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キミは星の王子様~父さんな、実は魔王ルシファーなんだ~  作者: カブキマン


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まがい物の星 1

 親父の空気読めない優しさがあったものの何とか無事、テストを終えた翌日六月六日。

 誕生日ということで俺のテンションは朝から高く放課後まで上がり調子だった。


「うぃーっす! はっつぁあああああああああああああああん!!」

「こんにちは次郎くん」


 飛鳥と了は同盟の依頼で今日は遊べないのではっつぁんと駄弁りにきたのだ。

 え、俺は依頼良いのかって? 問題ない。

 誕生日の日ぐらいは血生臭いことは抜きにしなよという気遣いで外されたからな。


「そしてお誕生日おめでとうございます」

「あっざぁあああああっす! ってはっつぁんに誕生日言ったっけか?」

「あ、えーっとはい。会話の流れでお聞きしました」

「だっけか?」


 覚えてないが話をしたというのならそうなのだろう。

 はっつぁんの方が記憶力とか良さそうだし。


「ところでその左耳のピアス」

「え? ああ、これ? 自分への誕プレってことで買ったんだ」


 無論、嘘だ。お袋が選んでくれたけど馬鹿正直に言うわけにもいかないからな。


「似合うっしょ?」


 ちゃらりと星をモチーフにしたピアスが揺れる。

 放射状に光が拡がる様子をイメージした土台とその中心に嵌め込まれた星のデザインがまた良いんだ。

 ゴールドなのも相まってキラキラ感半端ないよね。俺ってばスター。


「え、ええ……とても……」

「だるるぉぉおおお!?」

「星、それも明星(みょうじょう)を想起するのがまた……とはいえ本人が大層お気に召しているようですし……」

「どったん?」

「ああいえ、大変似合っていますが校則とか大丈夫なのかなと」


 ああ確かに真面目なはっつぁん的には気にかかるわな。


「大丈夫大丈夫。学校で着けてたら即没収だけどピアス穴開けるぐらいならね」


 その程度で咎められるほどガッチガチというわけでもないのだ。


「そうですか。そういうことなら私としても都合が良いです」

「ん?」


 首を傾げる俺にはっつぁんは大きく翼を広げた。

 すると彼の眼前に小箱がどこからともなく現れたではないか。


「これは……」

「私からの誕生日プレゼントです」


 え、マジ? やばいめっちゃ嬉しい。

 まだ出会ってそんな経ってないのに誕プレくれるぐらい友情感じてくれてるってことだよな?

 おいおいおい、その気持ちがもう何よりものプレゼントじゃんね。


「サンキュはっつぁん! 嬉しいよ!!」

「喜んで頂けて何よりです」

「うん! ……開けても?」

「勿論」


 いそいそと包装を解いて中を検めるとそこにはシルバーのピアスが入っていた。

 天秤をモチーフにしたであろうデザインで落ち着いた感じが実に良し。

 ただそこはさておき、このピアスからは何やら神聖な力を感じる。


「これってタリスマンの類?

「ええ。君は何かと厄介ごとに巻き込まれる体質のようですし」


 大したものではないがその歩みの一助となれば。

 はっつぁんの言葉に俺はジーンと心が震えた。

 性能とかはどうでも良い。その心遣いが俺のハートにズシンときたのだ。


「……ありがとうはっつぁん。大切にするよ」

「ええ」

「早速着けさせてもらうわ」

「え、それは構いませんが穴を空ける器具などは」

「あるよ」

「あるんですか!?」


 何で? という顔のはっつぁん。

 まあピアッサー持ち歩いてるのは確かに変だがこれには事情があるのだ。

 今日は俺の誕生日パーティがあるわけだがそれは夜からでそれまでは暇なわけ。

 だからはっつぁんとお喋りした後、ショッピングでもしようと考えていた。

 予想以上にピアス着けた俺がイカシてたもんだから右にも欲しいなって。

 購入した後、早速着けようと思ってたからピアッサーを鞄に入れていたのだ。


「どう? 似合ってる?」


 というわけで耳をパチンしてピアスを装着してみる。

 普通なら消毒してしばらく時間を置かなきゃだが俺には愛理ちゃんの炎があるからな。

 ちょろっと焦がしてやれば即座に安定するのだ。


「はい。とてもお似合いですよ」

「むふふ、それは良かった」


 手鏡を鞄から取り出し自分でも確認してみる。

 おいおいおい、男前レベルが上がっちゃったんじゃな~い?

