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新しい日常 2

「……ここ、かなり娯楽施設が充実してるんすね」

「福利厚生がしっかりしてる組織ですからね」


 先生に案内されて施設の中をあちこち回っているのだが娯楽関係がかなり充実してる。

 シアタールーム、漫喫、ビリヤードやダーツなどの遊戯場、ゲームセンターなどがあるとは思いもしてなかった。


「何かこう、組織の理念? 目的? からしてお堅い感じかなって思ってたんすけど」

「万全のパフォーマンスを発揮しようと思えば肩の力を抜くことも大事ですからね」

「なるほど」


 あれらの娯楽はある意味必要経費ってわけか。


「あとイヤらしい話、うちは組織の性質上“コレ”が豊富なものでして」

「……ああそうか」


 先生は人差し指と親指で丸を作った。

 そういや言ってたなたんまり支援受けてるって。


「っと、検査が終わったようですね。行きましょう」

「うぃーっす」


 特にスマホとか確認した様子はなかったがテレパシー的なものだろうか?

 先生に連れられて二人の下へ向かう。


「桐生くん、如月くん、お疲れ様です」

「うぇーいお疲れちゃーん」

「軽い……まあそっちもお疲れ」

「お前は本当にロクでもないな」


 え、何そのリアクション。

 ひょっとして俺と先生がバトってるとこ見てたの?


「見てたぞ」

「熱い友情にちょっとほろりときた後でアレだもん。リアクションに困るわ」

「う、ううううるせえ! 俺なりに必死にやった結果がバーカバーカ!!」

「「子供か」」


 キッズだよ!!


「ははは、仲が良いようで何よりだ。さて全員揃ったし結果を伝えよう」

「え、もうっすか?」


 普通こういう検査って一週間後とかに結果が出るもんじゃねえの?


