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キミは星の王子様~父さんな、実は魔王ルシファーなんだ~  作者: カブキマン


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祝福 6

 ミカエラへの宣告から一週間後。

 一旦、天界に戻っていたガブリエルは再度地上を訪れミカエルと顔を合わせていた。


「これは主の命によるものではなく私たちの判断によるものです」

「そうですか」


 鳩の姿をしているので表情は分かり難い。

 それでもガブリエルの目にはさしたる動揺もないように思えた。


「……落ち着いていますね。この一週間で心の準備を?」

「いえ。正直に言うとミカエラに試練をというのは今が初耳です」


 その言葉にガブリエルが目を丸くした。

 母親ならばまだ分かる。彼女は今はもう一般人だから心配をかけたくないのだろう。

 だが父親にして当事者でもあるミカエルにまで教えていないとは思ってもみなかった。


「私に心配を……というのもまあ僅かばかりあるのでしょうが」


 少し照れ臭そうにミカエルは羽根で頭をかきながら言う。


「……私は既にやるべきことをやった、とそう思っているのでしょうね」


 果たすべき責任、通すべき筋は通した。

 であればこの件について思い悩むことは一切ない。

 そう判断したからミカエラは何も言わなかったのだろうと。


「だとすれば申し訳ないことをしてしまいましたね」

「いえ。あなたの口から聞けずともどこかで耳には届いていたでしょう」


 ミカエラもそのことは承知しているはず。

 その上で自分が何も言わなかったことを酌んでくれると思ったのだろうとミカエルは笑う。


「……良いのですか?」

「私が現職の天使長であったなら同じ判断を下していたことでしょう」


 表面上は大きな争いがあるわけではない。

 しかし、水面下に見え隠れする火種は過去最大の難局へと繋がりかねないものだ。

 過去にも大きな争いは幾度もあったが今と昔ではワケが違う。

 爛熟した今の社会において超常存在が世界規模の何かをしでかせばどうなるか。

 積み重ねた歴史が大きく後退するか。

 或いは超常存在に振り回されることを嫌った人間が禁忌を重ね未曽有の地獄が出現するか。


「……兄さんは人が多くを積み重ねるのを待っていたのかもしれませんね」


 ルシファーの悪意に対抗するためには力が必要だ。

 それが兄弟である自分なら尚のこと。

 ガブリエルが下した天使長としての判断は間違っていないとミカエルは言い切った。


「ですがあなた個人としてはどうなのです? 愛する娘の命が喪われるかもしれないのなら」

「思うところがないと言えば嘘になります」


 ですが、と誇らしさを滲ませながらこう続けた。


「ミカエラは私の娘として産まれたその瞬間から多くの苦難に見舞われてきました。

情けないことですが父として私がしてやれたことは何もありません。

それでもあの子は母や友、素晴らしい隣人を愛し愛されながら今日まで歩いて来たのです。

私はそれを誇らしく思う。ならば私がやることは一つしかありません」


 情けない父ではあるが、それでも親ならばどうするかは決まっている。


「信じるのです。今日までのあの子を。今日を繋いで明日へと向かうあの子を」


 ただただ信じる。それが親の役目だとミカエルは言う。


「……そうですか」

「はい。同胞たるあなたを、我が子ミカエラを信じて審判を待ちましょう」


 しばし無言の時間が流れる。

 だがそれは決して気まずいものではなく降り注ぐ日差しのように穏やかなものだった。

 そんな穏やかな空気をぶち破るように陽気な声が響く。


「はっつぁああああああああああああああああああああああああん!!」


 その声はガブリエルも知っているものだった。

 翼を消しているとはいえ完全に気が緩んでいたので今から姿を隠すこともできない。

 だがまあ良いかと素知らぬ振りではじめましてをすることにした。


「あなたの心の一番星、明星じ……おっと?」


 公園にやって来た次郎が目にしたのはどえらい清楚系美人の肩に止まる友人の姿だった。


「おいおいおいどこでそんな別嬪さん引っ掛けたんだよ。はっつぁんも隅に置けねえなあ!」


 ミカエルはそんなんじゃありませんよと苦笑しつつガブリエルを紹介した。


「私の友人です。名前はガブリエラ」


 嘘でしょ? とガブリエルは内心、動揺した。

 そんな露骨な名前を出す普通? この場面で?


