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お茶会前…

お疲れさまです。

今回も、読んでくださってありがとうございます。

嬉しいです!

 赤と黒の封蝋でもたらされたお茶会は、やはり、王城の中庭にある一番大きなガゼボで行われることとなった。

 八角形の屋根にラタンのガーデンソファーセット、色とりどりに置かれたクッションも、繊細なテーブルランナーと並べられた銀食器たちが、招待客を待って鎮座しているに違いない。

 メイドたちには招待客は告げていない。王城に召されている者は口が固いとはいえ、どうしても噂に上がる。それは今回に至っては遅い方が良い。

 迎えに行ったマイオニー家で、飾り立てたマギリアがついていくとひと悶着あって閉口したが、とにかく無事に着いたので良しとする。


「ふわぁ…」

 萌ゆる緑に明るいオレンジがかった金髪が揺れる。

 コリンヌは先日届けたレモンイエローのディドレスで振り返ると「すごいですねぇ、これ何の花ですか?綺麗いい匂いもします」と笑った。

「白ライラックだよ。低木花木だから、この時期によくみるね」

「これが…淡い紫、ないかな」

 きょろきょろと見回すコリンヌと目が合う。

 本日の僕は普段の制服ではないので、貴族の令息感がありますね。と馬車の中でコリンヌが言っていた。

 アイボリーのベストに、仕立ての良いシルクシャツ、エメラルドの石がついたラベルピン、王城に行くなら普段着では上がれない。

 貴族の令息感って…実際そうなんだけど、と言えばいつもは親しみやすいからすみません。と謝られた。整えられた茶の髪も、馬車の中にはお高そうないい匂いもしていて、芳香剤かと思ったら、マイクの香水だったと笑う。

 芳香剤って何?と聞けば、部屋の匂い消しと言われた。

 匂い消し……。

 

「王城には紫はないかな。好きな色?」

「あ、いえいえ、あったら綺麗だろうなって」

「そうだね…ああ、一か所あるよ咲いてるとこ」

 

 親友の邸宅を思い出す。昨日行った時にちょうど満開だった。庭のガーデンライトに淡く照らされて、ピンクにも見えるライラック。


「え、どこですか?」

「エアリルのとこ、見事だよ」

「レイクツリー公爵令息のところですか…」


 リュミエール嬢が好む花だとエアルから聞いた。


「大分、しぼられたみたいだね」


 敬称略はなしで、名前呼びは許されてから。お茶に口をつけるのは上の者がつけてから。


「私のためだからと、ジュリアス様が…」

「そう。良かったね」


 教典を諳んじるだけでも大変だったのに、学園を休んで3日間のスパルタ講習だったらしい。

 軽く遠い目になりながら、コリンヌが頷く。


「ジュリアス様は今日は欠席とか」

「はい、休日の神殿には教徒の皆様も集まりますし、癒しを求める市位の方々もいらっしゃいます。冬で風邪が流行る時期などは、野戦病院みたくなるので、神殿に預かりの時分には、よく手伝いました」


 なるほど、安い受診料で診てもらえる神殿はそこそこ忙しい。医師もいるけどそれは内科の領分で、外科が神殿なら内科は医師だ。内臓疾患は、やはりしっかり勉強をしないと特定しにくいと聞く。

 ジュリアス様は留学をして、医学を学んできたから癒しの領分が広く、引く手あまただ。


 回廊を抜ける曲がり角で、スッと先を指さす。


「この回廊を抜けるとすぐにガゼボが見えるから。キャナリィ、後は頼んだよ」 


 叔父の家で用意するとは思えなかったので、今日はコリンヌのためにメイドを連れてきていた。


「はい。コリンヌ様こちらへどうぞ」

「え、マイク様は…」

「ちょっと殿下たちに呼ばれているんだ」


 初めての王城で一人にするのはどうかと思ったが、ダブル殿下の呼び出しがあったので仕方なし。


「そうでしたか。わかりました」


 小さく手を振る。


「ああ、後でね」


 メイドに促されて、回廊を歩くコリンヌを見送る。俺の意思とは逆に、スキップを踏むコリンヌは身も心も軽そうだった。


 呼ばれたのはヴィンセント殿下の執務室だった。そこまでの道のりで、コリンヌに対する違和感を考える。

 

