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キミは星の王子様~父さんな、実は魔王ルシファーなんだ~  作者: カブキマン


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変人ラッシュ 7

「いやあ、それにしてマコちゃんは女の子なのに凄いなあ」


 その日、真はバイト先の工務店で現場仕事に精を出していた。

 細腕でのっしのっしと資材を担いで歩く姿はとても女のそれには思えない。

 社長が驚くのも無理はないが事情を説明できるわけがないので真は小さく頷くに留まった。


「こんな若い子が頑張ってんだからお前らもシャキシャキせんかい!」

「確かに負けてらんねえわなあ」

「だったら社長も手伝ってくださいよ~」


 誰かと比較するような物言いは軋轢を生むことが多いがこの工務店は違う。

 元々の雰囲気もあるが死んだ父親が勤めていて小さい頃から今に至るまでお世話になっていた。

 社長や社員たちからすれば真は娘のようなもので空気がおかしくなるようなことはない。

 

「今日もお疲れさん。バイト代、色つけといたからな」

「すいません」

「良いって良いって。夏休みなんだからパーッと遊んで来なさいな」


 再度、頭を下げると社長は懐かしいものを見るように目を細めた。


「……ホント、親父さんそっくりだなあ」

「……ありがとうございます」


 父にそっくり。それは真にとって何よりも嬉しい言葉だった。

 微かに緩んだ口元がその証明だ。


「はは、嬉しい時ほんのちょっぴり口元が緩むとこもアイツを思い出すよ」


 真にとって父は誰よりも尊敬する人間だ。

 父のように生きたいと心の底から思っている。

 だからこうして父のようだと言われる度に心が弾んでしまう。

 少し社長と話をしてから真は軽やかな足取りで家路についた。

 まあ軽やかと言っても傍から見れば特に変化はないのだが。


「来てたのか」

「来てたよ~」


 スーパーで食材を買って家に帰るとライラが寝転がってテレビを見ていた。

 紛うことなき不法侵入だが特に気にせず真は茶の用意をした。


「サンキュ。早速だけどあんた、今日はお疲れ?」

「問題はない」

「だよね。まあ一応聞いてみただけ」


 このやり取りで何の話かもう理解した。

 聞く姿勢に入った真を見てライラはニヤニヤと笑いながら話を始める。


「友達の知り合いがさ。あたしと同じような目的で代理戦争に参加してるわけ」

「珍獣観察か」

「自分で珍獣とか言っちゃうんだ」

「お前の目的からすればそうとしか言えないだろう」

「そうだけどさあ……まあその知り合いが契約してる人間ってのが中々面白くてさ」


 中々面白い。

 ライラがそう評価したプレイヤーは当たりが多い。

 結局自分の願いを叶えられるほどではなかったが、これはと思わせられる場面が幾度もあった。

 ならば今回も期待が持てると真は視線で続きを促した。


「名前はダイナー・モルゲンシュテルン。忍者になりたいドイツ人で年齢はあんたとタメ」

「……忍者」

「うん忍者。理想の姫に仕える忍者になるのが目的で代理戦争とかマジ眼中にないの」


 そういう意味ではあんたと同じだねとライラは笑う。

 真としてもまったく以ってその通りなので否定はしなかった。


「実力もかなりのもんで話に聞く限りじゃあんたより強いんじゃない?」

「……ほう?」

「あっは、興味津々って感じ。どうする? 今夜にでも襲撃かける?」

「行く」

「はい即答。OKOK。そゆことなら今日はあたしがご飯作ったげるからあんたはゆっくりしてな」

「そうさせてもらおう」


 そうと決まれば即行動。

 食事の用意をライラに任せ真は浴室に行きシャワーで一日の汚れを落とすことにした。

 無駄な時間はかけずかと言って雑にはならない程度にしっかりと身を清めた。

 井間に戻るとちゃぶ台の前に陣取り食事が出来上がるまでじっと待機。

 昭和のガンコ親父かな? みたいな振る舞いだがこれが堤平真という人間なのだ。


「お待たせ」

「ん」


 オムライスにサラダ、かぼちゃスープ、タルタルソースのかかった鮭のフライ。

