悪い奴だぜルシファー… 2
買い出しの後、駅で下ろしてもらい先生と一旦別れた。
先生はまだ仕事があるからな。一緒にいられないのは残念だが涙を飲んだよ。
電車を乗り継いでキャンプ場に向かうと既に現地にいたクラスメイトは準備を始めていた。
俺の仕事はもう終わったがだからってここで何も手伝わないのは空気が読めてないにもほどがある。
準備に混ぜてもらってテントの設営やらバーベキューセットの手伝いに勤しんだ。
準備が終わった後は時間までダラダラと駄弁り中々楽しい時間を過ごすことができた。
「悪かったな明星、急に行けなくなって」
「ほんっとごめん!」
「良いよ良いよ先生とデートできたしな。うひひ」
「コイツ……!!」
そんなこんなでバーベキュースタート。
一緒に網を囲んでいた野球部の奴らから謝罪されたが全然問題なし。
何なら礼を言いたいぐらいだと笑えば脇腹を小突かれる。
先生美人だもんな。二人きりとか羨ましかろうよ。
「ってかお前ら何があったんだよ?」
買い出し組(肉)の俺を除く四人はキャンプ場に着いたのも最後で何とも言えない顔をしていた。
親睦会のことは事前に顧問にも知らせていたはずだろう。
にも関わらず呼び出され時間ギリギリまでとか一体何があったというのか。
「あー……どうする?」
「どうせ週明けに全校集会あるだろうし別に良くね?」
「だな」
「あんまデカい声じゃ言えねえんだけどさ」
と田畑が顔を寄せてくる。
ひそひそ話みたいになってるとこ悪いけど後ろ見て。
「あ? 後ろ……っておいおい」
≪へへへ≫
気になっていたようで他のクラスメイトも興味津々で聞き耳を立てている。
じゃあもうしょうがねえなと田畑は溜息を吐き、全員に聞こえるよう話し始めた。
「……部室で煙草の吸い殻と酒の空き缶見つかったらしいんだわ」
「あ」
理解した。そりゃ全員集められるし話も長引くわな。
道理で全員、何とも言えない顔でやって来るわけだわ。
「当然俺らじゃねえぞ」
「わーってるよ。流石にやらかしたのは二年三年っしょ」
一年でそんなイキってたら目ぇつけられるわ。
特に上下関係厳しい運動部なら尚更だ。
「ま、何だ。ドンマイ! ほれ、肉食いねえ肉」
「ほら野菜も食べな」
皆で肉やら野菜を四人の皿に乗せていく。
こう言っちゃなんだが良かったわ帰宅部で。
「でもそっか。そういう事情なら次郎もひょっとしたら巻き込まれてたかもしれないね」
「まあ他人事ではないな」
飛鳥の言葉に頷くと田畑らがどういうことだ? と首を傾げた。
「次郎、小中は野球やってたんだよ」
「高校でも最初は続けるつもりだったらしいぞ」
≪えぇ!?≫
と野球部四人が驚きの声を上げ、
「え、嘘でしょ? 明星くん野球部だったの? その頭で?」
女子の一人が失礼なことを抜かすが困ったことに否定はできない。
俺はパッと見黒髪なんだがインナーカラーみてえな感じで内側に白が混ざっている。
お袋が俺のこと女食い物にしてるバンドマンみてえとか言ってたがよぉ。
何がムカつくって見た目は確かにそれ系のバンドマンみたいなんだよな。
「……一応言っとくけど地毛だからなこれ」
白黒綺麗に分かれてるから染めてるように見えるがマジで地毛だ。
白というなら飛鳥もそうだがこっちは一色でこんなどう考えても染めてんだろみたいな不自然さはない。
「頭は置いとくとしてじゃあ何で野球部入らなかったんだよ」
折角一緒の部活になれたのにとと買い出し組(肉)の一人である東野が脇腹を小突く。
「やー、よくよく考えたら続ける理由がなくなったっつーか」
親父から話を聞いて後ろめたくなったというのが一番の理由だ。
今の俺は人間のスペックを逸脱してるわけじゃないが気分的にね。
だがそれは言えないので二番目の理由を話すことにした。
「野球始めた切っ掛けが幼馴染に誘われたからなんだよ」
一人じゃあれだっつーんで誘われて少年野球チームに入団。
これまた一人じゃあれだっつーんで誘われて中学でも野球部に。
幼馴染は陰キャってわけじゃないんだが新しい環境に踏み込む際は足が竦むタイプなのだ。
で、俺も断る理由がないから付き合ってたんだが……。
「でもそいつ中二の冬に転校しちゃってさあ」
そこで野球部辞めても良かったんだが野球部で新たに築けた関係もあるわけだし?
