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魔王ジュニアVS因習村 1

「ホワキャキャキャキャ!!!」


 猿のような奇声を上げながら両サイドから仕掛けてきた飛鳥と了の猛攻を一つ残らず叩き落す。

 別に気が狂ったわけではない。ただの煽りだ。


「死ねィ!!」

「くたばれ!!」

「ウキャキャキャキャ♪」


 二人は更にキレた。

 それからひたすら防戦に徹しあちらの息が乱れてきたところでカウンターを突き刺して終了。

 床ペロした二人の傍で勝利のモンキーダンスを踊ってやる。


「いやあ、強い……強いは強いんだけど一体どういう教え方をしているんだい……?」

「も、申し訳ありません」


 顔は見えないが多分、苦笑しているコスモスさんに先生がぺこぺこ頭を下げている。

 すまんね先生。挑発が良い具合に効いたもんでついつい調子に乗っちゃった。


「いや謝る必要はないさ。メンタル面の指導不足。これは私の責任だからネ!」


 HAHAHAとコスモスさん。


「しかし……次郎くんキミ、真正面からのごり押しでもかなりやれるスペックだろうに堅実だネ」

「やー、初っ端から格上が相手だったもんで」


 いけると思ったら普通に相手のが強くて絶体絶命。先生が乱入してこなきゃ死んでた可能性が高い。

 で、二戦目は先生。生き死にこそかかっていなかったが普通にボコられたからな。

 幾ら俺に高い潜在能力あるっつっても満足に引き出せねえんだからセコセコやるしかないかなって。

 あと親父からもあんま調子乗るなって警告されたしね。


「……そう言えばお前、力に目覚める前から屁で隙を作るとかやってたもんな」

「見た目がボスキャラみたいに派手だからギャップで変に惑わされちゃったよ」


 了と飛鳥が寝転がったままぼやく。

 確かに俺のお子様ランチばりに盛り盛りなビジュアルでセコイ立ち回りしてるのはギャップだよな。


「良い心掛けだと思うよ! うん、調子に乗るよりずっと良い!」


 グッドサインを俺に送るコスモスさん。俺もお返しで親指を立てておいた。


「ともあれ今回の模擬戦、どちらにとっても良い刺激になったと思う」


 ああそうだ。途中から忘れてたが今回の模擬戦は互いの進捗を確認し合うのが目的だったわ。


「負けた飛鳥くんと了くんは何がいけなかったのかを考え次に活かすこと。

勝った次郎くんはこれで調子に乗らず更に精進し上を目指すこと。良いかい?」


 コスモスさんの言葉に全員、腹の底から「はい!」と答えた。


「時にミカエラくん。うちはまだまだだけどそっちはそろそろ良いんじゃないかい?」

「そう、ですね。ゴールデンウィーク後半も始まるわけですし丁度良いかもしれません」


 ……?


「次郎くん。君さえよければ少し、裏の仕事をやってみませんか?」

「裏の仕事、っすか?」

「ええ。ちょっとした怪異などの討伐です。今の次郎くんが対処できるレベルのものにしますがどうでしょう?」


 ここらで軽く実戦経験をってことか。

 俺としても願ったり叶ったりだし報酬も出るとのことで即OKした。


「では受付で良さそうな依頼を見繕いましょうか」


 ウォッチャーの仕事は代理戦争の監視だがそれ以外にも仕事はある。

 表の人間が安全に暮らせるよう怪異や悪党を討伐するのも業務の内らしい。

 飛鳥たちと分かれ先生と共にラウンジへ。

 ソファに座って待っててくれと言われたので素直にそうすることに。


「……こんなところですかね?」


 先生は受付のお姉さんと幾らか言葉を交わし何枚かの書類を手に取り戻って来た。


「この五つが適正レベルの依頼かと。分からないことがあれば答えますので次郎くんが選んでください」

「っす」


 テーブルの上の書類を一枚ずつ確認する。

 討伐対象の名前とその詳細、報酬などが記載されているが……えぇ? こんなもらえんの?