 どれも真の好物ばかり。好きな物を食べて夜に備えろというメッセージなのだろう。


「ありがとう」

「どーいたしまして。さてさてあんたと忍者、どっちが勝つんだかねえ」


 黙々と食事を終え歯磨きをして深夜まで仮眠に入った。

 そして午前一時、目覚めた真は身支度を整え何時でも出られるようになったのだが……。


「あらー」

「どうした?」

「いや今連絡あったんだけど例の忍者、どうも先約があるみたいだね」

「そうか。それは仕方ないな」


 相手の都合を無視して襲撃をかけてはいるがそれはそれこれはこれ。

 先約があるというのなら日を改めようと再度、寝入ろうとする真だったが……。


「待った待った。最後まで話、聞けっつーの」

「?」

「その忍者とやり合う相手がさ、あんたが目をつけてる人間の一人なの」

「誰だ?」

「明星次郎。ルシファーの息子。うちらからすればプリンス様だよ」


 どうする? とライラが目で聞いてくる。


「行く」


 即答だった。


「OK。じゃ、デバガメしに行こっか」

「ああ」


 どれだけ言いつくろっても覗きに行くことに変わりはないのだ。

 デバガメという言葉を否定することはせず真はライラと共に決闘が行われる山中へ向かった。


「あれが例の……すっご、見ただけで馬鹿って分かるじゃん」


 鬱蒼とした森の中に佇むコスプレ染みた出で立ちで佇むダイナーはハッキリ言って不審者だった。

 遠巻きに眺めながらケラケラ笑うライラと無言の真。


「王子様はまだみたいだね。ってかさ、聞いて良い?」

「何だ」

「あんた何だって王子様に目ぇつけてるわけ?」


 桐生飛鳥、如月了とやり合った際に真は次郎の名に反応した。

 ライラは次郎のことを話した覚えはなかった。

 にも関わらず真は特別な反応を示したことが気になっていたのだ。


「いや同じ学校に通ってるのは知ってるけどさ。接点ないっしょ」


 同じクラスの生徒ともロクに関わりがないのだ。クラスが離れているともなれば尚更。

 そんな真が一体どこで次郎に目をつけたのか。


「私が一方的に知っているだけだ。お前と契約する少し前だったか」

「えーっと、ゴールデンウィークが終わって少ししたぐらい?」

「ああ。その時、偶然彼とすれ違った」


 その際、強烈に惹かれた。

 自身の望みを叶えてくれるのではと強く思った。

 だがその時はまだ真は一線を踏み越えてはいなかった。

 自分が逮捕されてしまえば父の名にも傷がつく。それだけは許容できない。

 ゆえに縁がなかったと直ぐに気持ちを切り替えた。


「あれ? じゃあ何であたしと契約してから襲いに行かなかったわけ?」


 ライラが隠蔽工作を行ってくれるので表立って逮捕されるような心配はなくなった。

 ならば一直線に次郎に襲撃をかければ良いのに何故そうしないのか。


「タイミングがなかった」


 契約してからしばらくは得た力を確認、練磨する必要があった。

 夏休みに入って少しした頃にはものになったと確信を得ることはできたが、


「明星は行方不明になっていたからな」


 実は何度か家を訪ねていたのだという真にライラは思い出す。

 そういや王子様は檻にぶちこまれてたんだったなと。

 あとは事前に襲撃をかける予定が埋まっていたのも理由の一つだ。


「だがこれで良かったのかもしれない」

「その心は?」

「直に見極められる」

「なるほど」


 そうこうしている内に強い気配が空からやってきた。


「来たで御座るか」

「来たで御座るよ。テメェのタマをもぎ取るためになあ」


 対峙する二人。互いが発するオーラは空間を歪ませるほどに濃密だった。


「へえ、これが……中々どうして」


 楽しそうにしていたライラだが突然、渋い顔になった。


「どうした?」

「……出て来なよ」


 心底嫌そうな顔でライラがそう言うと一羽の鳩が近くの木に止まった。

 偉く神々しいその鳩に真が無表情ながら驚いていると、


「後先考えずガキ作った結果がそれとか泣けるねえミカエル」

「本当の幸せというものを理解できない。悪魔というのは本当に哀れな生き物ですね」


 チッ! と盛大な舌打ち。