もう一年もないんだし最後までやるかーと中学は野球部をやり通した。
「な~るほどねえ。ちなポジションどこだったんよ?」
「ピッチャー。ちな一年の頃からエース」
おぉ、と驚きの声が上がる。
「上手かったんだ明星くん」
「これだけ聞けばそう思うよな? どっこいそうでもねえんだな」
いやまあ真面目にやってたし二年三年ではそこそこ上手かったとは思う。
でも一年の頃からレギュラー張れるほどではなかった。
「じゃあ人数の問題?」
「でもないんだなこれが。何でだと思う?」
ちらほらと幾つか予想が挙げられるがどれも外れ。
「答えは俺がふてぶてしいから」
≪はぁ?≫
「だよな。でもマジで顧問からそう言われたんだよ」
中学ん時の野球部はちょっと変わっててな。
一年から三年まで軒並み縁の下の力持ちタイプしかいなかったのだ。
「マウンドに立って注目を浴びるようなのはちょっと違う……みたいな?」
俺が入部した際にエースやってた先輩もそう。
他にやる奴がいないからとやってただけ。
なのに顧問はかなりのイケイケタイプで現状を苦々しく思ってたらしい。
だから良い具合にふてぶてしい一年来たしコイツを育てた方が良いなと判断したんだそうな。
「ぽっと出の一年にポジション取られたのにありがとう助かるよ、だぜ?」
じゃあ闘争心がないかっつーとそんなこともない。
コンバートすることになってレギュラー決めをやり直すことになったのだがそこでは闘争心剥き出しだった。
「実際、その采配は正解だったわけ?」
「多分、正解だった」
存外、敵からすれば打たれても僅かな焦りもなく堂々としてるのはプレッシャーを感じるらしい。
多分、俺は俺の実力以上の成績を残せたと思う。
まあ中学レベルだからってのもあるがな。仮に高校で俺がピッチャーやっても身の丈以上の成績は期待できまい。
「で、チームメイトも俺に押し付けてるって負い目があるみたいでさ。
しっかりフォローしてやらなきゃって気になるんだろうな。打たれてもめっちゃカバーしてくれるの」
そのお陰で個人成績のみならずチームとしての成績もそれなりに良かった。
「なるほどねえ」
「明星くんは何で打たれてもケロっとしてられるんです?」
「何でっつってもなあ。いや真剣にやってないわけじゃねえぜ?」
ただほら、根が楽天的だから。俺がダメでもチームメイトが何とかしてくれるかなって。
「チームメイトも駄目だったらその時はもしゃあないっしょ」
精一杯頑張ったけど無理だったねお互いドンマイ! 切り替えてこう! って感じ?
「確かにピッチャー向きだわコイツ」
「全然プレッシャー感じてないじゃん」
「ま、俺のことはどうでも良いんだよ。それより肝試しの話しようぜ」
地味にこれ楽しみにしてるんだよ。
「確か山の上にある廃墟に行くんだよな?」
確かそこのどっかにある印を持ち帰るんだったか?
