星の王子さま 2
「おかえり」
二人と遊んでから帰宅すると真ちゃんが俺を迎えてくれた。
同棲以降、女性陣が日替わりで泊まりに来ることになったのだ。
事後承諾だったがまあ、俺としても不都合はないので別に構わない。
「ただいま……ライラも居るの?」
リビングに奴の気配があるので聞いてみると真ちゃんはコクリと頷いた。
「暇だから、だそうだ」
「……そう」
これが先生とかなら平然と追い出していただろう。
ただ真ちゃんはそこまで気にならないらしい。
第三者が居ようが居まいがイチャつきたい時は普通にイチャつけば良いと思ってるんだろう。
マジでマイペースだなこの子。
「うぃー、お邪魔してるよ~」
「お前、結婚した子供夫婦のとこに入り浸る姑かよ」
ダイニングに行くとライラがこたつに入ってテレビを見ていた。
こっちを見もせず声かけるとか舐めてね? 王子ぞ? 我魔界の王子ぞ?
「姑って……いやあ」
「そこ照れるとこじゃねえし」
「明星、ライラは別に私の母ではない」
「いや、ま、そうだけどさあ」
姑言われて照れたと思ったら真ちゃんの訂正で軽く凹んでいた。
別にライラが嫌いというわけではない。むしろ普通に好きだと思う。
じゃなきゃ俺の家にそもそも入れてないだろうからな。
「……?」
「……まあ、あんたはそういう子だよね」
そこが可愛いとこでもあるんだけどぉ、とライラ。
(コイツホントに入れ込んでんな……)
多分、人間辞めた影響もあるんだろうな。
いずれ訪れる別れがあるからあれでも一線を引いていたのだと思う。
だがそれが解消されたもんだから母親気分が加速したのだろう。
「明星、夕飯は何が良い?」
作ってくれるだけでありがたいんだが皆、聞いてくれるよな。
「寒いし鍋……いや、親子丼も食べたいな」
昨日テレビで美味い店が紹介されてたんだ。
「あらやだ王子ってば遠回しなアプローチ?」
「一瞬で親子丼欲失せたから鍋でよろしく」
「ちょっと!? ミカエラの下ネタには寛容なのに酷くない!?」
好感度の差ですかねえ……。
いや決して嫌いではないしむしろ好きではあるんだけどさ。
何だろ惚れてる女と近所の世話焼きおばちゃんだと対応が変わるっていうか……。
「鍋だな。了解した。買い物に行って来るから少し待っていて欲しい」
「あ、それなら俺も行くよ。荷物持ちやらせて」
「帰って来たばかりだろう?」
「俺がしたいだけだから気にしなくて良いよ」
「そうか。ありがとう。嬉しい」
「ならあたしも行こっかな」
気ぃ利かねえなあ。別に良いけどさ。
三人で近所のスーパーに赴く。
時間帯が時間帯なのでかなり混雑しているが賑やかなのは嫌いじゃない。
「っぱ冬はアイスだと思うワケ。真と王子はどれにする?」
「最後にしろ」
「何で初っ端アイスなんだよ。買い物下手か?」
「酷くない?」
分かってないわけじゃない。
多分、こうやってぞんざいな扱いされるのを楽しんでるんだと思う。甘えん坊か?
「鍋つゆはどれにする?」
「そうだなぁ……今日は〆、ラーメンの気分だからキムチかちゃんこか……」
「豚骨醤油とかもありじゃない? あとごま豆乳とかも」
「魚介も良いと思う」
「うぉ、迷うぜぇ……」
ふと思ったが俺らどう見えてるんだろうな。
パッと見全員学生だから両手に花かな?
まあ片方の花は化石級のドライフラワーなんだが。
「何か失礼なこと考えてない?」
「ないっすねえ」
だってただの事実だもん。
肉は鳥にするのか豚にするのか。やれ野菜は白菜以外はどうするのか。
何てことのないお喋りに興じながらの買い物を終え帰宅。
家に戻って手洗いうがいを済ませると真ちゃんは早速、調理に取り掛かった。
俺も手伝おうかと言ったがゆっくりしててくれと言われたので大人しく従った。
無表情なので分かり難いが好きな男に料理を作るということを喜んでるのだと思う。
「あたし思うんだけどさ。そろそろCS契約しない?」
「人ん家で厚かましいこと言ってんじゃねえよ」
「民放も良いけどさあ。っぱ映画とかドキュメンタリー系はCSのが良いじゃん?」
「知らねえよ。つか自分でしろや。金なら幾らでも用立てられるだろお前」
悪名高き夜の女主人。契約したいという人間は山ほど居るだろう。
それこそ政治家や大富豪なんかもな。
ちょろっと願い叶える代わりに億単位で引っ張ることぐらい容易いはずだ。
「んもう王子ってばセメント過ぎぃ。あたしらもう実質、ファミリーみたいなもんじゃん」
「真ちゃんどころか俺の義母面までし始めやがったよコイツ……」
コイツの個人的な情報とか殆ど知らねえのに何だその距離感。
俺がそうぼやくと、
「じゃあ今聞けば良いじゃん。スリーサイズから経験人数まで何でも答えるよ~」
「興味ね……あ、いや一つあったな」
「お、何々?」
……いやでもこれ聞いて良いのかな。
ちょっとデリケートな話題な気もするが、いや気にするタマじゃないか。
「お前、世間様的にはリリスって呼ばれてるわけじゃん?」
「だねえ。本名より通り良いのはマジ心外なんだけどね。それがどしたん?」
「その、何だ。眷属になったわけだし俺もまあお前らのこと色々調べたわけよ」
オルタークは人間界での知名度は裏でしかないがコイツとバアルは違う。
ネットの百科事典とかにも記事が作られるようなビッグネームだからな。
ちょろっとスマホで検索したら山ほど検索結果出て来たよ。
そこで気になる記述、というか説を見かけたのだ。
「……一説によるとリリスはサタンの妻らしいじゃねえの」
そしてそのサタンはルシファーと同一視されることがあるという。
実際にサタンは存在せず親父への畏れを分散させる意味で作られた架空の魔王なわけだ。
つまり何が言いたいかというと、
「お前ってルシファーの元カノとかだったりするのか?」
もしそうならちょっと色々見直すべきだろう。
親父は別にどうとも思わんだろうがライラは情が深いからな。
俺らのためとはいえ昔の男と殺し合いをさせるのは気が引ける。
いや直接やるのは俺だけど間接的にでも敵対させるのはな……。
「あははははははは!!」
「おい」
何笑ってんだ。これでも真面目に気ぃ遣ってんだぞ。
咎めるように睨みつけるとライラはごめんごめんと謝罪し苦笑した。
「確かに人間の中ではそういう説もあるみたいだけどあたしら無関係だから」
ただの上司と部下の関係でしかないとのこと。
その言葉を聞き胸を撫で下ろす。
どんな理由があろうと惚れた男の敵になるのはしんどいもんな。
「これまで特定のパートナーが居たことはないし仮に作るとしてもよ?」
あれはない。マジであり得ないとライラは笑い飛ばす。
「あんな誰も愛せないクソ野郎と付き合う女とか顔か力目当て、それか狂ったカリスマ性にやられた馬鹿だけでしょ」
うちのお袋ディスってんのかおめえ。