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フラグを立てたかっただけなのに…2

お疲れさまです。読んでくださって、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。

「マリー…シルヴァン殿下を拝見してどう思った?」


 隣に座って下さったお兄様が、殿下の動きを見ながらぼそりと聞く。


「今回、お話をする機会をいただきましたが、お噂通り明るくてお優しいお方ですわね。お顔立ちも整っておられますし…」


 三悪ヒーローズの人気投票では、いつも一位か二位だった。

 今日、近くで拝見できた時の実装された姿は、神絵師様が描かれた通りの眩さ。

 そう云えば、彼の加護が明かされた時のスチルはファンの盛り上がりも凄かった。あら、殿下の加護ってなんだったかしら?ど忘れしてるかも、あとでリュミに聞いてみよう。


「そうか…」

「ですが…マリーはお兄様が」


 一番です!と続けようと思った。

 その時だった。パタパタと足音のする方へ顔を向けると、お兄様がスッと立ち上がる。


「あれは…?」


 オレンジ色の柔らかそうな巻き毛と大きな空色の瞳。

 バスケットを持ち上げて、微笑んだコリンヌ・マイオニーだった。え、こんなイベントあった?


「シルヴァン様、マイク様~見学をさせて下さい!」

「コリンヌ!」


 ビンチョス様が、慌てて彼女に駆け寄る姿が見える。少し困ったように彼女から受け取ったバスケットを持つビンチョス様と並んで、コリンヌさんはやってきました。

 お兄様はシルヴァン殿下と彼女を遮るように立ちはだかっています。


「こんにちわ!武術の選択科目をお取りと聞いたので、差し入れにきちゃいました。果実水をたくさん用意しました」


 怪訝そうな顔立ちを隠そうともせず、お兄様がコリンヌさんに聞きます。たとえ、シルヴァン殿下とご親密そうに見えたとしても、直接の会話はさせません。


「選択授業は他言しないはずだが…誰から聞いた。それに貴女も今は授業中では?」


 お兄様がちらりとビンチョス様を見ましたが、ビンチョス様は首を振ってらっしゃいます。


「ジュリアス様の授業だったのですが、急に神殿にお戻りになるご用事ができてしまって、自習になったんです。殿下方の選択科目は皆様が噂をしてましたからわかりました…お邪魔でしたか」


 すごいわ、瞳がうるっとして可愛い。コリンヌの美少女っぷりが止まらない。

 お兄様大丈夫ですわよね…。


「両殿下は毒味役がいない場合、特に外での食事はしない事になっている」


 シルヴァン殿下も、敢えて口を挟まないようです。

 コリンヌさんの後ろに座っていた私は、思わず立ち上がってフラフラと近寄ってしまいました。


「持って帰りたまえ」

「…ご、ごめんなさい。あ、護衛の方ですか?」


 コリンヌの前にいるお兄様と目があった。


「マリ…下がっていなさい」

「すいません!」


 お兄様の声に勢いよく彼女が下がってくる。


「えっ」

「きゃあっ」


 気がつけば、彼女が私の脚の間に座るようにして、二人とも転んでいた。

 これは、あれだわ。二人羽織。私の胸のあたりでコリンヌさんのオレンジ髪が揺れる。


「いったぁ、あ、ごめんなさい。え、マリア?」

「つっ…」

「マリー!」


 両手の手のひらが擦りむけていた。踝にも痛みがはしり力が入らない。


「大丈夫か…ご令嬢、失礼します」


 コリンヌの腕をゆっくりと引いて立ち上がらせると、座りこんだ私の足下にお兄様が跪く。

 こんな時なのに、いつもは威風堂々としているお兄様の旋毛が可愛らしくて、撫でてしまいたい。


「少し捻っただけですわ。お兄様」

「アイシュア、ガーディ嬢を急ぎ医務室へ。マイオニー嬢は大丈夫なのか」

「わ、私は平気です。それより」

「ビンチョス、マイオニー嬢をクラスまで送ってやれ」

「わかりました」 


 私たちに気付き、周りが騒がしくなってきたその場を、殿下は統治者たる態度で収めました。


「殿下、護衛の私が離れるわけにはいきません。今、侍女を呼びに行かせます」

「ええ、わたくしなら大丈夫ですわ」

「だから、私も医務室に行くと行っているんだ。なんなら、私が抱き上げて運んでも良いのだが?」


 シルヴァン殿下は赤い瞳で私をちらりと見ると、お兄様に視線をもどしました。


「…ありがとうございます」


 お兄様はわたくしを軽々と横抱きにすると、ぺこりと頭を下げてから、殿下に続いて歩きだします。


「痛むか?」

「いいえ、大丈夫です。私がちゃんと彼女を支えて差し上げられれば良かったのです。シルヴァン殿下、授業の中座をさせてしまい申し訳ございません」


 後ろ手を組んで、前を歩く殿下が振り返る。


「ガーディ嬢のせいではないよ。むしろ、巻き込んでしまったようで、すまない」

「そんなことはありませんわ」

「この度のこと、お気遣いをいただき、ありがとうございます。シルヴァン殿下…よろしければ、妹のことはマリアベルとお呼び下さい。この様に少々跳帰りなところもありますが、同じクラスと聞きました。これからもよろしくお願いいたします」