「全部ン十万とかなんだけど良いんすか?」

「言っても命の危険がある仕事ですしね」


 これらの敵も油断すれば命まではいかずとも相応の痛手は負うだろうと釘を刺される。


「んー……んん?」


 ふと一枚の書類に目が留まる。

 目をつけたのは討伐対象――ではなく場所だ。

 某県の山中に逃げ込んだ悪魔の討伐らしいがこの住所って確か……。


「先生、これ依頼が終わったら直帰しなきゃいけない系っすか?」

「はい? え、いやまあ別にそんなことはありませんがどうして急に?」

「いや今日の昼休みに聖先輩と茶ぁシバキながらお喋りしてたんすよ」


 GW後半のお出かけについてな。

 俺は特に予定なかったのだが先輩は一人で温泉巡りに出かけるのだと嬉しそうにしていた。


「ひ、一人で温泉巡りとはまた渋いですね……」

「年頃の女の子っぽくはないですけど当人が楽しいならそれで良いでしょう」


 それでだ。話の流れで俺も先輩が持ってる温泉特集のパンフやら色々見せてもらったわけ。

 その中で山奥の秘湯というのがあってこれが中々そそられる内容だった。

 先輩の語り口も上手くて俺はすっかりその気にさせられたものだ。


「先輩も行きたいらしいけど他との兼ね合いを考えたら時間的に厳しいとかで」


 兎に角多く回りたいから泣く泣く却下したとのこと。


「ひょっとして」

「ええ、この滞在場所のとこに書かれてる住所がその秘湯がある村なんですよ」


 スマホで検索して確認してみると……出た。やっぱここだ。

 雰囲気のある小さな温泉宿。料理や景色の写真なども載っててどれも良い感じ。


「ゴールデンウィークだし宿を取れるかどうかは微妙っすけど最悪日帰りでも良いかなって」

「なるほど」


 旅費で貯金崩す必要があったし先生との修行もあったからな。

 良いなとは思ってたが行こうという強い気持ちはなかったんだがこれも巡り合わせだろう。


「……温泉かあ」

「先生も一緒に行きます? 世話なってますし奢りますよ」


 イヤらしい意味ではない。もう殆どそういう目で見られなくなったからな。

 これは単に表裏どちらでも頑張ってる先生への労いだ。

 お金も成功報酬でおつりがくるレベルだから全然奢れる。


「是非にと言いたいところですがウォッチャーとしての仕事がありまして……」


 何でもダークサイドのアホどもがやらかしそうな気配があるらしい。

 ウォッチャー内でも最高戦力の一人である先生はあまり離れられないとのこと。


「ご、ご愁傷さんです」

「……ありがとうございます。まあ私のことはさておき次郎くんは楽しんできてください」


 親睦会からずっと頑張りっぱなしだし依頼を終えたらゆっくりしてくださいと先生は微笑む。

 やっぱええ人やなあ……。


「っす。とりあえず宿に電話入れて空いてるか確認してみますわ」


 宿取れなかったら朝早く出てさっさと標的始末しないとだしな。

 サイトに書かれている電話番号にかけて確認してみると……空いてたよ。

 長期連休だし都会の喧噪から離れて落ち着いたとこでって人もいるだろうに普通に空いてた。


(流石に学校サボるわけにはいかねえし)


 社会人なら有給で前半後半の合間の平日を潰せるが学生はなあ。

 明日明後日の二日だけとはいえ先生の前で堂々とサボるわけにもいかん。

 しょうがないので明後日の夜から連休最終日までにしよう。

 それでも四泊五日。楽しむには十分な時間だろうて。


「宿が取れたようですね。ところで親御さんに許可を取らなくても良いんですか?」

「うちの禿はわりと緩いので大丈夫っす。何なら当日の朝に言ってもそうか気をつけろよぐらいで済ませてくれますよ」


 そしてそんな親父より更に緩いのがお袋(故)だ。

 お土産よろ、で済ませてくれるだろう。


「そ、そうですか」

「あ、別に冷たい家庭とかじゃないっすよ? 放任気味だけどちゃんと愛されてますから俺」

「……ハッキリそう言い切れるぐらい素敵なお父さんなんですね」


 あぁ、先生が複雑な顔を!?


(どちらかが本当の親じゃないと疑ってるだろう先生の認識だと確かにそうなるわな!)


 ごめんね先生! 気を遣わせちゃって!




