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第36話 ふたりきりで⋯⋯

 これだけ甘い空気になったことは今までなかった。アーリア王国に向かっている時の湖の件は、あれはただそういう雰囲気になったというよりも、俺が耐えきれなくて無理やりだったが今回は違う。

 俺だけでなく、俺の眼の前にいるアンラも同じ考えのようだ。もっと、もっと……自分の眼の前にいる大切な人を見たい……そんな思いが頭の中でいっぱいだ。


「んー、ルーカスぅ!」


「うわっ! ど、どうしたんだ急に――――!」


 アンラは甘えた声で俺の名前を呼びながらもたれかかり、俺を押し倒した。今、俺の腹の上にアンラが乗っている状態になっている。

 彼女は息を荒くしながら唇を重ね、舌を入れてくる。いつもと違って、今日はやけに積極的になっているような……。


「ぷはっ……! ど、どうしたんだ今日は?」


「だめ……。もう抑えきれない」


「えっ――――ちょっ!? ア、アンラ――――むぐっ!?」


 アンラは俺の頬に手を添えると、またキスをしてきた。それを何度も、何度も繰り返す。

 そんな彼女を俺は受け入れた。だって俺達は恋人、そしてこれからは夫婦になるのだから。こんなことをしても許される。


「――――」


 アンラの服が乱れてしまい、片方の肩の素肌が現れた。彼女はプライベートで肩が露出した服を着ることがあるため、俺にとってはよく見る部位ではある。何度も見てはいるけど、こんな雰囲気になっているせいか、もうすでに色気があるような気がした。

 肩の次は上腕、腕は折れてしまいそうなくらい細い腕だ。これだけ細い腕を持っているのに、どうやったら巨大な荷物など重いものを持てるのだろうか。ちなみにアンラ本人に聞きいてみたら、全然平気だとけろっとした顔で言っていた。全く、恐ろしい……。


「前にもルーカスに聞いた気がするけど、その――――胸が大きくない女の子は嫌い?」


「まさか、それもアンラの魅力だって思ってるぞ?」


「ふふっ……何だか安心した」


「何でだ?」


「だって、周りの女の人ってみんな大きいじゃない。男の人ってそういうのに興味を惹かれるって聞いたことあったから」


 そういえばこんなことを思い出した。それは俺がまだ七帝にいた頃の話だ。急にセイフが俺を呼び止めると、いきなりとんでもないことを言い出した。


『ルーカス! ここの世界の女の人って何であんなにおっぱい大きいの!?』


 あまりにもどストレートすぎる言葉を使って質問され、俺は思わず飲み物を吹き出し聞き返してしまった。どうやらセイフがいた世界の人はそこまで大きくなかったらしい。

 俺はずっとこの世界で過ごしてきているため何も違和感を感じなかったが、彼らにとっては驚きでしかなかったようだ。

 後に聞いた話だが、全員が前の世界にいた時と見た目はほとんど変わっていないらしく、それが気に食わなかったのか、ミライも自分の胸を気にしていたという。

 アンラは平均的に比べたらそこまで大きくはない。かと言って小さいというわけでもない、丁度狭間と言ったところだろうか。それでも彼女には十分魅力がある。


「まあ……大半はそうだろうな。でも、俺はそんなことでは判断したりしない。俺は外見が全てじゃなくて、中身も気にしてしまうからな……」


「そうね。前も言ってたもんね。ルーカスのそういうところがわたし一番好きなの」


 アンラは何だか嬉しそうな表情をすると、顔を近づけた。また何度かキスをすると、だんだんと肌が露わになっていく。ゴソゴソと服が擦れる音が聞こえるだけでも、俺の本能が呼び起こされそうになる。


「ふふっ……。前回はルーカスに攻められちゃったから、今度はわたしの番よ……」


 顔を離してアンラの全体が見えるようになると、彼女の全身が露わになっていることが分かる。前回、湖の時にも見たことはあるが、やはり彼女の体は魅力的だと感じた。雰囲気に飲まれてしまっているせいもあるとは思うが⋯⋯でも、そんなことはどうでも良い。今はアンラともっと近くに居たい、それだけだ。


