まがい物の星 3
親友二人と先生からのプレゼントで俺はもうほっくほくだ。
その上、飯まで美味いとくれば言うことなし。最高の誕生日だ。
「六月六日の午前六時に生まれたとか俺は闇の申し子ですかっつーね」
「何だお前魔王の子か何かか?」
「見た目はラスボスっぽいよね次郎」
アヒージョうめえ!
というのはさておきミア先生の顔が若干、引き攣っているように見える。
実際、魔王の子だからね俺。
つーか最近、気が緩んでるのか表情に出るようになったな先生。
「いやぁ、今の俺は良いとこ中ボスっしょ。ミア先生とか翼六枚だぜ?」
この手のデザインでラスボス張るんなら翼は最低でも六枚は欲しいよな。十二枚なら最高だ。
「同意します。次郎きゅ……くんの見た目なら角とかヘイローも欲しいですね」
先生男の子の好きなもの分かり過ぎだろ。いや俺も完全に同意するがね。
「作画コスト高そうな複雑な入れ墨もアリじゃねっすか?」
「アリアリのアリですねえ」
「で、ポーズはこう!」
軽く胸を反らせ顎を引き相手を見下すようにしつつ腰の横で軽く腕を広げる。
これが俺の考える強そうなラスボスポーズだ。
「よくありますよねその構図。無論、私も大好きです。欲を言えば後光も欲しいですが」
「後光を背負いつつ闇のオーラを纏ってたら聖邪入り混じった感じで良くないすか?」
「あー良い。良いですねえ」
「あとこれは迷ってるんすけど武器とかどう思います?」
圧倒的な強さゆえ武器など要らぬはロマンだ。
さりとてクッソカッケー武器を使うのもまたロマンだ。
「……難しい問題ですねえ」
深刻な表情で答える先生。
やっぱこの人分かってるな。多分、俺と同じ懸念を抱いている。
「武器というのはそもそも弱者が弱さを補うためのもの。
そういう観点から見れば圧倒的な強さを求められるラスボスには不要です。
しかし魔剣とか妖刀はカッコいい。黒と赤でトゲトゲマシマシな装備とか使えるものなら使いたい」
ジレンマですと悲し気に目を伏せる先生に俺は何度も頷いた。
「そうなると手加減という形で武器を使うとかってのも一つのアプローチっすよね」
「分かります。武器を使うのはむしろ手心であったというのは燃える展開です」
最終的に無手が一番強いとか良いよね。
「花畑ができそうなレベルでトーク咲かせまくってるよこの人たち」
「今更だが先生って結構……」
まあそれは俺も思った。
丁寧な言葉遣いゆえ気付き難いがわりと愉快だよね。
「フッ、まんまと引っ掛かったようですね。
キッチリ服装整えて丁寧な言葉遣いをしておけば真面目に見えるという私のライフハックです」
ライフハックだったの!?
「うちは母子家庭ですからね。母の教育が行き届いていないとか言われたら嫌なので」
わりと真剣な理由だった……そしてかなり共感できる。
言葉遣い云々はあんまり気にしてなかったが俺もあそこん家はお母さんがいないからと思われるのは嫌だった。
親父は立派に親父やってるわけだし文句つけられる筋合いはねえってな。
「ちょっと言葉遣いを気を付けるだけで色々勘違いしてくれるんだからお得でしょう?」
でもお得って言い方はどうかと思う。
「教職に就いたのも社会的信用を得られるからですし」
とはいえ教職自体に思い入れがないわけでもないとのこと。
それは俺も見てて分かった。
面倒見の良さというか誰かを教え導く先生の姿は単に仕事だからというだけではないだろう。
そこには確かな情熱があるように思う。
「ま、私のことは置いときましょう」
面白い話でもないしと苦笑を一つ。
「それより桐生くんと如月くんは漫画とか読まないタイプなんですか?」
「そんなことはありませんが」
「先生や次郎が好きなのはあんまりかなあ」
「まあお前らが好きなの麻雀とグルメ漫画だしな」
前者が了で後者が飛鳥だ。
「ちなみに飛鳥が好きなグルメ漫画っすけど女の人とかでてるキラキラ系じゃなくてオッサンしか出てないようなのです」
写真映えしそうなお洒落な食事とかではなく酒のあてとかそういうのが出て来るやつだ。
「渋ッ!?」
「小さい頃から贔屓にしてる近所の散髪屋さんにあるのがそういうのばっかだったので」
「私の場合は行きつけの中華料理屋だな」
「切っ掛けも渋い!?」
それは俺も思った。
「ってかさ。次郎、そんだけあれこれ語れるあたりさあ」
「……お前ひょっとして必殺技とかも考えてたりするのか?」
お、察しが良いねえ。
争いに巻き込まれる前は超常の力があっても妄想だけに留めてたがこうなった以上はな?