                                  ◆




 月光差し込む薄暗い茶道室の中、聖愛衣は静かに茶を啜っていた。

 ふと、スマホのランプが点滅した。

 茶碗を置き口元を懐紙で拭ってからスマホを確認。


「……ふふ」


 小さな笑みが零れる。


「誰からだい?」


 壁に背を預け佇んでいた男が問う。


「明星くんです。明日も学校で会えるのにわざわざ連絡をくれたようですね」


 先輩が教えてくれた温泉宿に行くことになりました( *´艸`)という可愛らしい一文。

 はしゃいでいる顔が目に浮かぶと笑う愛衣に男は渋い顔をする。


「こちらの思惑通りに動いてくれたようだが……」

「何か?」

「飛鳥と了ではなく彼をぶつけても意味はないだろう」


 次郎が依頼を受けたのは二人がそうなるよう誘導した結果だ。

 提案をしたのは愛衣で共犯者の男は手伝っただけでその意図は聞いていない。

 それでも手伝ったのは無意味なことはしないだろう思ったからだ。

 関係性に反してどちらも愛情は皆無だが共犯者としての信頼はある。


「いや無意味というわけではないか。ルシファーの息子という特級のイレギュラー。

力に目覚めたばかりとはいえ“あの子”にも届き得る可能性はある。仕留められれば無駄にはならない。

だがあの子の特性を考えればその可能性は低いだろう。そうなれば何の意味もない。

いや親友の喪失が飛鳥と了の成長に寄与するかもしれないが無意味な犠牲は避けるべきだ」


 飛鳥と了をぶつける方がどう考えても良い。

 二人と村で待つ少女の衝突が齎すのは表面的な強化だけではない。内面の成長もだ。

 当初の予定ではそうするはずだったのに何故、次郎をぶつけるのか。

 男の問いに愛衣は薄く笑みを浮かべ答えた。


「その方が良いと思ったからです」

「……だからその理由をだな」

「言葉を交わし、その人柄に触れた結果ですよ」


 愛衣は続ける。


「飛鳥と了。あの子たちが兄弟揃って明星くんに友情を抱いたのは何故です?

彼が好ましいと感じたからでしょう? そして私も同じです。

呪われた血に反してその心は素直で健やか。とても好ましい男の子です。

そして私たち三人がそう感じるのだからあなたもそうでしょう」


 僕もかい? と男が目を白黒させる。


「ええ。一年生の担当ではないから接する機会がないので分からないのも無理はありません」


 しかし言葉を交わし時間を共有すれば好ましく思うはずだと断言する愛衣になるほど、と頷く。


「僕らがそうなら」

「“愛理”もそうなる可能性は高いでしょう」

「つまり真正面からあの子の“能力”をぶち抜ける可能性が高いってわけだ」

「ええ。飛鳥と了も勝てはしますがそれは能力が無効化されるから」


 打ち克つというわけではない。


「愛理の能力を無効化して勝つか真っ向から打破して勝利するか。どちらの方が価値があると思います?」

「……後者、だね」

「その方が糧としてもよほど二人に良い影響を与えてくれるでしょう」

「理解した。だがそれは明星が勝利するという前提あってのものだ」


 些か以上に偶然任せが過ぎるのではないか? 男の言葉を愛衣は笑い飛ばした。


「ルシファーの継嗣と親友になっている時点で当初の予定通りになんて進むはずがないでしょう」

「……仰る通りじゃないか。一体どこで奴は僕らの存在を? それ以前に何時からだ?」


 年齢まで揃えてきた以上、偶然というのはまずあり得ない。


「明星くんの誕生日は飛鳥と了よりも早い。

偽りがないのなら私たちが契約者たちと接触する以前からということになりますね」


 あの悪魔たちが自分たちに目をつけるのを読んでいたということになる。

 更に言えばどんな偉業の形を目指すことになるのかも。

 愛衣の言葉に男は薄っすらと冷や汗を浮かべ唸る。


「……邪魔をする気なのか?」

「どうでしょうね? 悪魔たちの証言通りなら明けの明星は愉快犯のようですし」

「つまりは、何だ? よりドラマチックになるようにってことかい?」

「邪魔をするにしては腑に落ちない点も多々ありますし現状からしてそちらの線が濃厚かと」


 勿論断定はできないが、と愛衣が言うと分かっていると男も頷いた。


「明星も不憫なものだな。何も知らず舞台に立たされてしまったのだから」

「それをよりにもよって私たちが言いますか?」

「……失言だった。忘れてくれ」


 構いませんよと愛衣は答え再度、茶を啜る。


「それはさておき明星くんが気になるならあなたも現地に赴いてみればどうです?」

「僕がか?」

「宿なら取れるでしょうし仕事も連休なんだから問題ないでしょう」

「そう、だな。良いだろう。この目でしかと見極めさせてもらおうじゃないか」

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クククっ、ルシファーはお前たちが思っているよりずっと悪辣だぞ…… (後方訳知り顔)
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