第33話 両親との再開
「父さん……」
俺の目の前にいる、タオルを頭に巻いて、半袖・半ズボンの男――――俺の父さんだ。全身が日光でこんがりと焼けている。
「ほ、本当にルーカスなんだな?」
「そうだよ父さん。突然訪れて、しかもこんな姿になっているけど、俺は正真正銘のルーカス・アンワルだよ」
「そんなもん声ですぐに分かったよ。久し振りだなルーカス。おかえり」
「久し振りだね。ただいま」
父さんは目に涙を浮かべていた。七帝になってからずっと顔を見ていないため、俺も目頭が熱くなった。
「そういえば、ルーカスの隣にいるのは……?」
「ああ、紹介するね。彼女はアンラ・スルターン。俺の……婚約者だ」
「へ?」
俺はアンラの紹介を父さんにすると、一瞬体が固まった。
「あ、あの初めまして! ルーカスの婚約者のアンラ・スルターンと言います……」
「ちょ、ちょっと待て2人とも!」
あまりにも急すぎる話のせいで、父さんは手を俺とアンラの前に突き出して待てをする。
「婚約、だと……? お前いつの間にか彼女なんて作っていたのか? 昔は女になんか興味なかったのに……」
「昔はね。でも今は違う。彼女は俺の傍にいてくれるし、俺も彼女の傍にいるんだ」
俺は隣にいるアンラの肩を抱いて引き寄せた。アンラは驚いた表情だったが、だんだんと頬を赤くしながら俺を見て微笑んだ。
それを見た父さんは、
「――――そうか。ルーカスも大人になったな……。母さんもいるから、家に入れ」
「うん」
父さんはそう言って、家へと向かって行ってしまった。もっと話をしたかったが、家に母さんもいるみたいだし、その時にまた話せばいいか。
「ルーカス」
「ん?」
「――――ん」
「――――!?」
アンラは急に唇を重ねてきた。俺の首の根っこに手を回すと、俺の口の中に舌を入れる。もしかしたらさっき父さんに邪魔されたから我慢できなかったんだろう。
俺も勿論邪魔されて物足りなかったから受け入れてあげた。普段より長めにしたあと、お互いゆっくりと顔を少しだけ離した。俺の眼には、赤くて透き通る綺麗な瞳が映る。
「ルーカス」
「なんだ?」
「わたし……今すごい幸せなの。ルーカスに出会わなかったら、こんなに毎日が楽しく過ごせることなんてなかったと思う。だから……ルーカス大好き……」
アンラはそう言って、俺の唇にトンっと唇を当てた。
「俺もアンラに出会えてよかった。こんなに充実してて、自分が大事に想える人が出来て、すごく嬉しいんだ。戦いの前にアンラに伝えたけど、もう一回言わせてくれ」
俺はアンラを見つめると、またあの時みたいにアンラに伝えたい言葉を伝えた。前回は戦いの直前だったから少し重い感じだったけど、今回はちゃんとアンラに伝えられる。
「俺はアンラが好きだ。大好きだ。これからもずっと傍に居たい。俺と結婚して下さい!」
俺はアンラに全力でプロポーズをした。もう俺の気持ちは昂りすぎているくらいになっていた。アンラはふふっと笑うと、
「わたしもずっとルーカスの傍に居たい。わたしはルーカスのお嫁さんになりたいってずっと思ってた。だから……すごく嬉しい!」
アンラは目に涙を浮かべながらそう言って微笑んだ。俺はアンラを強く抱きしめると、また唇を重ねた。
◇◇◇
俺の修行場から移動し、さきほど歩いた道をさらに進むと、見えてきたのは小さな木造の一軒家――――俺の実家だ。
家の周りには畑が広がり、色んな野菜が植えられている。まだ芽が出たばかりで、可愛らしい小さな子葉が顔を覗かせていた。
「なんだか、久し振りにこういう光景を見た気がするな」
「ルーカスの実家は農家さんなのね?」
「実はそうなんだよ。だから野菜の育て方も一通り知ってる。これならあと3、4ヶ月すれば食べられるようになると思うぞ?」
「へえ。わたし畑なんて初めて見たかも」
そうか、アンラのような魔族は基本肉類を主食としている。たまに野菜が皿の片隅に添えられていたりするけど、アンラには畑というものには馴染みがないかもしれない。
実家から少しだけ分けてもらってアンラに食べさせても良いし、アーリア王国の周りの住民はほとんどが農家だから、魔族やモンスターたちに広められるきっかけになるかもしれないな。
「おーいルーカス! 中に入ってお茶でも飲んでゆっくりしていてくれ!」
「はーい!」
玄関の扉から顔を覗かせ、父さんは俺にそう言った。まだ作業があるみたいで、父さんはせこせこと向こう側の畑へ行ってしまった。
「今日は暑いし、中で休んでようか。戦いで大分疲れてるし……」
「うん、わたしも一息入れたいかな」
俺とアンラは立ち上がり家の扉の前まで行くと、俺は扉の前で立ち止まった。――――待って、俺もしかして実家に女の子入れるのもしかして初めて?やばい、めちゃくちゃ緊張してきた……!
