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悪い奴だぜルシファー… 1

 高校入学から二週間……いや違うな。親父の告白から二週間と言うべきか。

 高校入学は俺にとっては大きなイベントだけどルシファーには負けるわ。

 ともかくだ。あれからそれなりに時間が流れたが劇的に何かが変わったということはなかった。

 強いて言うならお袋が遺影という形で明星家に復帰したことぐらいか。

 飯の時とか遺影テーブルに置いて食ってるんだが賑やかなこと賑やかなこと。


【え? 極楽のご飯気になる感じ? あ、パパちゃんに頼んでそっちに贈ろっか? お中元的なアレで】


 あの世ネタとかガンガンぶっこんで来るんだ。

 あとお袋と話すようになってから知ったんだがガキの頃、それこそ二歳とか三歳の時な?

 夜泣きする俺の枕元に遺影持ってって子守歌とか歌ってたらしい。

 寂しくてしょうがない夜、お袋の夢を見た小さい頃の記憶がうすぼんやりとあったがマジだったようだ。


 順調なのは家庭だけではない。学校もだ。

 中学で仲の良かった奴らとは進路バラバラで正直、最初は不安だった。

 ただクラスで気の合うダチが二人できたし他とも普通に付き合えてる。

 高校生活の滑り出しはまあまあ順調と言えるのではなかろうか?


 ――――ここまでが前置きだ。


「わ、黒猫。どっから迷い込んだんだろ?」


 隣に居る女顔の白髪が俺の前を横切った黒猫に目を瞬かせる。

 コイツは先に述べた気の合うダチその①桐生飛鳥。

 まあ飛鳥のことはどうでも良い。問題は黒猫だ。


(……これで四つ目)


 今日は朝からどうにもおかしかった。

 寝苦しさで目覚め時計を見ると四時四十四分。

 いってきますと玄関を出たところで靴紐ブチぃ。

 気を取り直して登校すれば猫の死体を啄む烏の群れに遭遇。

 そして今、黒猫が購買に向かう俺の前を横切りやがった。

 順調な高校生活二週間だけ? 一か月と経たず暗雲かかってない?


(俺が悪魔の子だからか?)


 確かに俺の親父はルシファーだけど今はちゃんと働いて税金だって払ってんだぞ。

 ……いやルシファーの罪がその程度でどうにかなるわけないけどさ。

 ルシファーとしてはともかく明星太郎としては立派に父親やってんだしそこは融通利かせてくれや。


「どうしたの次郎?」

「……いや。さっさと買って戻ろう。待たせてるしな」


 購買でからマヨ三つ、ナゲット、パン複数とジュースを購入して中庭に帰還する。


「遅かったな。というかどうした次郎。何やら不機嫌顔だが」


 これまた女顔の黒髪眼鏡が読んでいた文庫本から視線を上げ首を傾げる。

 気の合うダチその②の如月了だ。

 ……どうでも良いけどコイツらみてえな女顔の美形って俺の役なんじゃねえのか?

 だって我、ルシファーの息子ぞ? どう考えてもキラキライケメンにするべきじゃろがい。

 いや悪くはないんだぜ?