「プリンスの監視? 元天使長ともあろう御方が下っ端みたいなことやってるじゃん」

「当初はそういう目的があったことは否定しませんが今は違いますよ」


 彼は私の友人だとミカエルは断言した。


「それに当初の監視というのも理由としては保護に近いものですしね。

兄さんが良からぬことを考えているのは明白。

善き生き方をしている子供が悪しき陰謀に巻き込まれるなどあってはならないことですから」


 反吐が出ると、ライラは唾を吐き捨てた。


「態度悪いぞライラ」

「商売敵なんだからしゃーないっしょ」

「それよりあなた方はここで何を?」

「覗き」

「お、おぉぅ……何と迷いのない言葉でしょうか」


 ミカエルは軽く引いた。


「やるじゃん真!」


 バンバンと背中を叩くライラの手を真はべしっと払った。普通に鬱陶しかったからだ。


「お嬢さん、私もここで戦いを見守ってよろしいでしょうか?」

「構わない」


 もう会話をするのも面倒だった。

 だって今にも戦いが始まりそうだから。


「最終確認だダイナー。やるんだな?」

「無論」

「OK。俺も覚悟を決めたよ」


 ふぅ、と次郎は息を吐いた。

 するとその左頬が裂け鋭い牙覗く怪物の口が出現する。

 爛々と妖しい光を放つ眼でダイナーを見つめながら次郎は二つの口を開く。


「揺るぎなき愛を胸に私は剣を執る」

【背徳の喝采を謳い私は剣を執る】

「己がためでなく誰がため】

【誰がためでなく己がため】


 白と黒。正と邪。背反する詞が紡がれていく。


「誠心を切っ先に乗せ祈りを以って刃を振るわん」

【傲慢を切っ先に乗せ我欲を以って刃を振るわん】


 ズン、と次郎から発せられる圧が増す。


「【誓いを此処に】」


  更に言葉を紡ぐと光と闇がその肉体より噴き出し、


「【――――若き明星(スターライト)誓詞(プレッジ)】」


 炎のように揺らめく光と闇の翼が背なに形成された。


「行くぜ」

「!?」


 地を蹴りダイナーが反応すらできないほどの速度で距離を詰め、


「歯ぁ食い縛れ!!」


 次郎は拳を振り抜いた。

 木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ぶダイナー。しかし追撃はない。

 油断? 慢心? いや違うと真は直感的に理解した。


(待っているんだな)


 恐らくダイナーは次郎の力を読み違えていた。

 ゆえに最初の一撃はさっさと意識を追いつけろという気つけ薬のようなもの。

 受け止めようというのだ。余すことなく受け止めて真っ向から打ち破るつもりなのだ。


「……ッ」


 胸が震えた。

 確信した。

 やはり明星次郎こそが己の望む求め人だったのだと。

 これまで機を逸していたのは今日この日のため。

 直にその姿を確認することで万全の状態で臨めるようにということだったのだ。

 根拠はない。しかし真は心底からそう思っていた。


「……非礼を詫びさせてもらうで御座る」


 ようやっと戻ってきたダイナーが口から血を垂れ流しながら深々と頭を下げた。


「そこまでの熱を以って決闘に臨んでくれているにも関わらず拙者は貴殿を舐めていた」

「だろうな」

「貴殿こそが仰ぐに足る姫と言っておきながら何たる無礼か」


 再度、謝罪の言葉を口にした。

 そして頭を上げると忍者刀を引き抜き構えを取った。


「ここからは全霊を以ってお相手致す」

「ああ。決めようぜ」


 次郎は言う。


「拙者の玉と」

「俺の玉」


 互いに言葉を重ね、


「「何方(どちら)生存(いき)るか死滅(くたば)るか!!」」


 同時に駆け出し男を賭けた死闘が始まった。

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― 新着の感想 ―
最後の台詞から忍者と極道味を感じる…
親父さん身内からの信頼値−ですね
こんだけカッコいいしやってることはタマの取り合いって書くとシリアスなはずなのにタマの意味が違うだけで旗から見たらギャグなのもうバグとしかいいようがないよね…。
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