 少し前にエアルに聞かれたせいか、お互いの恋愛感情を考えてみたが、恋情の欠片でさえ、生まれていないのがわかる。

 コリンヌにはよくある女性からの熱がない。

 僕が好みじゃないのか、他に想う相手がいるのか、ただ単に何か思惑があって近づいているのか。


「どちらかと言えば何か思惑があるっぽいんだよな」


 媚びた行動はとるが、妙に冷めている。彼女の気安さは同姓が持つものに近い気がする。


「今回はまだ、報告をすることもない」


 執務室の前にいる護衛に会釈をし、ノックをする。

 誰何の声はシルヴァン殿下だった。


「ビンチョスです。お呼びとのことでしたが…」

「ああ、ビンチョス来たよ。兄上でしょ、呼んだの」

「入ってもらってくれ。この書面で最後だから」


 中に入ると、執務机いっぱいに書類が重なっている。

 その奥に眼鏡をかけたヴィンセント殿下が書類を読んでいた。


「知っていたか?」


 ヴィンセント殿下から受け取った書面を、すっぱい顔をしたシルヴァン殿下がつないでくれた。

 ついでとばかりに、置いてあったポットからカフェを注いだカップも渡される。


「ありがとうございます」


 砂漠の国からもたらされる香りの良いカフェは、最近の両殿下のお気にいりで、執務室にメイドをおかないために、この光景は良く見受けられるけど…なんですっぱい顔してんだ?

 書面に目をやると、かなり前に王城には上げた報告と丁寧な手書きの書面がもう一枚付いている。

渡されたということは読んでも良いと判断し、目を通す。

 なるほど…このお茶会が公式なものではないと理解している上での、お願いか。その日はどうしても外せない用事があり、お茶会にそぐわない恰好でもご容赦していただきたい。許可をいただけるなら、参加できると…

 うん。知ってた。


「用事についての報告はクノンス兄上から、聞いていませんでした?」


 僕は受け取ったカップに口をつけた。カフェが煮詰まっていてすっぱい。シルヴァン殿下の顔はこれが原因か。


「聞いていない。それにクノンスは陛下付きだ。内容を確認したが、これは国としても容認できる奉仕活動だった。もう少し早く知りたかったがな」


 ヴィンセント殿下は俺ををちらりと確認し、再び書類に視線を戻した。

 成程、容認できるということは、これから助成金がつく可能性があったということか…それはクノー兄上のミスかもしれない。ヴィンセント殿下が、財務関係の一端を担っているのを、知らないわけでもないのだから。


「アイシュアやエアリルも手伝っていたんだって?」

「ええ。それもクノンス兄上は陛下には話していると思います。両公爵家からも報告をしていますしね」


 たぶん、僕の顔もすっぱくなっている。これは至急伝えないと。キャナリィがまだいるはずだ。


「そのことで、クノンスに今回のお茶会に関し、助言を求めたのだが…『すいません、そうゆう甘酸っぱいのは不調法で…』と謝られた」


 クノンス兄上の生真面目な口調が頭に浮かぶ。

 嫡男であるクノンス兄上は、文官として王家に上がっている。堅実な人だから政局とかは得意なんだけど、噂話は母上たちの分野だし。


「甘酸っぱいってなんだ」


 シルヴァン殿下の声がいつもより平坦。


「真面目な顔して、真っ赤になって汗をかいてたぞ」


 クノー兄上に言っておかなくちゃ、別に気になるあの子の情報が欲しかったわけじゃないんだと。

 一区切りついたのだろう、ヴィンセント殿下が、文箱に書類を戻すと一人掛けのソファーへと移動してくる。


「クノンス兄上は見合い結婚なもんで…あ、政略婚への情報とかなら、お相手の女性のことをきっちり調べて報告に上がると思うんですけど」


 これは本当だ。相手の女性の好きな食べ物、スリーサイズ、好みのタイプ。今までの男性遍歴、何なら閨の好みまで。それを説明すると、シルヴァン殿下の声が一段下がる。


「そんなのはいい」


 ですよね。


「俺たちが、言いたいのは、今日はどんな会話をふれば良いのかということだ」


 まさかの、気になるあの子の気を引きたいだった!


「ふはっ、そんなの俺が聞きたいですよ。でも、クノー兄上の失敗は俺が償います。答えられる範囲でご質問どうぞ…あ、質問前に何でこのカフェこんなに煮込んだんです?」

「朝のに継ぎ足した」

「兄上、さっき豆の種類が違うって言ってたよね?」


 …尊き王国の陰陽の星の中身。



そろそろR15にすべきなのかしら?

シルヴァンが出張ると剣呑になりそうですし…

マイクは心の声がきわどくなる(笑)

いまいち、ボーダーラインが掴めない。

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