星の王子さま 3
二月十二日。明後日にはもう決戦だが俺は普通に遊び歩いていた。
心身を休めるつっても少し緊張感を持てと言われそうだが……ねえ?
これがまったく関係ない他所の神話の邪神や怪物とかなら話は違った。
きっと緊張してそわそわしてたと思うが結局、身内だからな。
命が懸かっているし何なら俺が死ねば世界に多大な迷惑もかけてしまう。
(分かってても相手が親父だと思うとなあ)
自然と肩の力が抜けるのだ。
多分、これが正解なんだと思う。変に力まず自然体で対峙するのが俺たちにとっての正解。
まあ流石に直前ともなれば少しは緊張感も出て来るだろう……多分。
「失礼仕る」
「んぁぁあああああああああ!?」
画面の向こうで俺の操作するキャラがシバキ倒されKOの文字が躍る。
これで三戦三敗。一本も取れず負けるとかおかしいだろ……。
「お前これ絶対、やってただろ」
「いえ今日がお初に御座るよ。そもそもゲームセンターなど縁のない場所ゆえ」
それは……まあそうか。
今日は俺に付き合ってゲーセン来てるがコイツの趣味趣向ではないもんな。
ゲーセン来るぐらいなら家で忍者映画でも観てるだろうし。
「ゲーム自体も忍者が主軸のものはやり申すが格闘ゲームはあまり」
じゃあ何でコイツこんな強いんだよ。俺そこそこやり込んでんだぞこれ。
「拙者、割と何でも卒なくこなせてしまう女ゆえ」
「調子ぶっこきやがってと言えねえのが辛いわ」
器用万能なのは知ってたけど遊びまでそうなのかよコイツ。
「接待プレイもやれるで御座るが」
「それは萎えるから嫌。とりあえず別のやろうぜ別の」
人居ないから連コしてたが何時までも陣取ってるのはな。
忍者を引き連れフロアをうろつく。
音ゲー、メダルゲー、パチやスロ、麻雀と色々あり過ぎて目移りしてしまうな。
「プライズ系もありでは御座らぬか?」
「お、そうだな。何か忍者グッズあったら取ってや……いやお前がやった方が確実か」
「そこはほら、拙者も乙女ゆえ。ピにプレゼントしてもらった方が」
「ピ言うな」
「殿兼ピでは御座らぬか」
「ピではあるけどそういうこっちゃねえよ」
と、そこで忍者が足を止めた。
「どした?」
「いや、あそこ」
と少し離れた場所にあるお菓子を崩す系のプライズゲームのあたりを指さした。
女子中学生のグループが楽し気にプレイしているのだが、
「……レモン」
そこにはクスクスと笑っているレモンも混ざっていた。
普段俺たちに見せるのとはまた違う年相応の女の子の顔だ。
「あ、ちょっと泣く」
「これを」
と忍者がハンカチを渡してくれたので目元を拭う。
いや友達が居るのは聞いてた。そういう話もするからな。
ただこうして直に友達と遊んでるところを見るのはこれが初めてなのだ。
そりゃ感極まっちゃうよねっていう。
「レモン殿に対しては本当にお兄ちゃんで御座るなあ」
「そりゃな。最初は兄貴分ぐらいのつもりだったが実際、血も少しは繋がっているんだし」
「その妹に手を出すとは流石魔王の子……」
「馬鹿お前。出してんのは妹(分)だけじゃねえ。姉(貴分)もだ」
いやまだ手は出してないから出す予定、と言うべきか。
などとヒソヒソしつつ気配を消して筐体の影からレモンたちの様子を窺う。
「ねえねえ、バレンタイン近いけど皆はどうすんの?」
「そりゃ渡すよ。誰にって? 言わせないでよ恥ずかしい」
「4組の坂本でしょ? 分かってるわよ」
「え、嘘バレてる?」
「あれで隠してるつもりだったの?」
おぉ、ガールズトークだ……。
俺の身近に居るガールズからは聞けない真っ当なガールズトークだ。
何か新鮮過ぎてちょっと胸がキュンキュンしてるぞ。
「ってかそういうレモンこそどうなのよ?」
「例の兄様に贈るの?」
「え、いや……あー、あんまり考えてなかったわ」
「えー! あり得なくない!? だって好きなんでしょ!?」
「ちょっとあんたこういう時に動かないのは駄目だってば」
いやぁ、レモンがバレンタインについて意識がなかったのは別の理由だと思う。
「レモン殿は真面目に悪魔やってるで御座るからなあ」
「そうそう」
悪魔として聖なる日を楽しむのはどうなのか? みたいなね。
クリスマスだって飛鳥と了の誕生日がなければ普通に過ごしてただろう。
「ライラやバアルみたいな大物は全然気にしてねえのにな」
「バアルとか拙者と一緒に普通に神社仏閣巡りとかもしてるで御座るからな」
「それな」
アイツどのツラ下げて他所の神様の領域踏み込んでんだ。
「作った方が良いって! 絶対兄様喜ぶって!」
どうでも良いが見ず知らずのJCに兄様って呼ばれるのちょっとドキドキするね。
「そ、そうかしら……いえ、そうね。兄様だもの」
そりゃ喜ぶよ。
義理チョコですらご機嫌ゲージが上昇するのが男ってもんだ。
「じゃあさ、折角だし皆で一緒に作らない?」
「あ、賛成! 明日あたりユカん家に集まってさあ」
「あー……ごめんなさい。私、明日明後日は用事があるのよ」
そうだよな。ちょっと魔王殺しに行く系の用事があるんだよな。
俺もチョコは欲しいけど明日、作ってくれとは言えんわ。
流石にね。決戦前日だもん。ミリ単位でも疲れを残すべきではない。
だから俺だって明日は一日中ゴロゴロして飯もデリバリーで済ませるつもりだし。
「……」
「ん? どしたよ」
「あ、いえ何でもないで御座る。それより殿、何時までこうしてるで御座るか?」
あー、確かに今の俺らかなり不審者だもんな。
物陰からJCの集団見張ってる高校生の男女って何だよ。
「そうだな。とりあえずレモンが世話になってるし挨拶ぐらいはせんとな。行くぞ」
「ハッ!」
忍者を伴いレモンたちの下へ向かう。
「あ、兄様」
「わ、生兄様じゃん! 写真よりも悪いバンドマンっぽい!!」
酷くない?
「ちょっと兄様に無礼は許さないわよ!?」
「良いって良いって。はじめましてお嬢さん方。聞いてるかもだが明星次郎だ」
レモンと仲良くしてくれてありがとうと感謝を伝える。
「いえいえ。うちらもレモンにはお世話になってるんで。ね?」
「そうそう。勉強とかめっちゃ見てもらってます!」
「それよりその、お隣の方は」
彼女か? レモンのライバルか? とにわかに警戒するお友達。
普通にレモン含めて俺の女だよ! と言いたいがレモンの世間体があるからな。
上手くやれよとディアナにアイコンタクトを送ると奴は小さく頷き口を開く。
「ふふ、次郎さんのお友達をさせて頂いているディアナ・モルゲンシュテルンと申しますわ」
どうぞよしなにと忍者は上品に微笑み、
「「誰だお前!?」」
俺とレモンはドン引いた。