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生徒会室にて

お疲れさまです。

いつも読んでくださって、ありがとうございます!

 講義室ほどの広さを持つ第二生徒会室は、元々は高位貴族が生徒会を担うことが多かったせいか、給湯室とレストルーム、扉のそばに護衛室がある。第一生徒会室は、一般生徒も担う生徒会員が使用、第二は使用できない。

 第二生徒会室には。手前に大きめのテーブルが置いてあり、椅子は10脚ほどで、普段はそこで生徒会役員による行事の采配や予算の組み立てなどを行う。そして、その奥に衝立をはさみ、質の良い調度品と座り心地の良さそうなソファーに、黒檀のテーブルが鎮座していた。

 代々の王家に連なる者たちが使っていた、休憩室も兼ねている空間だ。自分が役員を務めていた学生時代は第二は使うことがなかった。

 畏れ多いのと、そんな柄ではなかったからだ。

 学園を卒業した時には、もう二度と学園には立ち入る事はないと思っていた。マリーが入学するのは、まだ先であったし、その頃にはマリーにも婚約者がいるに違いない。

 そうなれば、妹をエスコートする事もなくなると。

 しかし、裏を返せばマリーの式典のエスコートは毎回自分が務めていて、王国の陰陽の星と呼ばれる殿下たちの護衛に抜擢され、毎日のように学園に通っている。


 今いるのは、手前の硬質なテーブルのある方だ。

 午後の穏やかな日差しが舞い込む。カーテンは開けてあるが、窓が閉めてあるのは防音を兼ねてだろう。俺は両殿下の後ろに立ち、様子を覗った。


「それで、どうしてゴーディ嬢がケガをする羽目になったんだ?」


 会計を担うキリアン・キュービス侯爵令息が、翡翠色の髪を苛立ち気にかき上げる。 


「自習中だったコリンヌが、俺たちに差し入れに来てくれたんです。でも、アイシュア様の「下がりなさい」の声掛けに反応して、後ろに後退したところに運悪くゴーディ嬢がおりまして…」


