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悪い奴だぜルシファー… 3

 何とも味気ない肝試しになりそうだ――――じゃねえよ馬鹿がッッ!!


(結局この有様じゃねえか!!)


 廃墟に入って目的の部屋に足を踏み入れるや藤馬が俺たちを出迎えた。

 一目で分かった。これはやばいと。そうして逃げ出したが何故か出られず今に至るというわけだ。

 今にして思う。朝から続いた不吉ラッシュの合間に挟まれた先生とのデート。

 あれはこの後もっとひどいことが待ち受けているからという慈悲だったのだろう。


(クッソどうする親父に連絡するか?)


 いや親父を上手いこと説得して魔王に復帰させることを呑ませたとしてもだ。


(他の悪魔がそれを受け入れるか?)


 腕っぷしだけではまとめきれないから代理戦争の形式に定まった。

 この方法なら魔界の王という椅子を手に入れられるのだ。野心ある者にとっては好都合だろう。

 下手に親父を混ぜたら更に酷いことが起こったりするのでは?


(お、親父めぇ……!!)


 親父が魔王の座を放り投げたのはタイミング的に考えて明星一家のことだから俺としては責められない。

 だがそれはそれとしてめちゃ気まずいぞ。飛鳥と了がこんなことに巻き込まれたの俺のせ、


「……理解した。だが解せないことがある」

「だよね。僕も了も代理戦争なんて初耳だ。駒になることを了承した覚えはない」


 ……言われてみれば確かに変だ。

 二人は事情を知らぬまま突然、巻き込まれた。俺を欺いていたとかそういうことはないだろう。

 仮にそうでも俺もドデケエ秘密を抱えてるし何も言えないんだがな。

 ともかくだ。藤馬の話を聞く限りではどうも悪魔が強制的に人間を戦わせているという感じではない。

 もしそうなら推すなんて言葉は使わないだろう。ならば何故、二人はプレイヤーになっている?


「そう! そこは俺も気になってたのさ。間違いなくお前らはプレイヤーだ」


 藤馬が左手の革手袋を外す。手の甲には妙な刻印が刻まれていた。


「こいつは契約の証さ。相応の偽装をしてなきゃ互いの刻印に反応しちまう仕組みでな」


 明滅する刻印を撫でながら続ける。


「反応は間違いなくお前らから感じる。探せば体のどこかにデザインは違うが似たような刻印が刻まれてるはずだ」


 だが、と藤馬は首を傾げる。


「コイツはあくまで契約だ……ギャグじゃねえぞ?」

「「そういうのは良いから」」

「つまんねえ奴らだな。そんなんじゃモテねえぜ?」


 自分の命狙ってる奴の前でジョーク飛ばせるかよ。


「悪魔は駒になってもらう代わりに戦うための力を与え何かしらそいつの願いを叶えてくれる」


 願いの重さによっては魔王になった後でのことになるが何にせよ契約はキッチリと結ばれる。

 どちらかが搾取するわけではない。対等、WIN-WINの関係だと藤馬は言う。

 だろうな。頭を押さえつけられて戦うなんてモチベ最悪だろうし。


「見ての通りお前らには力がある。ならば契約はしっかり結ばれてるはずだ」


 にも関わらずまるで事情を知らない。こんなことは初めてだと奴は肩を竦める。


「……勘違い、って可能性は?」

「ねえよ」

「「う゛?!」」


 藤馬の刻印がひと際強く輝いたかと思えば二人は揃って下腹部を抑えた。

 どうした、と俺が声をかけるよりも早く事情を察した。服越しに輝く刻印が見えたのだ。


「そこか。二人揃って同じとことは仲が良いじゃねえの。でもそこなら女の方が良かったな」


 それは俺も思った……じゃねえ!

 ともかく刻印がある以上、二人は間違いなくプレイヤーってわけだ。


「さて。説明はこんなとこか? 息も整っただろ?」

「「ッ」」


 あ、話を持ち掛けたのはそういう意図もあったのね。

 分かった上で藤馬も付き合っていたのか。


「――――じゃ再開だ」


 本気で抗え。そして俺の糧になれ。

 あまりにも傲慢な言葉と共に戦いが再開した。

 飛鳥と了の攻撃は当たらないか防がれるのにあちらの攻撃は悉く当たる。

 最早、体面を気にしている場合ではない。


「藤馬ァ! こっちを見ろォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 叫ぶ。奴が横目で俺を見ると同時にチャージしていた屁を放つ。

 ブボババァ!! と凄まじい音が廃墟の中に鳴り響いた――――翼は出なかった。


(嘘だろ!?)


 こんなことってある!?