しかも家の中には母さんがいる。俺が婚約者を連れてきたなんて言ったら、母さんはどんな反応をするだろうか。
「ルーカス入らないの?」
「はい入ります!」
アンラの声に我に返った俺は、恐る恐るドアノブに手をかけた。一旦深呼吸して自分の気持ちを整えると、俺はゆっくりと扉を引いて開けた。
「久し振り母さん……」
扉を開けて顔を覗かせると、向かいにある机で編み物をしていた母さんがそこにいた。俺は恐る恐る声をかけると、母さんはゆっくりと俺を見た。
「――――きゃあああああ化け物おおおおおお!!!」
「ちょっ、母さん!? いったああ!!??」
母さんは俺の姿を見た瞬間、叫び声を上げて顔を真っ青にすると、俺に向かって魔法を放った。見事に俺にヒットし、俺は後方に吹き飛ばされた。
「ルーカス!?」
「ってて……。ちょ、ちょっと母さん俺だって! ルーカスだって!」
「そんなの信じられないに決まってるでしょ!? わたしの息子がそんな忌々しい姿してるわけ無いでしょうがあああ!!」
「それにはわけががあってこんな状態になってるんだ! だから今だけは我慢してほしい!」
「――――なーんて冗談よ。お帰りなさいルーカス! さあさあ中に入って頂戴。お茶入ってるから」
「ちょちょちょ! もしかして今のは全部……」
母さんは俺にくるりと振り返ると、にっこり笑った。
「からかっただけよ!」
ばちっとウィンクを決めて俺にそう言った。
や、やられた……。俺の母さんはいつもこうだ。しょっちゅう俺をからかって笑っている。
「ルーカスとお母さんってすごく仲良いんだね!」
「どこがだよ……」
「あの感じだと、自分の息子が好きすぎてついからかっちゃうみたいね。なんかわたしもわかる気がする」
「はあ?」
「だってわたしだってしょっちゅうルーカスをからかってると思わない?」
アンラは上目遣いで俺を見つめる。くっ……可愛すぎる!もしかして、アンラはずっとこんなことして俺の反応を見て楽しんでいたというのか!?
「ふふ……ルーカスってそういうところが何だか可愛く見えちゃうのよね」
「べ、別に……」
「でも、たまにわたしにカッコいいところ見せてくれるところが好きなの」
少しだけ頬を赤くしてそう言うアンラを見て、俺はドキッとした。そうか、こういう反応を俺はするからからかいやすいのかもしれない。
すぐにツッコミを入れてしまうのは小さな頃からそうだった。だからこそその反応が面白くて、ついからかってしまうのかも……。俺が持つ唯一の弱点かもしれないな……。
「ほら、母さんの前でいちゃついてないで、父さんが戻ってくるまでゆっくりしてて」
「「――――!? は、はい!」」
俺は父さんが戻ってきたら両親に報告することがあると考えただけで、ずっと心臓がバクバクなってうるさかった。結局父さんが帰ってくるまで待っている時間もずっと緊張のしすぎで、全然ゆっくり出来なかった。