実際に力を使わなきゃいけないんだからそりゃあ色々考えますとも。
「当然」
「……それは初耳です」
師匠である先生にも言ってないからな。
「とは言えまだ未完成なんだがな」
「へえ?」
「名づけて“殲滅輝光・天津甕星”」
学生手帳のメモ欄にさらさらっと書いてドヤ顔で見せつけてやる。
ルシファー云々を抜きにしても俺は昔っから星が好きだ。見てるとテンション上がる。
自分の名前にも星が入ってるし必殺技を作るならやっぱ技名にも星を入れたいなって。
それであれこれ調べてる内にカッコイイワードを発見し採用したのだ。
「……日本書記にでてくる神の名だな。どんな技なんだ?」
「殲滅輝光って言うぐらいだしビーム的な?」
「まだ決まってない」
「「おい!!」」
「未完成って言っただろ」
突っ込まれる謂れはねえぞ。
「いや君それ未完成っていうか」
「家で例えるなら建築予定の看板が立ってるだけだろ」
「それでも未完成は未完成じゃろがい」
ってかまずは名前だろうが。
お前らも生まれた時に名前つけてもらっただろ? 物事は名づけから始まるんだよ。
「ねえ先生?」
「え……え、ええ。大事ですよね名前。必殺技の名前は凝ったものにしたい。そこから手をつけるのは分かります」
「ですよね!」
ちょっとリアクションに困ってる? 何でだ?
先生のセンスなら惜しみない賞賛をくれると思っていたんだが……。
「しかし天津甕星、か。少々ハードルが上がり過ぎてる感あるがまあ……縁起を担ぐ意味では悪くないのか?」
「? どういうことだい了」
「縁起って何さ」
「……お前何も調べずに字面だけで判断したな?」
いや星の神様の名前ってことぐらいは知ってるよ。
「もっと深く調べろ。良いか? 天津甕星は日本書紀において悪神とされているんだ」
「マジ?」
星の神っつーから良いもんだと思ってたわ。
「経津主神が葦原中国平定を行う際のヴィランのような立ち位置で叛逆者とも言える。
そして一説では天津甕星は金星を象徴しているとも言われているんだ。似た何かが思い浮かばないか?」
うん?
「お前は悪魔の力を扱う。そして悪魔で金星を象徴する存在と言えば叛逆の明星ルシファーだろう?」
「なるほど。先生の言うようにジンクスなんかが機能してるなら悪くないネーミングなわけか」
飛鳥の言葉で完全に理解した。
そりゃあ先生もリアクションに困るよねっていう。
意図せずルシファーを想起させる要素ぶち込んでるとか……うん、困る。
何せ俺は自分のルーツを知らないことになってるからな。
「まあ名前だけしか考えてない段階では名前負けとかそういうレベルではないがな」
「それ以前の問題だよね」
「う、うるせえ! ほ、他のは中身も考えてあるもん!!」
とりあえずちょっと矛先ずらそう。
「一応聞いてやる。どんなのだ?」
「これや! さあ、何と読むでしょう!?」
窮星雨という文字を見せつけてやると二人は揃って首を傾げた。
「……ひょっとして」
先生は思いついたようだがしーっとジェスチャーで続きを遮る。これはクイズだからな。
「いや分からないよ」
「そのまま読めばきゅうせいう、か?」
「プラネタリウムじゃろがい!!」
「「読めるわけねえだろ!!」」
はー……やれやれ。
「大体何で漢字の読みに横文字なんだよ」
「お約束だよ。そんなことも分からんのか貴様ら」
「「分かるか!!」」
「フン、まあ良い。解説してやろう。これは藤馬のアホから着想を得てな」
プラネタリウムのような自分の領域を創り出して偽りの星々を降らせ敵を殲滅する技だ。
「口上はこうだ。【疑似天体創造】」
「GOOD!」
先生が短く力強い賞賛を送ってくれた。
「詩的な長文詠唱も良いですが機械的な短文も味がありますよね」
「それ! 正にそれ!」
「「……分からない。文化が違う」
はーっ!!