 でもお袋曰く、


【昔の知り合いにいた女食い物にしてるバンドマンみてえだよねじろちゃん。蛇顔のイケメンだし(笑)】


 とのこと。

 (笑)じゃねえんだわ。


「あー……どうも朝から不吉なことばっかでよぉ」


 どっこらせと芝生に腰を下ろし愚痴る。

 飛鳥も了も受け身タイプなので黙って俺の話を聞いてくれた。


「お前そういうの気にするタイプだったんだな」

「僕もそれ思った。雑に見えて案外繊細だったり?」

「強そうに見える奴ほど実はってのはよくあることだが次郎がそうとは思わなんだ」


 好き勝手言ってくれるぜ。


「しょうがない。これをくれてやろう」


 小さい密閉袋を懐から取り出し俺に差し出す。


「あ、これよっとっとのレア型じゃないか! 良かったね次郎!!」

「俺はガキか?」


 いや嬉しいけどね。よっとっとに限らずペノのハート型星型とかも出たら嬉しいタイプだけどね。

 でも別にそれで今日の不吉が相殺になるわけじゃねえから。

 というか了お前、わざわざ保管してたのかよ。


「私はこういうの集めるタイプだからな。ちなみにこれは三時間目の休み時間の際に発見したものだから新鮮だぞ」

「……ああそう。まあ、気持ちだけもらっとく」


 何か馬鹿らしくなって来た俺は溜息を吐き菓子パンに齧りついた。


「まあ元気出しなよ。今日はこの後、楽しいイベントが控えてるんだからさ」

「そうだ。肉だぞ肉。肉が沢山食べられる。お前肉好きだろう?」

「俺はガキか?」


 いや好きだけどさ。

 ちなみに楽しいイベントというのは放課後にキャンプ場でやるクラスの親睦を深めるバーベキューだ。

 しかもお泊り。今日金曜で明日は休みだからな。

 何でも近くに良い感じのスポットもあるとかでバーベキューの後は肝試しも予定されている。


「見なよ了。さっきまでの不景気な顔がどこへやらだ」

「泣いた赤子がもう笑うとはこのことだな」

「う、うるせえ!!」


 恥ずかしさを誤魔化すようにカレーパンに齧りつく。

 昔から思ってたがカレーパンって神懸かった食べ物だよな。

 コイツを開発した人間はもうその功績だけで天国行けるだろ。


「お」


 ふと渡り廊下に視線をやると担任を発見。

 眼鏡の向こうに見える優し気な蒼い瞳。太陽の光でキラキラ光る腰まで伸びた綺麗な金髪。


「はぁー……やっぱ美人だわミア先生」


 フルネームはミカエラ・アシュクロフト。ミアは愛称だな。

 名前と見た目で分かるが外国人なんだがこれまたすんげえ美人。

 男の妄想から飛び出てきたような女教師って感じで見てるだけでテンション上がる。

 不吉なものばかり見せつけられていたから余計にそう思う。

 正直な話、先生のクラスになれただけで高校生活のスタートとしては最高だなって。


「まかりまちがってあの素晴らしいお胸を触らせてくれたりしねえかなあ」


 もしくは素敵ヒップに顔を埋めたい。


「堂々と下心を口にするな」

「恥を知らないんだろうね」

「うっせえ! あんな美人に下心持つなっちゅーほうが無理な話じゃろがい!!」


 あとはまあ、これは恥ずかしくて言えないけど……。

 自分でも気持ち悪いのだが、俺は何でか先生に妙な親近感を覚えてたりする。

 一人っ子なので合ってるかは分からないが一番近いのは姉、だろうか?

 無自覚だったが俺は姉属性が性癖だったのかもしれない。

 いやでもあんな美人な姉ちゃんいたら最高の家庭だよねっていう。

 何せうちにいるのは泣く子も黙る魔王様と魔王様を堕としたギャルだから……。


(今日のバーベキューには先生も引率で来るみたいだし仲良くなれたら良いなあ)


 ぶっちゃけると生徒の一人ではなく特別な生徒として見て欲しい。


「「やれやれ、安い男だこと」」

「こ、こいつら……!!」


 そうこうしつつ昼休みが終わり午後の授業が始まる。

 昼休みに先生で心が癒されたからだろう。沈んだ気持ちも浮上し気分良く授業を受けられた。

 そして放課後。軽い打ち合わせをしてから一時解散と相成った。


【じろちゃんおかえり~】

「ただいま~」


 家に帰ると遺影のお袋が俺を迎えてくれた。

 何か煎餅齧ってるのでおやつタイムのようだ。


「昨日も言ったけど今日、クラスの親睦会あっから」

【分かってる分かってる。た~っくさんアオハルしといで~】

「うん。親父のことよろしく」

【りょ。今夜はダーリンハニー水入らずでイチャつきまくっから(笑)】


 イチャつきまくっから(笑)じゃねえんだわ。

 ガキの前でそんなこと言うなよ反応に困るだろ。


「……まあ夫婦仲が良くて何よりだよ」

【あーしら生涯ラブラブだかんね(笑)】


 やれやれ。

 気恥ずかしくなった俺は服を脱いで風呂場に。

 シャワーを浴びて汗を流し私服に着替えて前日の内に用意していたお泊りセットを回収。


【あれもう行くん? 早くない?】

「俺、買い出し当番なの。じゃ、いってきます!!」

【そういう? ってら~】


 遺影のお袋に見送られて家を出て学校にとんぼ返りする。

 学校の駐車場で他の面子と待ち合わせをしているのだが、


「こねえな」


 時間はもう過ぎてるんだけどなあ。

 スマホを弄りながら待っていると、


「ごめんなさいお待たせしちゃって」

「え、先生? 何で?」


 何故か先生がやって来た。


「それが田崎くんたち急に部活の方で呼び出しがあったみたいなんです」


 あー……そうか、肉の買い出し組って俺以外全員野球部だったな。

 部活で何かあったら全員、そっち行っちゃうのか。


「他の買い出し組の子たちに当番を代わってもらおうにも」

「……もうとっくに出ちゃった感じですか?