「じゃあルーカス⋯⋯遠慮はいらないから」


「じゃ、じゃあお構いなく……」


「――――っ!」


 俺はアンラに言われた通り、手を伸ばしてアンラの肩にそっと触れた。いきなりでびっくりしたのか、アンラはびくりと身体を反応させた。

 触ったらすぐに分かった。女の子の肩って、触れてすぐに分かるくらいこんなに細くて小さいんだな。それなのに、アンラは俺以上の力を持っていることに驚かされる。


「アンラ」


「ん⋯⋯」


 俺はアンラを誘導させるように優しく肩を掴みながら、自分に引き寄せた。そしてキスをした。

 お互いの想いを感じ合いながら何度もキスをして、そしてゆっくりと顔を離す。俺の目の前は、またアンラの顔が見えるようになった。

 俺のことをじっと見つめるアンラを見て、俺はさらにアンラを求めた。


「アンラ、綺麗だ」


「ふふっ、そういうルーカスもすごくカッコいいわよ」


 お互いを褒めながら、俺達はさらに求め合った。


「ねえルーカス、もう良い? わたし、もう我慢の限界⋯⋯」


「ああ、俺も我慢の限界だ」


「じゃあ、遠慮なく⋯⋯って、そんなにじろじろ見ないで! は、恥ずかしいから⋯⋯!」


「え、あっ、ご、ごめん! でもアンラが魅力的だから⋯⋯」


「――――っ! またそんなこと言う! 嬉しいけど恥ずかしいからやめて!」


 顔を隠しながらそう言いつつも、アンラの顔は段々と変化していった。そう、もっと欲しいとでも言うように。

 俺はそれに応え、アンラがやりたいことを全てやった。俺が率先しても良かったが、それよりもアンラがどんどん欲望のままになっていく姿を、もっともっと見たかった。

  突然アーリア王国を追放されて、狂ったように狂獣(きょうじゅう)の森で魔物を狩りまくった挙げ句に意識をなくし、気づけばシャイタンにいて――――。でも、ここに連れられたことは全く後悔していない。何故なら、こんなに幸せな生活を過ごしているのだから。

 だからこそ、アンラを大事にしていくと誓った。俺の人生を変えてくれた恩人でもあるし、何よりも俺が大好きな愛してやまない素敵な女性でもある。そんな人を離したり、悲しませたりすることは絶対にしたくない。いや、絶対にさせるものか。









◇◇◇








 しばらく時間が経った時には、俺たちは疲れ切ってしまい、布団を被って寝転がっていた。


「はあ、はあ⋯⋯。ルーカスったらいつまで経っても止めようとしないから疲れちゃった⋯⋯。


「そ、それはぁ⋯⋯。アンラのあの顔を見たらそうなっちゃうに決まってる」


「まあ、わたしも途中から歯止めが効かなくなっちゃってたからお互い様ね」


 さすがに頑張りすぎてしまったみたいだ。お陰で体も悲鳴を上げて立つこともままならない状態だった。

だから、こうして布団を被って話すことくらいしか出来なかった。


「にしても、アンラがまさかあそこまで積極的だなんて。こういうのはすぐに恥ずかしがるイメージが強いから」


「わたしだって本当は恥ずかしいよ……。でも、ルーカスからあんな嬉しいこと言われたらそうなっちゃうに決まってるわ」


「だから最初からあんなに⋯⋯」


「そ、そこはあんまり触れないで欲しいなあ……」


 顔を真っ赤にして視線を逸らすアンラ。いや、あの時のアンラは本当にすごかった。そのせいで、俺はめちゃくちゃ興奮してしまった。


「ねえルーカス」


「何だ?」


「もう1回抱きしめても良い?」


「良いぞ。おいで」


 俺が手を差し伸べると、アンラは近づいて俺の背中に腕を回して抱きしめた。


「――――はあ……幸せ……」


 アンラは俺の顔を見ながらそう言った。勿論お互い服は一切着ていないのでアンラの体温が直に伝わる。普通なら男の(さが)で興奮してしまうところだが――――流石に疲れてしまっているせいで元気はなかった。

 ただ、アンラと触れて幸せという感情だけ。それでもやはり想い人とこうしていると自然と幸せだと感じられるものだ。


「ルーカス、キスして……」


「分かった。じゃあ目を瞑って」


「うん……。んっ……」


 俺はアンラに顔を寄せて、唇を重ねた。しばらく経って顔を離すと、ゆっくりとアンラの目が開いた。大きくて綺麗な赤い瞳が俺の目に映る。


「アンラ……。これからもずっと一緒に居よう。俺はアンラが好きだ……大好きだ」


「わたしもルーカスのことが大好きよ。お互い支え合って頑張っていこうね」


「ああ⋯⋯!」


 アンラは微笑むと、疲れてしまったのか俺の腕に頭を乗せたままスヤスヤと寝てしまった。そんな彼女の頭を撫でてあげると、奥の窓に映る月明かりを見た。それを見ながら、アンラとの幸せな結婚生活はどうなるのかと思い描くだけで、俺は嬉しくてたまらなかった。

さあ、当作品もクライマックスに近づいて参りましたが、最終話まではもうちょっと続きます。次回からはその後の話になります。

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