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紫紺の殿下の波紋

お疲れさまです。本日二本目です。

読んでくださって、ありがとう。

 この国の成り立ちは、まだ神話の時代から始まる。

 島国でもあるこの国は、もともと神々が集う神域であった。

 水の軍神カリプテスが島を守り、火の女神ヘスティアが山を起こし噴火から、鍛冶の神ヘファイが生まれる。妹の地母神テラーアウは兄であるヘファイを慕い、草ひとつ生えぬ溶岩地を美しい緑土に変えた。


 緑土に生えた一本の草が人の成り立ちとなる。


 カリプテスと空の女神アリイアの娘テアールは、浄化と癒しの美しい女神であったが、浄化をする際に地に降り、人と交わったことでアリイアの怒りを買い、明け星へと変えられてしまう。


 闇を司る知将神エレヘスの姿は醜かった。にもかかわらず、闇夜に輝く明け星となったテアールの美しさに妻へとむかえる。それ以降夕刻から明けの時間までは、テアールは女神の姿を戻せるようになった。しかし、自分の醜い姿にテアールが畏怖するのを恐れ、彼女の瞳には木綿の布を巻き、開けられぬようにした。


「と、ここまでが近年美術史で説明をした部分です。オリズア時代に入り、この神話が舞台などで戯曲化され彫刻も変わりました。美術史の彫刻ではテアールの目元に布が巻いてあるかなどで、旧バレイア時代のものかを判断します」

「なぜ木綿だったのでしょうか?」


 一人の生徒がメモを取りながら質問をする。


「人の成り立ちとなった草が、綿花と考えられているからです」 


 なるほど、綿と麻、絹などの織りには違いがある。それも古美術品を見極める時の一端になるか…。

 芸術学を取る生徒は少ない。ほとんどの生徒はもっと将来に役立つ授業、領地学や経理学、乗馬などをとる。

 しかし、高位貴族になるにつれ、それは幼児期からの私学で済ませるため、選択授業では好みにあったものを選ぶ。

 自分がこの選択授業をとったのも、今後の仕事で少しばかり、美術史の専門知識が必要だったからだ。

 では、彼女はなぜこの授業をとっているのだろう。

 素直に芸術が好きなのか、中には高位の者と近づきたいなどと、同じ授業を受けようとする者もいるが、学園に要望書を提出し、初回の授業までは分からなくなっているはずだった。

 だから、この場合は偶然に過ぎない。


「リュミエール様、この彫像がお気に召したのですか」


 彼女付の侍女であろう、眼鏡をかけた女生徒がそっと彼女に語りかけた。

 今日は王立美術館の一角を借り受け、美術史の選択授業を行っている。


「ええ。このテアール様の目元の木綿布が少し緩んでいるでしょう?きっとテアール様はエレヘス様が見えていたのではないかと思うわ、本当にエレヘス様をお慕いしていたのではないかしら?」


 テアールの彫像を見上げながら、彼女が答える。


「先ほど、エレヘス様の絵を拝見しましたが、頭が山羊のおそろしい魔物のようでしたよ?」

「ふふ。姿ではなく、お心を見ていたのかも…」


 口元に手をあて、柔らかく微笑む。


「最近のテアール様の彫像には紫水晶をはめ込むのが流行っているそうです。姫様を模しているのでは?と言われております」

「それこそ、恐れ多いわ。それとメイヤ、学園では名前で呼ぶ約束よ」


 眉を寄せ困ったように、小さく侍女を叱る。


「はい。ではリュミエール様、そろそろ参りましょう。皆さま先の方へ進んでます。あまり護衛と離れてはなりません」

「そうね。行きましょう」


 俺の姿を認めていたのか、ちらりと侍女が俺に視線を寄こした。

『姫様になにか?』とでも言いたげだ。

 気がつかない彼女は軽やかに、侍女の手をとり歩きだす。  

「売店で先ほどの彫像の絵姿があったら買いたいわ、メイヤにはシュガークッキーね」

「こちらの美術館では、平たいパイも有名らしいですよ。是非そちらも」

「もちろんよ。放課後、帰ったらお茶をしましょう。エアルも焼き菓子なら喜ぶわ」

 

 小さな波紋だった。「姿ではなくお心を…ね」呟いた独白に、マルカが気が付いた。


「ヴィンセント殿下、何かございましたか?」

「美術館の目録が欲しい。あと…平たいパイも」

「目録と…平たいパイですね、承りました」 


 この波紋がすぐに消えてしまうのか、広がり続けるのかは分からないが、久しぶりに意図せず口元が綻んでいた。



コリンヌたちが、フラグを立てたり、折ったり、

増やしたり、していた時の一場面でした。

ちなみに、平たいパイは源〇パイがモデル(笑)


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