 立ったまま、キリアンに答えるビンチョスが、そっと俺を見た。

 本来なら任務中は、殿下たちの許可なしではあまり口を開かないのだが、ヴィンセント殿下の視線に促され、ビンチョスの言葉に言い添える。


「ビンチョスの言ったとおりだ。マリーは武術の選択授業を取っていたので、その場に居合わせていた」

「は?公爵令嬢たる彼女がか」

「武勲たる我が家なのでな。何か問題が?」


 見下ろすように睨め付けてやると、キリアンは視線を外す。


「マイオニー嬢、ビンチョスは知らないが、シルヴァに差し入れは不要だ」


 何の考慮もなく、ヴィンセント殿下は言い放つ。

 その声にマイオニー嬢は、ビンチョス以上に項垂れた。


「はい。私の考えが至らず…マリー…マリアベル様にお怪我をさせたこと、反省をしております」


 まったくだ。考えなしすぎる。殿下に侍りたい気持ちはわかるが、少なくてもあんな形はない。真似をする生徒が増えたらどうするつもりだったのか。


「アイシュア、そんなに睨まないでやってよ。マイオニー嬢も二度はないから」


 シルヴァン殿下は、何でもないかのように言っているが…それにマイオニー嬢はマリーと呼びそうになってなかったか?仲が良いとも聞いていないが。


「アイシュア様…はマリアベル様のお兄様でいらっしゃるんですね。本当にすみませんでした」

「妹の怪我は大したことはなかった。あの後、医務室にエアルとリュミエール嬢が来てくれたからな」

「エアリルがですか?」


 ビンチョスが慌てて顔を上げた。


「レイクツリー姉弟と昼食を一緒に取る約束をしていたらしい。ジュリアス様がご不在だったので、代わりにマリーを治療してくれた」

「エアリルはそんなこと言ってませんでしたけどぉ」

「知らんよ」


 ビンチョスがくうぅと再び項垂れる。


「エアリルが水の加護持ちなのは知っていたけど、癒しの力まであるのは知らなかったな」


 興味深げに口を開いたのは、シルヴァン殿下だった。


「光の加護ほどの力はないそうですが、リュミエール嬢が浄化…消毒をしてくれて、後に癒しを。その方が後の治りも早いと言っておりました」


「レイクツリー嬢は浄化を使えるのか…アイシュア、よく知っているね」


 薄く開いた金輪に縁どられた紺紫の瞳が、探るように俺を捉えた。


「レイクツリー家とは、家族ぐるみの付き合いをさせていただいておりますから」


 ビンチョスから再び「くぅぅ」と魔獣を絞めた時のような声が漏れる。なんでだ。


「そう。二大公爵家が仲が良いのはよいことだね」


 両殿下が頷く。おかしい、俺が罠に追い込まれているようだ。

 その時だった、場の空気を換えるようなノックの音。

 扉側に控えた王家のメイドと先振れが話している。


「レイクツリー公爵令息がお見えになられました」


「バルはここまでで良いよ。控えていて」エアルのまだ幼い、変声期前の声がする。

 今回の件でなぜ呼ばれたのかはエアルなら見当もついているだろうが、顔にも出さず、肩の辺りでそろえた水色がかった銀髪を揺らして、胸の前に右手をそえる。


「エアリル・レイクツリー、お呼びと聞きまして遅参いたしました。王国が陰陽の星で在らせられる…」

「エアリル、いいからそういうの」


 すっと顔を上げたエアルが微笑む。


「シルヴァン殿下、形式美もございますから、たまには最後まで言わせて下さい。マイク、どうした、その顔?」

「お姉さんと昼食食べるなら誘ってくれてもいいじゃんか、親友だろ」

「嫌だよ。面倒くさい」

「エアリル、わざわざ済まないね。今日のガーディ家ご息女の件では手間をかけた」

「ヴィンセント殿下、私は何も…アイシュア様とマリアベル様には、姉ともども良くして頂いております。当たり前の事をしたまでです」

「あ、あの…」


 それまで空気のように大人しくしていたマイオニー嬢がエアルに向かう。


「私のせいで、エアリル様にもご迷惑をおかけいたしました。私はコリンヌ・マイオニーと言います」

「初めまして、エアリル・レイクツリーです。お気になさらず」


 初対面の名呼びにも動揺を見せず、整えられた貴族の笑みでさらっとエアルが流した。


「で、でも…マリアベル様にも、リュミエール様にも、失礼をいたしました。できれば直接お詫びとお礼を申し上げたいです!」


 エアルが「何、この子?」と俺を見るのがわかった。


「コリンヌ、爵位的にお会いするのは無理だよ」


 慌ててビンチョスがマイオニー嬢を止める。


「マイク様、同じ王立学園の生徒なんですもの、お詫びも申し上げられないの?おかしいわ」


 おかしくない。市井の出と聞いているが、常識はどうした。


「コリンヌ、名を呼ぶことを許されていないなら、家名で呼びなさい。それから、爵位が下の者から上の者を呼び出すのは失礼にあたる。この場合、ガーディ家からの呼び出しがないかぎりは無理だ」

「キリアン様…呼び出すなんてしません、もちろん私から会いに行きます!え、女性同士でも名呼びは駄目なんですか?」


 どうしてそうなる。

 皆に止められて、マイオニー嬢の目に涙が潤み始めると、困ったようにビンチョスが取り成す。


「泣かないでコリンヌ。アイシュア様、エアリル、駄目かな?コリンヌは謝りたいだけなんだ」

「マイク、いくら顔見知りの頼みでも無理。マリアベル様や姉様の気持ちは、僕には図れないからね」


 エアルが静かに切れてる。顔見知りって言われたぞ、ビンチョス。

 顎に手を当てて、少し考える素振りをしていたヴィンセント殿下が、シルヴァン殿下に向く。


「同じ王立学園の生徒と言われると耳が痛いね。どう思うシルヴァ?」

「確かにね。マイオニー嬢の性格からすると、教室まで直撃しかねない」


 シルヴァ殿下は可笑しそうに笑っている。 


「アイシュア、エアリル、ここは私たちの顔を立てて、今度の土曜日にお茶会はどうかな。無論、ガーディ嬢とレイクツリー嬢が断るなら無理強いはしないが…」


 いつも通りの微笑みを口元にうかべたヴィンセント殿下に、否が応を言えるはずもない。


「承りました」

「エアリル、レイクツリー嬢にはお前から伝えてもらいたい」

「姉様は関係ありますか?」


 珍しく反論の意を示すエアルに、シルヴァン殿下が「一人だとガーディ嬢が心細くないか」と嘯く。


「…承りました。僕も参加してよろしいでしょうか」


 一人称が僕になってるぞ、エアル。


「もちろんだよ、エアリル。それから、マイオニー嬢は今一度、貴族の一般常識をおさらいしてほしい」

「良かったな、コリンヌ」

「お茶会の作法は我が家で請け負おう。明日の午後から我が家に寄りたまえ」

「ありがとうございます!マイク様、キリアン様」


 喜び合う三人を見ていて、自分の眉間が寄っていくのがわかった。顔をつくるのが精一杯だ。


「お話がそれだけなら、ここで失礼いたします」


「エアリル様もよろしくお願いしますね」そう言って、エアルの手を取ろうとするマイオニー嬢から一歩引くと、来た時と同じように、胸に手を当てる貴礼をきっちりと取りエアルは退出した。  


 俺にアイコンタクトを残して。


 苦笑いを隠そうともせず「エアリルには嫌われてしまったか」とヴィンセント殿下が小さくこぼした。


「エアリル様は公爵家とはいえ、少々不敬ではありませんか。生徒会に入るのも拒んだと聞きますし」


 眼鏡を押し上げるとキリアン侯爵令息が、少々わざとらしく溜息をはく。


「無理を強いたのはこちらだよ。キリアン。もとはと言えば、マイオニー嬢が授業を抜け出し、差し入れに来たことが、そもそもの間違いだ。生徒会の件は別だ」


 俺が言うよりも早く、声を落としたシルヴァン殿下の言葉に、ビンチョスは勢いよく頭を下げた。


「まだ、コリンヌは慣れていないんです。今回の件はご容赦ください」

「マイク様は悪くありません、私が浅慮だったんです」


 確かにビンチョスは悪くないな。


「マイオニー嬢も今回のことは特例だと思ってほしい。ビンチョスが友情をなくしてまで、取り成したのだから」


 ヴィンセント殿下の言葉に「え、友情?」と慌てたビンチョスの声は、マリーにどう告げるかを考える俺には届かなかった。



最初はビンチョス視点で書いていたのですが、続かず。

アイシュアに変更をしたところ、思ったよりアイシュア様が切れておりました(笑)

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