「というか何でプラネタリウムが何で窮星雨なんて漢字になるのさ」
「恐らくは窮にかかっているのではないでしょうか?」
と先生。
「プラネタリウムとは屋内に投影される偽りの天体でしょう?
閉鎖空間ゆえのある種の閉塞感を意味するものとして窮をチョイスしたのでは?
ああ、流星群を降らせて相手を追い込むというところにもかかっているのかもしれませんね」
無言で拍手を贈る。まったく以ってその通りだからだ。
「「何で分かるんだよ……」」
「まあこれぐらいは嗜みでしょう」
分かってらっしゃる!
「はあ……で、その御大層な技はどれぐらいの完成度なんだい?」
「全然」
構想だけだ。
「「結局看板だけじゃねえか!!」」
「しゃあねえだろお前。どうやって自分の領域なんか作るんだよ」
意味わからんわ。
「開き直るな」
「君、絵に描いた餅って言葉知ってるかい?」
「これから頑張るんだよ!!」
もうちょっと優しくしろ甘やかせ。
「……しかしコイツがこれだとひょっとして先生も必殺技とかあったりするんですか?」
「それも次郎とは違ってちゃんと完成してるやつ」
「フフ、当然。一つご紹介しましょう。次郎くん、ペンと手帳をお借りしても?」
「どうぞどうぞ」
ありがとうございますと言って先生はさらさらとペンを走らせた。
「“善悪の分かれ道”」
「「そうは読まんやろ」」
「読むんですよこの界隈では」
「「どの界隈だよ」」
さっきからツッコミ入れてばっかだなコイツら。
「というかやっぱり字面だけで判断できないんですけど」
「どういう技なんだこれは……」
「俺は大体予想がつくけどね」
ドヤ! と笑う。
「ほう、では採点と洒落込みましょう。先生らしく、ね」
どうぞと先生に促されたので一つ頷き俺の推測を披露する。
「ようはこれ敵味方識別できるMAP兵器的な技なんじゃないすか?」
識別条件はその名の通り善と悪。
細かいとこは流石に分からないので省くが悪人にだけ攻撃が届く感じなんだと思う。
「いや待て。分かれ道ってぐらいだから悪人にだけ何かが起こると考えるのは不自然か」
悪人はその悪因ゆえの結果を与えられ裁きの攻撃を受ける。
じゃあ善人はその善因ゆえの結果を与えられて然るべきだろう。
攻撃食らいませんだけじゃ損も得もしていない。
「……なら善人には祝福?」
その日一日幸運に恵まれるとか何かしらの恩恵があると見て良いだろう。
「The birthdayってルビもそれでしっくりくる」
善悪問わずその行いに起因する贈り物をって感じで。
そして見逃されてきた悪、見過ごされてきた善が報われ再スタートを切るという意味も含まれてると見た。
「――――100点満点花丸です」
先生は花が綻ぶような笑みと共に俺の頭を撫でてくれた。
「フッ」
「「うっそだろオイ……」」
ま、これぐらいはね?
「悪党の中には無辜の人間を巻き込んでこちらの行動を縛ろうとする輩も当然、いますからね」
その手の連中への対策として編み出した技で半径200mにも及ぶ広範囲攻撃とのこと。
そのまま続けて詠唱の出だしはこうですと先生は謳うように言葉を紡ぎ始めた。
「主が彼の父祖の悪をお忘れにならぬように。母の罪も消されることのないように。
その悪と罪は常に主の御前にとどめられその名は地上から断たれるように。
彼は慈しみの業を行うことに心を留めず貧しく乏しい人々心の挫けた人々を死に追いやった。
彼は呪うことを好んだのだから呪いは彼自身に返るように。
祝福することを望まなかったのだから祝福は彼を遠ざかるように」
と、ここまでが悪人に対する詠唱でここからが善人へのものになるという。
長すぎるので今日は省くが後日、フルで聞かせてくれるとのこと。
「ちなみに聖書からの引用です」
「やったー! カッコイイー!!」
聖書からの引用とか俺もやってみてぇええええええええええええええ!!
「「マジかコイツら……」」




