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フラグを立てたのは…

お疲れさまです。今回も読んでくださって、ありがとうございます。

 エアリルには、出会えなかったが、めげている暇はなく、一時間半の授業が終わった後は、医務室へ向かう。

 シナリオ通りにいけば、一限目めの休み時間に、キリアンが頭痛薬をもらいに来る。

 クラスメイトに具合が悪いと告げ、医務室の場所を聞き、向かったまでは良かったが…ここでも問題が起きた。

 淑女科と普通科では医務室が違うのだ。

 コリンヌがなぜ、医務室でキリアンに会えたのかも分からないまま、一応、医務室に行くと、優しそうな女性の校医がいた。

 しどろもどろに頭が痛いと言えば、鎮静剤をくれ、休んでいきなさいとまで言ってくれる。

 しかし、今日はイベント目白押しなのだ。ここで休んではいられなかった。

 本当は元気だし。

 よくよく考えれば、貴族女性のいる淑女科に、病人とはいえ、男性が居るのは問題だ。しかも医務室に。


「男子禁制の棟にキリアンがいたら、差し障りあんだろ…運営」


 ぶつぶつ独り言を言いながら、教室に戻ろうとすると、朝、マイクと別れた渡り回廊の辺りで、グリーンの髪に、眼鏡をかけた男性がうろついている。


「キリアン様?」

「コリンヌ!ちょうど良かった」


 額に冷や汗をかき、顔色も悪い。


「どうなさったんです?こんなところで…具合が悪そうですが…」

 

 本当に辛そうだ。


「私は偏頭痛持ちなんだが、常備薬を忘れてしまってね。医務室で貰おうと思ったのだが、ちょうど校医が出ていて開いてなかったんだ。淑女科なら開いていると聞いて、来てみたのだが…さすがに行きづらく…」


 なるほど、こういう事か!もう少し保健室にいたら会えたパターンだった。


「これ、どうぞ!」


 俺はもらったばかりの頭痛薬を差し出す。


「今、いただいたばかりの鎮痛剤です」

「今?君も具合が悪くてもらったのではないか?」

「私は大丈夫です。その、痛くなりそうだなぁ…って予兆があったもので、先にもらいました」


 我ながら苦しい言い訳だったが、キリアンはあっさり信じた。


「ああ、わかるよ。曇りだったり、雨が降る前で頭が痛くなる」


 キリアン、それは気温差頭痛だ。早めの就寝と規則正しい生活をお勧めする。


「私より、キリアン様の方が辛そうです。早く飲んで下さい。もし…私が渡した薬を飲むのが不安だったら、校医の先生のところまでお供します」

 

 もし、これが毒でも媚薬でも、侯爵家嫡男だったら、多少の免疫はあるのだろう。飲め、飲むんだ。

 キリアンは俺の言葉に、逡巡の色を一瞬見せたが、紙に包まれた丸薬を、胸元のポケットに入れた。


「…コリンヌ。疑ったりはしていない。ここには水もないから、教室に戻ってから飲もう」


 クール担当のキリアンには珍しく、口元に笑みを浮かべてポケットをそっと叩く。 


「そうですね。お気になさらないでください」


 ここぞとばかりに、そっと手を取り「早く良くなりますように…」と呟く。


「ありがとう…近いうちにお礼をするよ」


 多少ふらつきながらも、戻って行くキリアンを見送り、心の中で「っしゃあ!」と拳を上げる。

 キリアンのフラグゲットだぜ!今後はお礼と称して、キリアンの関心は得られる。

 朝はシナリオ通りにいかなかったが、今回のように後からでも、帳尻は合う気がした。

 よし、この調子で、選択授業でもフラグを立てるぞ。

 俺は晴れ晴れとした気分で、教室まで戻って行った。


「キリアン様、いかがでしたか?」


 教室に戻ると、ヴィンセント殿下の従者をしているマルカが、心配そうに声をかけてきた。

 彼は市爵位の次男であるが、優秀で、分を弁えた者であった。年は一つ上だが、殿下の入学に合わせて入った青年だ。幼学院からの付き合いがあるので、親しくしている。


「ああ。運よく、コリンヌに会えたのでな。薬を分けてもらえた」

「あの、土の加護持ち令嬢にですか。良かったですね」


 家から連れてきた従者は、成績が追いつかず、Sクラスに入れなかった。今回、淑女科の医務室へ薬を取りに行かせられなかったことに、自分が薬を忘れたせいとはいえ、気持ちがざらつく。