 バンドマンっぽさが更に増してしまった感もあるが、まあまあ気にしない方向で。

 俺もちょっとファンの女の子食い物にしてそうだなとか思ったけど……ハート、大事なのはハートだから。


「しかしこうなると俺もはっつぁんの誕生日にはお返し贈らんとなあ」

「ふふ、その気持ちだけで十分ですよ」

「そうはいかんて。何だろ、鳩用の服とか買っちゃう?」


 などと楽しくお喋りをしていたのだが……ふと、視線を感じた。

 はっつぁんも気付いたようで俺たちは揃って公園の入口に目をやる。

 そこには中学生ぐらいの女の子が立っていた。


(……バンギャみてえだな)


 黒髪に金メッシュを入れたショートボブに黒を基調にしたパンクファッション。

 メイクも濃いめだしマジでちょっとメンタルやったバンギャみたいだな。

 いや外見はどうでも良いんだ。可愛いけどそこは良い。

 問題は俺らを見てるってとこ。

 そりゃ鳩と会話してる男子高校生とか傍目にはすっげえ怪しいが普通の人間は気にもかけないはずだからな。


「この気配……もしや二人目? ……いや違う。あちらは不自然だ。ホムンクルスの類か……」

「はっつぁん?」

「ああいえ何でもありません。それより、あの少女は次郎くんを見ているようですが」


 知り合いですか? と問われたが当然、知らん。


「あれ、やっぱ裏の人間だよな?」

「……ええ、力も感じますしね」


 そうこうしていると少女がカツカツとこちらにやってきた。

 そして俺たちの前で立ち止まると、


「ふぅん? 冴えない顔」


 人差し指で俺の顎を持ち上げ顔を覗き込んできたではないか。

 無礼だが可愛い女の子と至近距離で見つめ合ったことでドギマギ――はしなかった。

 普段ならそうなっていたかもしれないが、今の俺はそれどころではなかった。


(い、今の感覚は……)


 少女が俺に触れた瞬間、確かに感じた。

 どうしてかは俺も論理立てて説明できるわけではないが間違いない。

 この子には“親父の血”が流れている。


「……こんなのが私の兄だなんて」


 ほらぁ! 言った! 今小声で確かに兄って言ったァ!!

 ってか兄? 兄だって?

 百歩譲って姉なら分かる。人外なんだ。見た目通りの年齢ってことはあるまい。

 だがこの子は俺を兄だと言った。俺がルシファーの息子だって知ってるなら年齢も知ってるはずだ。

 その上で俺を兄と呼んだということは、


(は、は、禿ェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!)


 浮気か!? み、見損なったぞ禿ェ!!

 姉ならお袋に出会う前にワンナイトした結果だとか前妻の子とかで納得できた。

 でも妹ってことは俺が生まれた後、つまりはお袋とくっついた後じゃねえか!!


(しかも年齢によっちゃお袋の妊娠中に……! ゆ、許せん!!)


 いや禿は後回しだ。まずはこの子のことを考えよう。この子は何で俺に会いに来たんだ?

 浮気相手の子供が本妻の子供の前に現れるとかとかどう考えてもロクな理由じゃねえだろ?