「おうさ。元は療養所だったらしいぜ」
それは良いんだけど、
「……先生的にこれOKなんすか?」
ぶっちゃけ不法侵入じゃんこれ。
俺が話を振ると先生は苦笑を浮かべ答えてくれた。
「良いか悪いかで言えば先生は止める立場にありますけど……こういう時ぐらいは多少、ね?」
融通を利かせてくれるということか。
「まあ立ち入り禁止の立札とかあるなら止めてたかもしれませんが」
「そういうのがないのは確認してるよ~」
と下見に行っていた女子の一人が言う。
なるほど。だからギリセーフってことでお目こぼししてくれたのか。
「ところで中川くんよォ」
わいわい肝試しの話題で盛り上がり始めたところで俺は委員長に小声で話しかける。
「何だい?」
「……何だって男女ペアにしなかったんだよ」
今回の親睦会の中身は中川を始めとする何人かが話を詰めている。
で、肝試しなんだがこういう時って普通男女ペアにするもんだろ?
だがそうはならず男女混交でくじ引きときた。
「いやうち奇数じゃないか」
「良いじゃねえか。奇数つっても男子じゃなく女子が一人多いんだぞ?」
つまり余ったら両手に花で最高に気分が良いじゃん。
俺がそう言うと中川は顔を近づけ小声で答える。
「……それじゃ上手くいくもんも上手くいかないぞ」
「と、言いますと?」
「下心が露骨だって。最初から男女ペアだと警戒するだろ」
同中以外はまだ出会って一か月も経っていない。
そんな状態で夜間、イベントとはいえ男と二人きりというのはどうしても気になってしまう。
だがあくまでくじの結果、純然たる運によって男子とペアになったのなら心理的な抵抗もある程度抑えられる。
別にギスギスしたいわけじゃないのだから男が下手を打たねば普通に接してくれるだろう。
中川の言葉になるほどと頷く。
「……ちなみに明星は誰狙ってんの?」
「先生一択」
「おま……いやまあ、あんな美人と一緒に肝試しとか最高ではあるけどさあ」
まあ幸運を祈るよと言って中川は去って行った。
その後、親睦会だからな。色々な奴と駄弁りつつ食べつつで楽しい時間は過ぎていった。
そうして食後。腹もある程度小慣れてきたところでいよいよメインイベントだ。
(頼む神様、先生とペアに……!!)
くじを引いて書かれた数字の順番でペアを組むことになる。
ただ最後から三つは三人組になるのでここで先生と組んでも嬉しさは半減だ。
ペアの数字を引けますようにと神に祈りつつくじを引く。
「よし、全員引き終わったな? じゃあ開封だ」
という中川の声で一斉に紙を開き結果……。
「何でだよ!!!!」
「どんだけ期待してたのさ」
「泣かれるとこっちが悪いことしてるみたいだろう」
どんけつ。しかも組むのは飛鳥と了で男オンリー。ありかこれ?
先生とペアを組めずともせめて女子と……あれか? 俺が悪魔の子だからか?
そこは融通利かせてくれや神。確かに悪魔の子だが俺は人間で天使の要素も混じってんだからよ~。
「「やれやれ……どんまい!!」」
「クソァ!!」
だが決まってしまったものはしょうがない。気持ちを切り替えよう。
まあ気心の知れたダチと肝試しというのも楽しい経験ではあるしな。
駄弁りながら順番を待っていると遂に俺たちの番がやって来た。
「次郎と了はホラーとか平気な感じ?」
「特に苦手意識はないな」
「同じく。飛鳥は?」
「僕も似たようなもんかな。得意ってわけでもないけど苦手ってこともない」
飛鳥と了から強がりのようなものは感じないし俺も虚勢を張ってるとかではない。
魔王の子という真実を知ったからとかではなく元からだ。
何となしに三人顔を合わせる。多分、同じこと考えてるな。
「つまらねえ組み合わせだなこれ」
「つまらん組み合わせだなこれ」
「つまらない組み合わせだねこれ」
良いリアクションする奴いねーんだもん。
(……こりゃまた何とも味気ない肝試しになりそうだ)