魔王ジュニアVSカルト教団 1
予約忘れてたので今回は二話投稿です。申し訳ありません<m(__)m>
喉の渇きで目を覚ます。
時刻は六時を少し過ぎたぐらいで起きるにはまだ早い。
じゃあと二度寝を決め込もうとしたが目が冴えてしまったのでそれも難しい。
溜息を吐いて起き上がり寝室を出る。
「チッ……朝からはしゃぎやがってからに」
ダイニングの遮光カーテンを軽く開けてみれば元気にギラつく太陽。
七月入ったばっかでこの時間帯だというのにもう暑い。
エアコンのスイッチを入れ冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを呷る。
喉を通って体の隅々にまで水分が行き渡っていくような感覚が堪らなく気持ち良い。
「ふぅ。ちょっと落ち着いた」
でもやっぱ腹立つな太陽の野郎。
地球を何だと思ってんだアイツ。
「いっぺんシメてやった方が良いんじゃねえか?」
【何を太陽にキレてるんだ。お前は闇の申し子か】
「闇の申し子だよ」
独り言に反応したのは飾ってある親父の方の写真立てだ。
とりあえずおはようと挨拶をすればあちらもおはようと返してくれた。
「にしてもえらく早いな。もう着替えてるし」
【今日は早出だからなあ。もう朝食も済ませたぞ】
「ほう? テキトーに済ませてねえだろうな。プリンスチェックだ。献立を言ってみろ」
【はいはい】
一人暮らしを始めてからもう定番になったやり取りだ。
一緒に暮らしてた時は俺が素人レベルだがバランスの良い飯を作ってたがそうもいかなくなったからな。
魔王の肉体ならその気になれば不摂生なんぞ全部帳消しに出来るんだろうが……。
まあ、そういう問題じゃないわな。
【ところでお前は食事の用意は大丈夫なのか?】
「今日はパン買ってあるからな」
昨日、依頼でちょっと遠出した時のことだ。
帰りしな良さげなパン屋を見つけて衝動的に買い込んでしまった。
本当は夕飯にするつもりだったのだがちょっと……いやかなり買い過ぎた。
疲れてお腹減ってる時はついつい多めに買っちゃうよねっていう。
【お前……人にはバランス良くとか言うくせに……】
「普段はまあそれなりにやってるから良いんだよ」
それに若くて体もしっかり動かしてるもん。あと酒と煙草もやらねえしな。
親父ほど気にする必要はないのだ。
【クッ、若さが憎い……ッ】
「つか親父の若い頃って何時なんだよ。寿命ない奴の老若とかわかんねーわ」
そうこうしている内に親父の出勤時間がやって来た。
【じゃあ行って来るよ】
「いってらっしゃい」
また暇になってしまった。
「……アイツを使うか」
テーブルの上のスマホを手に取りワンコール。
少ししてコンコンと窓が叩かれたのでカーテンをどかし窓を開けると、
「参上仕ったで御座る」
忍び装束に身を包んだディアナが跪いていた。
「……一分半か。やるじゃん」
「主君の呼び出かけに迅速に応じるが忍というもので御座るからして」
俺の引っ越しに合わせてコイツも引っ越したんだがそれでも数駅先なんだがな。
本当は俺と同じマンションが良かったらしいが先生とレモンに反対されたらしい。
最低これぐらいは離れろというお達しで数駅先と相成ったわけだ。
そこから一分ちょっとで駆けつけたのだからマジヤバい。
転移とかならまだ分かるけどコイツの場合純粋な速さなんだもん。
「まあ、とりあえず入れ」
「はっ」
「お前もな」
「お邪魔するのである」
少し遅れてやって来たバアルも一緒に部屋の中に招き入れる。
「何でお前居るの?」
「昨夜はディアナと徹夜で忍者映画をマラソンしていたのである」
それでつい先ほど登校時間まで短い仮眠を取ろうとしたところで俺から呼び出しがかかったとのこと。
それで一人で居ても暇だから一緒に着いて来たのだという。