「き、君は一体……」


 少女は俺から顔を遠ざけ少し距離を取り見下すように笑った。


「へえ、分からないなりに感じるものはあるわけね」


 あ、何か勘違いしてる。

 言葉が続かなかったせいで「君は何者」みたいな受け取り方をしたんだろう。

 俺としては「一体どうして俺に会いに来た」って言いたかったんだけどな。

 途中で理性が働いて言葉を繋げなかったせいで勘違いさせちゃったか。

 まあでも俺としても都合が良い。

 俺がルシファーの息子であることを自覚してるのは親父とお袋以外にいねえしな。


「……教えた上で殺してやりたいけど義父様に“自覚”させるなって言われてるし」


 少女は小声で聞こえないぐらいの声量で何かを呟き盛大に舌打ちをかました。


「私はレモン・ヴィナス。お前を殺す者の名よ。覚えておきなさい」


 うわ、やっぱロクでもねえ理由だ。

 何で殺したいのかは具体的な理由は絞り切れないけど……うっわぁ……。


「安心なさい。今ここでやるつもりはないわ。ええ、だって私たちの時間じゃないもの」


 近い内にまた、と少女は踵を返し去って行った。


「……惨い名を……義父様とやらは随分趣味が悪いようですね」


 何で折角の誕生日にこんな……。

 最悪の気分だ。親父の隠し子発覚からの殺す宣言とか最悪極まる。


「っと、次郎くん。大丈夫ですか?」

「え、あ……あ、ああ。ちょっと面喰らっちゃって」

「当然でしょう。初対面の少女にいきなり殺すなどと言われたのですから」


 そうじゃないんだけど……言えねえしなあ。


「とりあえずあなたの師。ミカエラさんにご相談なさい。きっと力になってくれるでしょう」


 いやそれもちょっと……。

 だって俺の妹ってことはミア先生からしても妹分的なアレになるわけだし。

 とりあえず頷いておこう。はっつぁんは善意で忠告してくれてるんだしな。


「ええ。すいません、少しばかり席を外しますね。直ぐに戻ってきますので」

「え? お、おう」


 では、とはっつぁんは翼を広げて空に消えて行った。

 しばし呆然としていた俺だが、やることを思い出し即座に公衆トイレに駆けこむ。

 そしてスマホを取り出し親父に鬼電。


【はいもしもし。何だ急……】

「この――――禿ェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」

【んお!? み、耳が……】

「耳がじゃねえんだよォ! テメェ、見損なったぞ!」

【は、はぁ?】

「俺の前でイチャつくのはどうかと思ってたけどよォ!!」


 それでもお袋とラブラブしてるの見てさァ!

 俺も将来、誰かと結婚したらあんな風にって……なのに、なのに!!


「これをお袋が知ったらどうなる!? 軽い人ではあるけどだからって傷つかないわけじゃないんだぞ!?」

【待て待て。お前はいきなり何を言ってるんだ?】

「何もクソもねえわ! テメェの隠し子が現れて俺に抹殺宣言かましたんだよォ!!」


 さっきあったことを捲し立ててやったが、


【ふむ】

「ふむ――――じゃねえんだわ!!」

【やれやれ……私は浮気なぞしておらんよ】


 母さんに出会う前に関係を持った女はいるが以降はない。

 過去現在未来を通して本気で愛しているのは母さんだけ。

 あまりに澱みない宣言に俺は言葉に窮する。


「で、でも絶対あれ……」

【私の血を引いてるからとて私の子とは限らんだろう】

「ど、どういうことだよ」

【漫画とかでよくあるだろ? 強い奴の細胞を使ってホムンクルスだとかを造るなんて展開が】

「え、じゃあ」

【多分高位の悪魔がどっかで私の血をちょろまかして造ったんだろ。まあ失敗したようだが】

「し、失敗?」


 いや実物がさっき俺に会いに来たんだけど。


【求める性能には届かなかったということだ。その証拠に随分とまあ惨い名を与えられたようだしな】

「ど、どゆこと?」


 俺が聞くと親父は嘲るように答えてくれた。


【レモンはスラングで不良品や出来損ないというのを意味するんだ。

ヴィナスはそれそのまま金星。明けの明星、宵の明星を意味するファミリーネームだろう】


 つまり、


(ルシファー)の出来損ないと言われてるんだよその少女は】

「……そう、なのか」


 完全に鎮火した。

 色々と聞きたいことはあるがまずは、


「……ごめん親父。早とちりで酷いこと言った」

【はっはっは、気にするな。むしろ嬉しいぐらいだぞ】

「え」

【いやまさか父さんと母さんをそんな風になあ……可愛い奴め】

「う、ううううるせえやい!!」

【すまんすまん。次郎】

「……何だよ」

【愛する女が母さん唯一人であるように私の子もまたお前だけだよ】


 優しい声色に俺は無性に恥ずかしくなった。


「そ、そうかよ。それより! あのレモンって子は何で俺に会いに来たんだと思う?」


 俺を殺すのが目的として何故? という疑問がある。


【照れ屋め。何で会いに来たか? 大方の予想はつく】

「というと?」

【私の読みを全部伝えても良いが……お前にとってはステップアップの良い機会だ】


 ネタバレはなしにしようとからかうように言われる。


【安心しろ。お前ならばきっと“負けられない”理由に気付けるはずだ】

「は?」

【というわけでファイト!】


 ファイト! じゃねえんだわ。


【大丈夫。お前ならやれる】

「……いや多分、あの子俺より強いんだけど」

【問題ない。愛に導かれて生まれたお前が無機質なホムンクルス如きに負けるものか】

「愛に導かれてって……」

【事実だろう?】


 事実だけど魔王の言葉じゃねえんだわ。

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さぁー主人公君、君の次の運命を決める分かれ道と言う名の選択肢を選ぶ時間だ
愛の導き(デキ婚)か
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