「はい」


 買い出し組は肉、野菜、米と分かれているのだが全員同じところで買うわけではない。

 確か野菜は現地に近隣の農家さんが卸してる販売所みたいなんがあるんだったかな?

 そこで買うのがコスパ的に良いだろうと野菜組はそっちで買って下処理も兼任している。

 米組も校区外にあるとこで買うとか聞いたような?

 買い出し組が使えないとなれば他のとこから何人か融通してもらいたいところだが……。

 残りは現地での準備をする役割だからな。多分もう……俺の考えていることが分かったのだろう。

 ミア先生がコクリと頷く。


「もう皆、電車に乗っちゃったみたいでして」


 なるほどそれで先生が。

 いやだが役得。だってこれもうデートじゃんね!


「そういうことならしゃーないっすね。んじゃ先生、よろしくお願いしゃっす!!」

「ふふ、はい。クーラーボックスは車に積んであるので」


 促され先生の車に乗ってちょっと遠くの大型スーパーへ。

 学校近くに肉屋もあるのだが今日はスーパーが特売らしくこっちのが得だろうということになったのだ。


(にしても……ああ、めっちゃ良い匂いするぅ……)


 助手席に座ってるんだが幸福指数半端ねえわ。

 匂いも良いし景色も良い。ちらちらと視界に映る黒ストに包まれたムチっとした脚がもうね。


(ありがとう野球部。こんな素晴らしい機会をくれて)


 だが幸せなのはスーパーに到着するまでだった。


「……」

「? 明星くん?」


 カートにカゴを積んでいざってところで視界の端に捉えてしまう。

 ガチャポンコーナー。そこにいる男の姿を。


「いっで!?」

「ちょ、何やってるんですかぁ!?」


 しゃがみ込んでガチャ回してるオッサンの尻を軽く蹴り飛ばす。


「大丈夫ですよ先生。これうちの親父なんで」

「お、おぉ次郎じゃないか。いきなり何をするんだ」

「何をするじゃねえよ。こんなとこで何やってんだ禿」


 堂々と仕事サボってんじゃないよ。


「サボりじゃない休憩だ。今日は一日外回りだったから帰る前に少し休憩をだな」

「だったら茶店でも行けば良いだろ。何を真剣なツラでガチャ回してんだよ」

「大人だってガチャを回したくなることはある!! というのはさておき次郎、そちらの方は?」


 親父が先生に視線をやると呆気に取られていた先生が居住まいを正し頭を下げた。


「こ、これは失礼をば。明星くんの担任をさせて頂いていますミカエラ・アシュクロフトと申します」

「……おぉ、これはご丁寧に。次郎の父の明星太郎です」


 息子がいつもお世話にと大人同士が軽く挨拶を交わし軽い雑談が始まる。

 声かけたの俺だけど自分のことで担任と親話してんのって何かむずむずするな。


「……親父、俺らそろそろ行くから」

「ん? おお、すまんな引き留めて……いやちょっかいかけてきたの次郎だよな」

「こまけぇこたあ良いだろ。じゃ」

「ああ。楽しんで来いよ。先生、息子をよろしくお願いします」

「はい。責任を持ってお預かり致します」


 親父に別れを告げ歩き出す。


「……しかしまあ次郎も奇縁よな。こういうこともあるのか」


 精肉コーナーについたわけだが、


「先生どうします? 焼き肉用の肉買うのは決定として」


 牛だけじゃなく鶏や豚もあるからな。


「牛を一番多めにして次が豚、その次が鶏という感じでどうでしょうか?」

「っすね。それでいきましょう」


 二人でぽいぽい肉をカゴに入れていく。

 ……言って良いかな? 今すっげえ良い気分。

 今俺私服で先生はスーツ姿。教師と生徒には見えなかろう。

 歳の差カップルとかに見えなくもないんじゃないの~?


(うへへへへ)


 今理解したわ。朝からの不吉続きはここで帳尻を合わせるためだったんだな。


(もう半分過ぎてっけど言うわ。今日は絶対最高の一日になる!!)

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― 新着の感想 ―
おっさんの時といい今作といい…… さてはカブキマンさん、真メガテン好きですね? あるいはイモ欽トリオ。
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