悪役令嬢のお茶会
お疲れさまです。
いつも読んでくださって、本当にありがとうございます!
「本当に信じられませんわ…わたくしを一介の者などとおっしゃいましたのよ」
置かれたカップが、ソーサーの上でガチャリと不快な音をたてる。彼女のお茶会であれば、糾弾されかれないマナーも主人がするならば、見逃されるらしい。
「なんてことでしょう…ベス様があのマリアベルに貶められるなど」
そう言ったのは、派閥違いであるがベラオーク侯爵家息女であるオルガーニャである。
「許されることではないでしょう」
追従するように、スルト派閥伯爵令嬢のエヌメラが何度も頷いた。その場に居合わせたマギリアは顔色を悪くしていく。
「もとはと言えば、マギリア男爵令嬢がもたらした情報で、こんな事になりましたのよ」
ギッと音がしそうなほど、睨みつけられマギリアの身が竦んだ。
「そんな、わたくしも家に引き取られたコリンヌ宛の、招待状があったから、それをお伝えしただけで」
「コリンヌ…あの土の加護持ちの平民ですわね。そういえば、当たり前のようにビンチョス様の隣に座っておりましたわ」
「…コリンヌが」
悔しい。どれだけ頼んでもお茶会に連れていってくれなかった。恭しくマイクに手をとられ、馬車に乗り込むコリンヌを見て、歯噛みをするほど悔しかった。選択科目を一緒に取りたいと手紙を出しても、従者候補としての責任があるので無理だと返事が届いた。再度打診した婚約の話でさえ…。
「わたくし、エリーチカ様と同じクラスなのですけど…ビンチョス様は正式に、シルヴァン殿下の従者となられたそうです」
ちらりとエヌメラがマギリアを見る。
エリーチカは従姉妹にあたる。仲が良いわけでもないが、悪くもない。マイクの妹、それだけだった。
「き、聞いておりません」
「あら、マギリア様は、ビンチョス様と婚約も間近と聞いておりますけど、どうしてですの?」
「さ、最近のマイクは忙しそうにしておりましたので、話忘れたかもしれませんわ」
そう、話忘れただけだわ。聞けば笑顔で答えてくれるはずよ。
「ビンチョス様が従者として付くのであれば、いずれ王族にかしづくのと同じこと、マギリア様も大変ね」
労りの中に愉悦の毒を含み、エリザベスが微笑む。
「いずれ王家から、良い縁談持ち込まれるでしょう?婿入りを打診するにも家格が必要になりますわね」
「そんな…」
エリザベスは美しく凝った扇子を口にあてると小さく呟いた。
「わたくしが両殿下のどちらかに嫁ぐ形になれば、素直で愛らしいマギリア様を押すこともできるのですけど…今は王城にさえ近づけぬ身…残念ですわ」
「ご自身をお労り下さいませ。ベス様。でも両殿下に誤解されたままなんて…」
名前呼びを許されたオルガーニャが、そっとエリザベスの膝に手を置く。
「優しいのねオルガーニャ。幼少の頃より、あなたが憧れ続けているアイシュアにも、ご紹介できない私に…マリアベルが我が家へのお茶会参加を止めているせいで…」
「ベス様のせいではございません。あの女が、兄であることをいいことに、お優しいアイシュア様に付き纏っているからです」
貴族子女の矜持を忘れたらしい、オルガーニャの怨嗟の声が響く。本当にこの女がアイシュアに夢中で良かった。
両殿下に見初められるにも、敵は少ない方が良い。
「レイクツリー公爵家ご息女とエアリル様もご参加されていたと聞きましたが」
「ええ、祖父が愚かな決断さえしなければ、わたくしも同じ公爵令嬢であったでしょう。ぜひお友達になりたかったのですけど…マリアベルに良からぬことを吹き込まれているのか、けんもほろろに…ジル兄様のことも、エアリル様は誤解なさっていて、酷い言い方でしたわ。エヌラもごめんなさいね」
痛ましげに見られたエヌラは、信じられないように言葉を返した。
「あのお優しそうなエアリル様がですか…」
恋心を隠しきれないのか、エヌラが瞳にうっすらと涙を溜める。
「わ、わたくしが、コリンヌから何か有益な話を聞き出してみますわ」
このままでは、マイクが他の女に取られてしまう。
「まぁ、マギリア様が?」
「ご無理をなさらなくても…」
「無理なんかではありません。わたくしコリンヌとは仲よくしておりますから」
「でも…」
オルガーニャが、心配そうにエリザベスを見る。お茶会での失態も幾ばくかは、マギリアにあると考えているらしい。
「ああ、リュミエール様がそういえば、名呼びをビンチョス様に強請っておりましたわ。ビンチョス様も困ったようにマイクと呼んでほしいと」
「マイクが…」
あの美しいと名高い、リュミエール様に…でも困っていたということは、嫌だったのよね。許せない。
「わたくし頑張りますから。何か問題があるかもしれません」
「わたくしも、侯爵である父に、ベス様の王城立ち入りの撤回をお願いしてみますわ。このままでは、年に二度しかない王城お茶会にベス様が参加できませんもの」
「兄が文官で王城に勤めております。詳しい状況を聞いてみますから」
それぞれに、懸想を拗らせる彼女たちを見て、エリザベスはうっそりと目を細める。
好みとしては凛として、華やかな顔立ちのシルヴァン殿下だけど、ヴィンセント殿下の洗練された所作や、低い声、端正な顔立ちも良い。できれば二人にわたくしを取り合ってもらえるのが望ましいが、王妃となる夢も捨てがたい。
公爵令嬢でさえあれば、家格的にもわたくしが、どちらかの婚約者となっていたはずなのに、どちらも手に入らない。
悔しいがマリアベルは家格と、デビュタント前だというのに、その愛らしさに婚約者候補へと謳われている。
リュミエールも聡明さと王国の美姫に讃えられているほどの美貌で、お茶会ではヴィンセント殿下の気を引いていた。
……本当に気に入らない。私より美しいことも、最高の男が手に入らないことも。
だから、この愚かしい女たちには、せいぜい頑張ってもらわなくてわね。
「ありがとう、皆。わたくし…諦めません。そして、いつか皆の気持ちに報いられるように取り計らいますわ」
エリザベスはにっこりと赤い唇を上げ微笑んだ。
出したからには、ちゃんと動かさねば!
それが悪役令嬢とて!(笑)
改行前のデーターを一瞬あげてしまいました。
読みづらかった方ごめんなさい!