 今回、コリンヌに会えたのは、本当についていた。

 礼を考えねば…その前に水を用意してもらい、薬を飲もう。

 その時だった。ヴィンセント殿下は、隣の席で読んでいた本から顔を上げると、私を見る。


「マイオニー嬢も体調が悪かったのか」

「殿下、彼女も私と同じ頭痛持ちだったらしく、医務室からの帰りでした」

「そうか。先ほどよりも顔色が良いようだ」

「ご心配をおかけいたしました」

「……随分と都合がいい偶然だな」


 席に着こうとしていた私に、何かを言われた気がして、殿下の方へ向き直る。 


「何か申されましたか?」


 殿下は口元にいつもの微笑みを浮かべたまま、首を横に振った。その時だった。


「キュービス様」


 控えめな声がした。振り向くとリュミエール・レイクツリー公爵令嬢が、傍まで来ている。


「レイクツリー嬢、何か?」


 向き合うと、背が高いとは聞いていたが、普通の女生徒よりは、頭一つ分ほど高い華奢な肢体。

 紫色の瞳が俺を見上げている。青みがかった銀髪が、絹糸のようにさらりと揺れた。


「こちらを弟から預かっておりますの」


 白い繊手に乗せられた…小さなポプリ?


「エアリル殿から?これはポプリだろうか」

「はい。弟が調合をした、沈痛効果の高い薬草を使った、サシェですわ」


 そっと、私の机の上に置く。

 なぜ急にエアリルから、沈痛剤のようなポプリを渡されたのか疑問だった。確かに頭は痛かったが…訝し気な視線に気が付いたのか、マルカが慌てて、口を挟んだ。


「キリアン様が、医務室に行かれていた時に、レイクツリー嬢を訪ねていらしたのです。その時にキリアン様が、いらっしゃらないのに気が付かれまして、昔から頭痛持ちだと、伺っていたとのお話しをされていました」

「あの子も体調の変化が多々ありますから…キュービス様のことが気に掛かったのでしょう」


 エアリルのことを思ったのか、口元に柔らかい笑みが浮かぶ。


「美しいな…」


 自分の考えを読まれたかのような声が、隣から呟かれた。慌てて振り返る私を、殿下は気にも止めていない。


「は、私は別に…」


 殿下は首を傾げたレイクツリー嬢の置いたサシェを、指さす。


「繊細で美しい刺繍だ。あなたが?」

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません」

「今は、学生だから。挨拶はいらない。それより、レイクツリー嬢が、それを刺したのか?」

「はい。幼少の頃からの趣味ですわ。ほんの手慰みですが」

「そんなことはない。店に並んでいても、おかしくない出来だ」


 淡い紫色のシルクに、幾重にも重ねた刺繍糸で陰影をつくり、嘴にライラック銜えているツバメが描かれている。巾着型にされた口を留める部分には、美しい銀糸でレース編みをされている紐を使っていた。確かに、手のひらに乗る小さなサシェにしては、見事だった。

「ツバメは幸運を呼ぶ。それに、エアリルの調合なら、間違いがないだろう。キリアン、今日は借りておけば良い」

 レイクツリー公爵領では、薬効成分の高い薬草を産出しているのは有名だ。その公子、エアリルが聡明な頭脳を生かし、いくつもの薬を生み出していることも。


「あ、いえ、もし、キュービス様のお気に召さないようであれば、捨て置いて下さいませ」

「いや、お気持ちありがたく受け取らせていただく」

 

 サシェを持ち、顔に寄せると、爽やかで清々しい香りが鼻腔を通り抜けた。


「頭がすっきりした」

「まぁ…早すぎます」


 くすくすと、口元に手をやり小さく微笑んだ。

 誰が表情の動かぬ人形などと言ったのか、口さのない言葉などあてにならない。そう思った。


「本当に…美しいな」


 紫紺の瞳が少し細められると、ふっと零れるように殿下が呟いたことに、舞い上がった俺は気が付かなかった。

 


シナリオでサシェを渡すのは、リュミから頭痛持ちのキリアンへのフラグでした。(エアリルからになりましたが…笑)ちなみに、マリアとキリアンのフラグは、具合の悪いキリアンにぶつかり、ふらふらになったキリアンに医務室まで、マリアがつきそう事でした。コ、コリンヌのフラグが。


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