「「今!!」」

「甘え!!」

「「がっ!?」」


 飛鳥と了はどうやら俺が何かして隙を作るつもりだと思ったらしい。

 突然の放屁それもかなりデケエに目を白黒させる藤馬に隙を見出し同時に仕掛ける。

 しかし奴はそれにも対応しカウンターを叩き込み二人は壁に叩き付けられてしまう。


「ハッ、やるじゃねえか小僧。何の力もないパンピーがこんな状況で危機を打開しようと動く」


 中々できることじゃねえと俺の目を真っ直ぐ見つめ言う。そこには確かな敬意があった。

 違う。違うんだよ。そういうただの人間の精一杯の足掻きとかそういう感じのあれじゃねえんだよ!!


「餌にするには痛めつけてから殺すのが一番なんだが……その度胸に免じて痛みを感じる暇もなく逝かせてやるよ」

「や、やめろ……」

「ぐぅ……! う、動け! 動けよ! クソ、何でこんな……!!」


 ゆっくりこちらに向かってくる藤馬。それを止めようと必死に立ち上がろうとするが動けない二人。

 親父に助けを求めるしかない。そう判断しスマホを取り出すが電波が入っていない。

 いやよく考えりゃ当然か。こんなおかしな空間だ。電波が遮断されてても不思議じゃない。


(……命運尽きた、か)


 いやだがただでは死なん。どうせ死ぬなら前のめりに。

 キツク拳を握り締める。


「上等だボケがァ! そのすかした顔面ベッコベコにしたらァ!!」


 往生せえや! そう叫びながら走り出す。

 藤馬はポケットに手を突っ込んだままじっとこちらを見ている。

 一発ぐらいは食らってやろうってか?


「舐めやがって!!!!」


 怒りと共に拳を放つ。

 ああ、分かってる。こんなの通用しないって。でもやらずにはいられ、


「ぶべはぁ!?」

「は?」


 メキィ! とめり込む拳。振り抜くと奴は血反吐を撒き散らしながら吹っ飛んで行った。

 え、は? どういう……。


「じ、次郎……?」

「お、お前それ……つ、翼……?」

「は? つばさ?」


 ギョッとしてこちらを見る二人。そこで俺も気づく。

 白い羽根と黒い羽根がふわりと舞い散っていることに。

 息を呑むような幻想的な光景だが、


(――――何でワンクッション置いた?!)


 屁と一緒に出とけや! 無駄に恥かいたじゃねえか!!


「カカカ、なるほどお前も力を持ってたわけか。その様子を見るに同じく自覚はなかったみてえだが」


 立ち上がった藤馬がぺ、と血の混じった唾を吐き捨て笑う。

 絶妙に噛み合ったシチュエーションのせいで誤解が加速してる……。

 だが、


「よく分からねえが……やれるってんならそれで良い!!」


 乗るしかない! この勢いで貫き通す!!


「飛鳥! 了! お前らは休んでろ! コイツは俺がぶっ潰す!!」

「「じ、次郎!!」」

「良いねえ! 来いよ!!」


 クラウチングスタートの姿勢を取りめいっぱい溜めて弾丸ダッシュ。

 いやダッシュというよりは超低空飛行か。

 不思議なものでまるで違和感なく俺は俺の力を扱えていた。


(二人を巻き込まないようまずは奴をここから引き離す!!)


 勢いを殺さずタックルをかましそのまま飛び続ける。

 幾つも壁をぶち破ったところで、


「ここらで良いだろ?」


 藤馬の膝蹴りが俺の顎をかち上げ飛翔が止まる。


「……わざとか」

「お前が思いっきり戦えないと困るんでね。ああ、奴らが逃げ出すとかは期待すんなよ?」

「……」

「ダチ置いて逃げ出すような性格じゃねえだろうし、そもそもここからは出られねえよ」

「ああそうかい!!」


 翼を前方に突き出すように展開し羽根を弾丸のように放つ。

 穴だらけにしてやる。明確な殺意を以って攻撃を繰り出した。

 しかし、奴は軽い調子で白黒の弾丸を一つ残らず叩き落してのけた。


「!?」

「何驚いてんだよ。力に目覚めたばかりの素人にやられるわけねえ……だろ!!」


 腹に重い衝撃。一瞬で距離を詰めてからのボディブロー。

 よろめく俺の側頭部に蹴りが叩き付けられ体が吹き飛ぶ。


(いや強えなオイ!?)


 吹っ飛んだ俺を追い藤馬が駆け出す。


「ぐぅ……!!」


 翼を使って何とか急制動をかけ藤馬の追撃に対応する。

 嵐のような連打。間隙を縫って反撃をしようと目論むがまるで隙が見当たらない。


(あ、甘かった! 見通しが甘かった!!)