「お兄様?」

「いいな、マリー」

「えーっと、どんな心境の変化かは知らないが、いくら何でも相手の了解なしでは呼ばないよ。それは兄のお前が強要することでもないだろ?」


 呆れたように、首を振ると、殿下は再び先を歩きだしました。

 お兄様の考えていることは分かりませんが、お兄様がそうおっしゃるなら、私は構いません。

 今世では名前呼びが、親しい間柄を示すものだとは理解をしていますし、高位になればなるほど、その価値は高いとも。

 でも、前世が異世界人だった私は、それほど大きな意味を抱えているとも思えないし、自領では市井の者も「アリアベル様」と呼ぶしね。

 お兄様だけが、私をマリーと呼んでくださればよいのです。


「シルヴァン様、よろしければ、そうお呼びしても?」

「殿下はつけなさい」

「アイシュア、そこは許そうよ」


 再び振り返ったシルヴァン殿下が、へにゃりと眉をよせる仕草が、普段は凛としてらっしゃるのに、子供のようで思わず笑ってしまいました。


「わたくしのことは、どうぞマリアベルと」

「マリアベル嬢?」

「嬢はいりませんわ。シルヴァン様?」

「いや、いるだろう。嬢」

「もう、お兄様、どっちですの?」

「殿下も、嬢もいる」

「いや、アイシュア、父親かよ」


 少々賑やかな医務室までの道のりでございました。



「どういうことなんだ。コリンヌ」


 普段は気さくで温厚なマイクが、バスケットを持ちながら、低い声で俺に問いかける。

 こんな時でも荷物を持ってくれるのは嬉しいが、その質問は俺が聞きたいくらいだ。


 どうして、あの場にマリアベルが?彼女の選択授業の初期設定はダンスだったはずだ。彼女がヒロインなら攻略対象に合わせて変えることもできるが、俺がヒロインなのに?

 俺はヒロインじゃないのか、いや、学園に入るまでは上手くいっていたはずだ。

 ……ゲームじゃないから、テンプレ通りにことが進まなくても仕方のないこと。


「迷惑をかけてしまって、本当にごめんなさい。でも、初めて会った時から、マイクは気遣ってくれたでしょ?お礼をしたかったの…授業がシルヴァン殿下もご一緒と聞いたので、殿下の分もお持ちしたんです」


 とにかく、今はここを乗り切らないと。


「ガーディ家のご息女が、怪我をしたのはわかるね」


 わかる。ふわっといい匂いがして、一瞬だったけど、俺の頭が彼女の胸に当たった…。


「わざとじゃないんです。下がれってアイシュア様が」

「アイシュア様が、それを言ったのは妹君に対してだよ。それと気になったんだけど、なんで君は名呼びをしてるの?殿下も、アイシュア様のことも」


 ヤバい。この世界は名前呼びには許可がいる。


「すみません。市井では名呼びは普通ですから…やっぱり私…駄目ですね」


 項垂れて、涙を我慢する素振りをすれば、マイクは溜息をつく。


「たぶん、今回のことは少し問題になると思う」


 え、停学とか退学とか、牢屋に入れられたりする?


「公爵家のご令嬢に怪我をさせた。しかも、授業をさぼって来ていた。大きな問題だよ」

 

 貴族籍に身を置くなら、きちんと爵位を理解して気を付けるように、ジュリアス様にうんざりするほど、言われていたことだった。

 でも、コリンヌは希少な加護持ちだから、どこか許される気がしていた。


「どうしたら良いのでしょう…」


 立ち止まって、マイクを見上げる。ぽろぽろと零れる涙はコリンヌの必殺技だ。俺自身はあまり好きではない。感動してとか、悔しくてなど涙もろいのは甘受できる。でも、自分を良く見せたいとか、擁護するための泣きはなしだ。面倒くさい。


 マイク、面倒くさい女ですまん。


「……放課後、生徒会室に来て。僕からも取り成してみるよ。ゴーティ家のご息女は、温厚な方だと聞いているから」

「温厚?」


 あの、マリアベルが?我儘放題の癇癪持ち娘…が?


「なに?」

「ううん。私のためにごめんなさい…」

「もう泣かないで。ここからなら、一人で戻れるね」


 淑女科の前で、マイクは踵を返すと戻っていった。

 シナリオ通りなら、コリンヌの差し入れを喜んで受け取ってくれるマイク、そしてそれを見たシルヴァン殿下が「私にはないのか?」と少し頬を膨らませる。そんな和やかなスチルだったはずなのに。

 

 マリアの怪我は大丈夫だったのかな。

 俺はぼんやりと手元のバスケットを握りしめた。

 


コリンヌ(俺)は非道い子にならないように書いています。

迷惑な子にはなるかもしれませんが(笑)


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