「ふぅん? まあ良いけどさ。それはそうと」
ディアナに視線を向ける。
「何で御座ろう?」
「……前々から気になってたんだが何で衣装変わってんの?」
以前はサイバーパンク風味を感じるスタイリッシュな忍び装束だった。
サイパンっぽいボディスーツとかマフラーとか大枠は今も同じなんだよ。
でも腋とか腹とか背中とか丸出しでえぐい食い込みのレオタードみたいになってんだよ。
脚も網タイツだし……突っ込んで良いのか分からなくてスルーしてたんだがいい加減限界だった。
「はっはっは、拙者はくのいちに御座るよ?」
「それが答えになってると思うお前が怖いわ」
「黄門様に仕えるくのいちもちょいちょい風呂入ってたように色気は必要不可欠で御座るからして」
いやお前、あのくのいちは別にそんなエロコスしてなかったろ……。
「それはさておき御用命は?」
「早く起き過ぎて暇だから登校時間まで何か面白いことしろ」
「承知」
「うぅむ、父親を想起させる理不尽な無茶振りなのである。ああ、魔王の方のダッドであるぞ?」
普通そんな理由で早朝から呼び出すかと呆れるバアルと焦るディアナ。
「ちょ、ちょ、バアル」
「お前たちが気を遣い過ぎなのである」
そろそろネタにするぐらいで丁度良い。
変に触れない方が俺に気を遣わせてしまうだろうとバアルはディアナを嗜める。
まあ、間違ってない。
(他の奴らからすれば悲劇だが俺からすれば茶番劇だし)
仮に俺が本当にあのような悲劇見舞われたとしてもだ。
バアルが言うように何時までも気を遣われるよりはネタにしてくれる方がありがたい。
「……ルシファーねえ、お前親しかったの?」
「親しい、とは少し違うであるな。まあこれで我、結構なお偉いさんであるゆえな」
地位的に近いから他の悪魔たちと違い何かと関わることがあっただけだとのこと。
それで親父があれこれするところも目にする機会が多かったそうな。
「そもそも実の弟にすら本心を告げず神に叛逆かますような御方であるぞ?」
親しい存在なんて居るわけがない。悪魔なら尚のことだとバアルは肩を竦める。
酷い言われようでちょっと笑いそうだわ。
「魔界に下りて来た閣下が開口一番何と言ったと思う?」
「何つったんだよ」
「『早速で悪いが私に頭を垂れ服従を誓って欲しいのだが構わないかな?』である」
「……魔界に下りて来た時ってことは負けた後だよな?」
「うむ」
「負け犬の癖に態度がデカ過ぎる……」
何でそんなイキれるんだよ。
でもこれは良いな。良い感じの黒歴史臭がする。今度ネタにしたろ。
「お前らそれに大人しく従ったんか?」
「なわけないのである」
だわな。
「我含むソロモン七十二柱……まあ当時はそういう括りはなかったのだが。
ともかく我らは普通に舐めんなバーカバーカと中指おっ立てたのである」
それでその結果は? と問うとバアルは笑った。
「中指圧し折られて全員ゲザらされたのであるな」
「ギャグかな?」
実際はそれなりにハードだったんだろう。
ただ結果だけ語ればバアルの言うようにしかならないってだけで。
ってかあの禿、カス過ぎて笑うわ。
「さてバアルが良い感じに場を温めてくれたし次はお前だぞ」
もう落ち着いたであろうディアナに告げると奴は承知と頷いた。
「では拙者が最近、ハマっておる落語を披露するで御座る」
言うや奴の装束が吹き飛び噺家っぽい衣装に変わった。
局部を隠す変身バンク必要? いや全裸見たいってわけじゃねえよ?
普通にパッと変化するんじゃ駄目なのかなって。
「ってか落語……」
「我と一緒に寄席とかめっちゃ通ってるのである」
「落語家もまさか大悪魔が寄席に来てるとは思わねえだろうな」
まあ良いや始めてくれと促すと頷き奴は演目を始めた。
結論だけ言うと、奴の落語は中々のものであった。