 力を使えば勝てる。俺はそう思っていたがそうじゃなかった。

 俺が勝てると思った藤馬はまだ本気を出していなかったのだ。恐らく今も。

 考えてみれば当然だ。飛鳥と了は力に目覚めたばかり。そんな相手を狩るのに全力を出すわけがない。

 そんな状態から感じ取れる力なんてそりゃ全部じゃねえわ。

 幾つも修羅場潜ってるような人間ならそれでも大体分かるかもしれないが俺は素人なんだし。


(絶体絶命……ハッ、だから何だってんだ。俺ぁ大人しく死ぬつもりはねえぞ)


 今はネガティブなことは考えずどうやったらコイツをぶっ倒せるかについて頭を働かせるべきだ。


「オルァ!!」

「おっと」


 翼を羽ばたかせ破壊を伴った風を放つ。あっさりと回避された。


「良いね良いね。少しずつ動きが良くなってる。そうこなくちゃ……!!」


 オーラのようなものが拳に集中する。

 これはまずいと咄嗟に翼で全身を覆う。次の瞬間、凄まじい衝撃が翼を通して全身に広がった。

 半ば意識が飛ぶも腹に突き刺さった蹴りの痛みで強制的に覚醒させられ吹っ飛ぶ。


「クッソ、どうなってんだここ!?」


 何枚も壁をぶち破ってようやく止まる。

 廃墟の広さとどう考えても釣り合ってない。

 奴が何かをした結果なのは分かるが……空間を弄ったとかそういうあれか?

 バトル漫画的な思考で推測を立ててみるが何か違う気もする。

 いや空間がおかしくなってるのは事実だが本質ではないような……。


「俺の目指す“偉業”のカタチさ」


 飛鳥と了の時のような完全なお喋りタイムというわけではない。

 攻撃を加えながらだが藤馬が嬉しそうに語りだした。

 お喋りで少しでも気がそぞろになってくれればこっちとしてもありがたいのだが……。


「い、偉業……?」

「お前ゲームとかする? ダンジョンを探索して宝とか探すRPG。俺はあれがどうしようもなく好きでねえ」

「そういうのもやりはするが……それが偉業と何の関係がある!?」


 蹴りを繰り出す。ひょいと躱される。


「悪魔から話を持ち掛けられた時、美味い話だと思った。強い力を与えられ願いまで叶えてくれるってんだからな。

だが叶えたい願いは沢山あるし偉業つっても何をすりゃ良いんだ? 悩んだよ悩みまくったよ」


 アッパーを放つ。軽く上体を逸らして回避されカウンターを叩き込まれる。


「そんで答えを得た」

「……まさか」


 そういうことなのか?


「そう! 世界を俺好みに変えてやろうと思ったのさ!!

あちこちにダンジョンを作ってそこに人類にとって多くの恩恵を詰め込む!

そうすりゃ挑まざるを得ない! 人間ってのは欲深いからなァ!!」


 冒険者になって誰も彼もがダンジョンに入って冒険をする。

 これまでの世界の在り方とはまるで異なるそれがスタンダードになるというのであれば紛れもない偉業だろう。


「願いと偉業が重なったからだろうな。俺に芽生えた力もそれに沿ったものになった」

「……迷宮創造」

「イエス! 一から創ることもできるし既にある建造物をダンジョン化させることもできる」


 この廃墟は藤馬が自らの力でダンジョン化させたもの。

 つまりここは奴の腹の中も同然ってことか。

 状況はかなり苦しい。だが、


「よォ、何でこんな話したと思う?」

「ここがお前好みのダンジョンだってんなら挑む側にも恩恵があるってこと」


 そいつを駆使すればも俺はもっと上手く立ち回れる。

 敵に塩を送る? いや違う。


「テストプレイさせたいわけだ」

「そーゆーこと。単なる雑魚ならともかくお前は見どころがあるからな」


 お眼鏡に適った敵には皆、自分の能力を明かしているのだと奴は言う。

 そんなことをすれば藤馬も不利にはなるが……藤馬にとっては問題はないのだろう。

 コイツはどうも楽しさを優先してる節があるからな。

 俺からすれば悪いことではない。むしろありがたいと言えよう。

 だがそれはそれとして、


「……舐めやがって!!」

「良いね! 更に火が強くなったって感じだ!!」


 探索のため翼に力を入れこの場を離脱しようとした正にその時だ。

 バリン、と硝子が砕け散るような音が響き外から飛び込んで来た人影が俺と藤馬の間に割って入る。

 純白の羽根が雪のように散る中、先ほどまでの戦意はどこへやら。俺は呆気にとられた。


「せ、先生?」


 俺を守るように立ちはだかったのはミア先生だった。

 ただ先生の背中からは三対六枚の白い翼が生えている。


「はい! 先生です! ごめんなさい遅くなってしま……って……はい?」


 振り向いた先生はキリリとした表情だったが直ぐに信じられないものを見るような目で固まった。

 その視線の先には俺――――というより俺の翼。

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