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星の王子さま 7

「……うぅむ、どうしたもんかね」


 ミカエラ以外の眷属が激しい戦いを繰り広げている脇で次郎は葛藤していた。

 悩みの種は空中に浮かぶ十のチョコ。

 これにどれから手をつけるかで次郎は真剣に悩んでいるのだ。


「とりあえず先生のチョコは一番槍かトリでお願……おっと」


 傍で待機していたミカエラがさらっと卑劣な口出しをする。

 当然、見逃すはずもなく飛鳥や了たちから攻撃が飛んで来た。


「……よし、もうクジで決めよう」


 羽根を引き抜き消えないようにした上で表面に女性陣の名を書いて箱型の結界に放り込む。

 何度かシャッフルしてからくじを引き選ばれたのは、


「お、レモンのか」


 やった! とレモンが歓声を上げバフォメットの角を圧し折った。


「ほう、ほほう?」


 バレンタインチョコではあるがよくイメージするハート型のそれではなかった。

 乙女的アピール力が弱い? いやそんなことはない。

 むしろ、


「レモンピール、だっけか」


 これでもかってほど露骨だった。

 私を召し上がれというメッセージ以外の何を読み取れというのか。

 ホワイトチョコでコーティングされたレモンピールを摘まみ上げ口の中に放り込む。

 途端に次郎の顔が眩い笑顔に変わる。


「……あぁ、良いな」


 爽やかな酸味とホワイトチョコの柔らかな甘さ。品のある味わいだ。

 そして何よりもこれでもかと気持ちが伝わって来る。


「レモン、ありがとうな! 美味しいし嬉しいよ!!」

「どういたしまして! 喜んで頂けたようで私も嬉しいわ!!」


 歓喜と共にレモンはバフォメットをKOした。


「時に先生、どう思います?」

「……」


 言葉は足りていないが十分、伝わっていた。

 すっと目を細め戦場を見渡す。


「いい加減、貴様とは決着をつけたかったのである。何故、我が蠅と同一視されねばならんのか」

「それはこちらの台詞だ! 何故暴食の王が貴様のようなアホと一緒にされねばならんのだ!!」


 視線の先ではバアルとベルゼブブが火花を散らしていた。

 ベルゼブブと言えばルシファーと共に七つの大罪に数えられる大物だ。

 そんな大物が最前線にまで出張って来ている。

 いや彼だけではない。


「傲慢と憤怒を除く七罪の悪魔にソロモン七十二柱、宰相ルキフグス……」


 ミカエラは渋い顔でこの空域で戦っている悪魔たちの名を次々に挙げていく。

 彼らは魔王を除き魔界でも限りなく最上位に近い実力者たちだ。

 そんな者らが全て出張って来て飛鳥や了らと熾烈な戦いを繰り広げている。

 言い換えると魔王が待つ万魔殿で控えていて然るべき者らが軒並み動員されているということ。


「やはり、あるのでしょうね。隠し玉が」


 先に挙げた大物たちを最前線に放り込んでも問題ないほどの何かがある。

 そう考えるのが自然だろう。


「……」


 次郎が渋い顔になるのも当然だ。

 ミカエラという次郎に次ぐ最高戦力が温存出来てしまっている現状を考えると不穏極まる。

 次郎とミカエラで魔王を相手取りつつ他の眷属の救援を待つ。

 それが最善の形ではあるがそう簡単にはいきそうにない。


(親父が俺とサシでやり合うことを望んでるのは分かってたが)


 それはそれ。これはこれ。

 大前提として全力で勝ちに行ってこそだろう。

 なので最終的にフクロにする形になったとしても次郎的には問題なかった。

 だからこそ魔王の掌中を脱せられていない現状を苦々しく思うのだ。


「何が出て来るのか正直、予想もつきません」

「……そうっすよねえ」

「まあでも大丈夫です。何が来ようと先生がぶちのめします」


 私だけでは無理なら皆さんの手も借りて。

 次郎の不安を拭うように微笑むミカエラに次郎も肩の力が抜けぷっと噴き出す。


「処女と童貞のままじゃ死ねませんからね」

「ええ、真理ですね」


 二人は深く頷きあった。


「さて次はどれ……おっと」


 チョコくじを引いたところで次郎の視界に吹き飛ばされた飛鳥が移り込む。

 翼を広げ包み込むように受け止めるとからかい混じりに声をかける。


「よォ、キツそうだな。手ぇ貸してやろうか?」


 今しがた飛鳥、了がやり合っていたのは堕天使アザゼル。

 天使時代からルシファーに付き従い今も生きている最古参の一人である。

 次郎の眷属になったとはいえ二十年も生きていない小僧がやり合うのは厳しいだろう。


「はぁああああ!? 余裕なんですけどォ!?」


 性能自体はそこまで離れていない、どころか飛鳥たちの方が上だ。

 だからこそアザゼルは性能を発揮させないよう心を揺さぶる立ち回りをしたのだろう。

 そのお陰で飛鳥は彼女にしても珍しいほどブチギレているというわけだ。


「少なくとも心に余裕はないようだけど……めっちゃキレてるし」

「キレてませんけど!?」

「キレてるじゃん……お、次お前のだわ。オーソドックスなハート型か」

「……」

「戦闘スタイルと同じでプレーン……どした?」


 急激にすん、となった飛鳥に首を傾げる次郎。


「ちょっと力を借りようかな」

「あ、ちょ」


 飛鳥は有無を言わさず自身のチョコを掴み取り包装を剥がした。

 そして何の躊躇もなくチョコにかじりつき圧し折るや、


「おいこれ俺の――――」

「んむぅ?!」


 次郎の唇を奪った。

 口移しでチョコを食べさせ、あまつさえ舌も入れて無茶苦茶に貪り始めたではないか。


「よし、やる気出た! 味わって食べてね!!」


 じゃ! と飛鳥はさっさと戦線復帰しアザゼルの横っ面に拳を叩き付けた。

 その光景を見てしまったものは皆、唖然としていたが……。


「……ずるい」


 と真が呟けば、


「アァアアアアザゼェエエエエエエエル!!! テメェ何うちの子悲しませてんだクラァ!?」

「堕天使としてこれまで様々な悪口雑言を受けて来たがここまでの言いがかりはそうそうないぞお前」

「真はねえ! あんな器用な真似出来ないのよ!? ふざけんなボケカス死ね!!」


 モンスターペアレントが怒りも露わにアザゼルに襲い掛かる。


「ちょっと貴様、もうちょい頑張れんで御座るか? 拙者も殿に一発キメたいんで御座るが」

「何だコイツ!?」


 完全に空気がおかしくなってしまった。

 命懸けの戦争の真っ最中だというのに何なのかこれは。


「はっはっは! 愉快であるなぁ!!」


 そう声を上げたのはバアルだった。


「貴様ら軒並み少女の色恋沙汰以下だとよ」


 くだらない挑発だ、と大多数は切って捨てた。

 しかし色々と見え過ぎてしまう賢明な者らは渋い顔だ。

 飛鳥からすれば何てことのない行動だったのだろう。

 だがそれは小さくはあるが確かに流れを変える一手だった。


「馬に蹴られぬ内に退いた方が良いのではないか?」

「……抜かせ!!」

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