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コリンヌ、フラグ立てます。

お疲れさまです。読んでくれてありがとうございます。

 

「パンドゥさん、約束の物をもらいにきました!」

「あ、コリンヌ様、用意してありますよ~果実水」

 

 学園に向かう前に、私、コリンヌは、マイオニー家の厨房へと顔を覗かせる。

 コック見習いのパンドゥさんから、ギンガムチェックの布に包まれている水筒を、三本差し出された。


「しかし、そんなにたくさんどうするんです?まさかご自分で飲むわけじゃないですよね?腹、下しますよ」

「えー内緒。でも、加護を使う時に祝詞を諳んじるんだけど、たくさん練習をすると、喉が乾いちゃって…」


 太めだけど、人の良さそうな顔をしているパンドゥさんは、少し気の毒そうな顔をする。


「希少な加護持ちも大変なんすねぇ、あ、籠を使います?鞄に入らないでしょう」


 そう言って小ぶりな、取っ手付きバスケットを出してくれた。


「わ、助かる!いつもありがとう、この前頂いたサンドイッチも美味しかったわ。今度教えてね」

「そんな、大したもんじゃないっすよ。あ、馬車の音がしてますよ。そろそろ玄関に向かわないと」

「え、本当?パンドゥさん耳いい!じゃ、いってきまーす」


 ニコニコと手を振ってくれるパンドゥさんは、この家での数少ない俺の味方だ。

 パンドゥさんに妙に親近感を覚えるのは、昔の俺に似ているせいかな…と思ってみたり。

 玄関に着くと、馬車はもう到着をしていた。一緒に乗るマギリアはまだ降りてきていない。

 副執事のセバスチャンさんの手を借り、馬車に乗り込むと、制服の陰にバスケットは隠す。ちらりとセバスチャンさんは、バスケットに目をやったが、それ以上は聞いてこなかった。


「本日は神殿にはお寄りになりますか?」


 マイオニー家の執事長は高齢で、実質、副執事のセバスチャンさんがこの家を取り仕切っている。

 亜麻色の髪をした几帳面そうな面立ちの、二十代イケメンで、じつはマギリアのお気に入りだ。


「はい。神殿からの帰りは、馬車を出していただけるそうです」

「そうですか。では学校から神殿までは、貸馬車を頼んでおきます」


 ジュリアス様からの通達があったのか、俺の警備状況は瞬く間に改善された。


「セバス、何をしているの!手を貸して」

「失礼いたしました。マギリア様」


 待たせたのに詫びもなしか。セバスチャンさんが、マギリアに白い手袋した手を差し出す。マギリアは必要以上に握っている。


「嫌だわ。臭う」


 また始まったよ。毎朝の事だとわかっちゃいるが、いい加減腹が立ってきた。

 平民臭いとか言いだすんじゃねぇぞ、いつか泣かす。


「申し訳ございません。御者の掃除が足りなかったようですね。確認を怠った私の責任です」

「や、やだ違うわよ、もう良いから出して!遅刻しちゃうでしょ」


 胸元に手を置くと、そっと首を傾げる。


「ありがとうございます。お気を付けていってらっしゃいませ」


 顔を赤くしたマギリアは、その日は馬車の中で何も言ってこなかった。

 ぼんやりと、セバスチャンさんに助けられたなぁと思った。

 

 馬車止めで、マギリアはさっさと降りると、友人を見つけて教室へ行ってしまう。俺はバスケットを持ってこっそりと降りる。


「おはよう、コリンヌ。すごい荷物だね?お昼?」


 急に軽くなった右手に、慌てて顔を上げると、マイクが持ってくれていた。

 こーゆーとこ、紳士だよな。


「おはようマイク!ふふ、内緒。でもランチボックスじゃないのよ」


 基本、この学園の生徒は学食を使うからね。自分で昼を持ち込むのは、高位貴族と一部の生徒くらい。

 毎月の授業料に組み込まれている学食は、メニュー多彩で美味しく食べられるのだが、食堂の味付けが口に合わない貴族とか、体型を気にする女生徒などは、自分で好きなものを持ち込んだりもする。

 ちなみに高位貴族は、ハイソなサロンで食事ができる。ゲーム内では、キリアンにお昼を誘われて行ける、個室イベントがあった。


「内緒かぁ、んじゃ、聞かない。あ、ここからは男子禁制だからね。気を付けて」


 ちょうど、淑女科と普通科の棟が違うところでマイクとは別れた。


「持ってくれて、ありがとう。後でね」

「ん?後で?」


 不思議そうなマイクに手を振って、クラスへと急いだ。

 今日はイベント目白押しの、初めての選択授業の日だからね。大忙しだ。


 まずは、朝、裏庭の花壇でエアリルを見つけて、花壇の花を手折ろうとするエアリルに声をかける。


「せっかく咲いているのに可哀そうだわ」


 手元にある花をみて、エアリルが言う。

 ゲームだと入学式に会っているから、初対面じゃないはずだったけど、実際は初対面だから、そこは臨機応変で。


「君か…元々折れていたんだ。それにこれはヨモ、かゆみ止めにもなる薬草だよ」


 焦るコリンヌは、慌てて謝る。


「ご、ごめんなさい。それが、かゆみ止めになるの?エアリル様は物知りなのね」

「別に、これくらい…」


 頬を染めるエアリル。ちょろい。

 ちなみにエアリルは、自分が幼いころ体が弱かったこともあり、本当は医師か薬師になりたかった。選択授業で薬草学を取るのもそのためだ。


「薬草にしてはとても綺麗ね。効能があるって知られなければ、ただの花でいられたのに。効能があるってわかったら、摘み取られてしまう。少し可哀そう…」


 自分も加護さえ分からなければ、普通の女の子でいられたのに…と、市井の頃の家族を思い、寂しそうな横顔を浮かべるコリンヌにエアリルは見とれる。

 前世の実家が農業だった俺としては、おいおい、ブロッコリーだって、カリフラワーだって、花の部分を食べてるんだぜ、美味しいだろ?と思うが、リュミエールが苦手で、引きこもりだったエアリルは、異性慣れをしていないせいか、別の捉え方をする。


「君は…とても…優しいんだね」

「えっ?」

「何でもない。これあげるよ。可哀そうと思うなら、ちゃんと部屋にでも飾ってあげて」


 ヨモの花を押し付けて、赤くなったエアリルは走って去っていく。

 画面で見ていて、エアリル、急に走って大丈夫かと心配になったもんだ。

 BOY MEETS GIRL 少年は少女に会って恋をする。

 型どおりに。お決まりに。

 逆ハーエンドぎりを目指す俺には、大切な工程だから、悪いけどフラグ立てさせて頂きます。

 

 しかしその朝、ホームルームぎりぎりまで待っていたが、エアリルは現れなかった。



この日のエアリルは、お姉ちゃんが心配で、花壇のことなんて微塵も考えておりませんでした。

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