「……ひょっとして大天使ガブリエル」


 ほら! と内心焦っていると、


「の娘とかそういうアレだったりする?」


 ズレた予想が飛んで来た。


「その人、何かすげえホーリーな感じするし名前もミア先生みたいだし」


 ああそういうことかとガブリエルは胸を撫で下ろす。

 ミカエルのことは知らずともミカエラがミカエルの娘であることは知っているのだ。

 それゆえ感じる力や神聖な気配、名前と相まってそのような勘違いをしたのだろう。


「いえ違いますよ。ミカエラにしてもガブリエラにしてもそう珍しい名前ではありませんので」


 欧州では天使の名に肖った名前はポピュラーなのだと言うと次郎もすんなり納得した。


「だよな! まあそうそういねえよなそんなレアな人」


 希少性という意味でなら目の前に、と言いたい二人であった。


「っと、自己紹介が遅れちゃいましたね。俺は明星次郎っていいます」


 そこのはっつぁんの友達ですと頭を下げられた。

 かつて見定めた際にも感じたがつくづく……と思いつつガブリエルも自己紹介を返す。


「これはご丁寧に。ガブリエラと申します。次郎さん、と呼んでも?」

「っす! 全然OKっす!」

「ふふ、ありがとうございます。ではそう呼ばせて頂きますね次郎さん」

「いやいや。ってかはっつぁん、俺邪魔しちゃった?」

「そんなことはありませんよ。ねえ、ガブリエラ」

「ええ。ただぼんやり日向ぼっこをしていただけなので」


 ぽんぽんとガブリエルが隣を叩くと次郎もベンチに腰を下ろした。


「ガブリエラさんは外国の方っすよね?」

「はい。欧州の出です。日本へは観光目的でやって来ました」


 そのついでに、と言いかけたところでガブリエルは少し言葉に詰まった。


「旧い友である彼……えっと」

「あ、はっつぁんが色々複雑な身の上なのは聞いてるんで大丈夫っす」

「そうですか。では私もはっつぁんと」


 ミカエルは思わずガブリエルに視線を向けた。

 そこは別に二人称でも良いだろうにと。

 はっつぁんと呼ばれるのが嫌なわけではない。

 ただガブリエルの見た目でそれはちょっと面白いからやめてほしかったのだ。


「観光ついでに久しぶりに旧友のはっつぁんに会いに来たのです」

「なるほど。ちなみに日本には何時まで居るんすか?」

「とりあえず今月いっぱいは」


 本来、天使長がそれだけ長く天界を留守にするのはよろしくないことだ。

 だがミカエラの試練以外にもやることがあった――牽制である。

 今、人間の姿になっているとはいえそれでも見る者が見ればその正体は明らかだ。

 天使長ガブリエルが人間に化けて地上をうろついている。

 その事実だけで良からぬことを考えている者には良い牽制になる。

 普段ならそんなことはしないが明星次郎を巡る昨今の情勢を考えれば当然の判断だろう。


「じゃあ良ければ俺とはっつぁんで色々案内しましょうか?」

「あぁ、それは良い考えですね」


 とミカエル。

 おいおいとガブリエルが軽く視線を向けるが、


(既に見極めは済んだとはいえ近くで言葉を交わす良い機会でしょう)


 と念話が返って来る。

 確かにと納得したがそれはそれとして、


「よろしいのですか? 次郎さんも色々と忙しいのではありませんか?」

「いやぁ、最近はそうでもないんすよ。夏休みはクソほど忙しかったんですけどねえ。

今は同盟の依頼とか妙な揉め事もありませんし」


 続く言葉に大天使二人は頬を引き攣らせた。


「実は俺の師匠。さっきちらっと名前出したミア先生っつーんですけどね?

なーんか忙しいらしくて指導の時間も減ったんすよ。それで俺も結構暇してるっつーか」


 どう考えても原因はガブリエルであった。

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