「科学的なアプローチの方はそうだけどオカルト方面は直ぐに話せるさ」

「あ、なるほど」

「それで志村さん、どうだったんです?」


 先生がそう聞くと志村さんは溜息を吐き肩を竦めた。


「……特に異常はなかった、か」

「まあ、検査してくれてる人たちのリアクションからしてそんな気はしてたけどさ」


 了と飛鳥に落胆した様子はない。やっぱりかというリアクションだ。

 しかし異常がなかったということは……先生の言ってた通り戦いは避けられそうにないな。


「記憶を弄られたような痕跡もないし気分を害するかもしれないが二人が嘘を吐いているということもなかった」


 気分を害するかもしれないとのことだが二人にそんな様子はない。むしろ当然って感じだ。

 虚偽の可能性も含めてしっかり調べるぐらいはしてくれないと逆に信じられないもんな。


「そういうわけで厳しい現実の話をしなきゃいけない」

「覚悟の上だ」

「ってかもう聞かされてますしね」

「うん。ミアくんが言った通り限界ギリギリまで君らを庇ってその間になるべく力をつけられるよう助力する」


 よろしくお願いしますと二人が頭を下げたので俺もそれに倣う。

 先生には頭下げたけど志村さんはここのリーダーだしな。


「志村さん、そろそろ約束の時間ですので」

「ああ。子供たちは任せてくれ。そっちもよろしく頼むよ」


 先生がまた後で、と言って部屋を出て行った。


「さて。それじゃ僕らは食事に行こうか。もう良い時間だしな。特に次郎くんなんかは腹ペコだろう?」


 御馳走するよと志村さんが言ってくれたので素直に甘えることにした。


「っす。ごちんなりやす!!」

「他人の金で食たべる飯ほど美味いものはないからな。甘えさせていただこう」

「了はもうちょっと言葉を飾ろう?」


 というわけで食堂へ。

 偉く豪華でメニューも豊富なことに飛鳥と了は驚いていたようだが俺はそりゃそうだと納得。

 娯楽に金かけてるんだもん。それ以前に充実させなきゃいけない部分にも当然金はかけてる。

 俺はステーキセット、飛鳥は海鮮御膳、了は中華セットを注文した。


「ところで志村さん先生はどこへ?」

「飛鳥くんと了くんの指導者になってくれる人を迎えに行ったのさ」


 こうなるだろうと事前に話を通していたそうな。

 そしたら予定は大丈夫なので今日、顔合わせをしておこうということになったそうだ。


「ありがたいことだ。私と飛鳥は次郎に比べるとだいぶ遅れているからな」

「だね。なるべく早く次郎に追いつかないと」

「いやすまんね。俺ってば天才過ぎて!!」

「「調子に乗るな」」


 ぴえん。


「そういや次郎って悪魔の力を持ってるんだよね?」

「ん? おおそうみたいだな」

「じゃあ聖水とか十字架とかが弱点になったりするの?」

「それ吸血鬼じゃねえの?」

「聖水と十字架は悪魔も兼用だろう。で、どうなんだ?」

「特に苦手意識とかはないけど……志村さん、そこんとこどうなんすかね?」

「大丈夫だろう」


 おや即答。


「聖なる力が弱点になるなら天使の力も毒となっているはずだからねえ」

「「「そりゃそうだ」」」


 ちょっと見落としてた。


「というか次郎くんに限らず人間との混血は人外由来の弱点はなくなる傾向が強いからね」

「マジ?」

「マジマジ。その種族固有の力の伸びは純血に比べると低くなるがその代わり弱みも消えるんだ」


 ほーう?


「ちなみに種族固有の力に関しては純血のそれに劣ると言っても総合力となると話は変わってくる」


 人間は人外に比べて様々面で弱いし脆い。だがその代わりに可能性を秘めた種族でもある。

 それゆえ混血は人間部分の力が伸びに伸びて人外部分の力と合わさり総合的には純血を大きく上回ることがあるのだという。


「それだけ聞けば良いこと尽くめのようにも思えるが」

「うん。世の中そう都合の良いことばかりでもない」


 力という点ではメリットが目立つ混血だが安定性という点ではリスクを孕んでいるのだという。


「違う種族というのはね。異なるルールを宿す存在と言い換えることもできるんだ」


 人の道理と獣の道理が交わらないのと同じ。

 例えば天使と人の混血は前者の聖性に耐えられず自殺を選ぶ者も多い。

 人の身で人の身に余る正しさを宿せばそのギャップで精神の均衡を崩し易いのだという。


「次郎はそういうのある?」

「まったくねえわ。良い具合に相殺しちゃってんじゃない?」

「次郎くん、砂糖と塩でプラマイゼロになるかい?」

「なんないっすね」


 つまり偶然――いや親父とお袋の愛ゆえ、かな? 強いて言うなら。

 ルシファーほどの存在が愛した女との子を心底から望んだのだ。

 健やかであれという願いが反映されていたとしてもおかしくはない。


「他にも寿命が短かったりなんて心配もあるが……これも君は大丈夫だろう」

「そうなんすか?」

「不安定な混血特有の気配がまるでないからね」


 それは良かった。

 同じ混血のミア先生も――まあ大丈夫なんだろうな。

 そうこうしていると注文の品が届いたので一旦話を中断し食事に勤しむ。

 力を入れているだけあってめっちゃ美味かった。

 腹も心も満たされ食後の一服で茶をシバいていると先生が食堂にやって来る。

 後ろにいるのが飛鳥と了の師匠になる人なんだろうが……。


「「「ふ、不審者だ!!」」」


 そいつは宇宙服に身を包んだけったいな人間だった。

 人間、とぼかしたのは金魚鉢みてえなヘルメット? みたいなので顔が窺えないからだ。

 体のラインも隠れてるのでどっちかまるで分からない。


「こ、コラ!」

「HAHAHA。構わないとも! 実際その通りだからネ!!」


 機械音声みたいで声からも性別が判断できねえ……。


「はじめまして少年たち! 私はキャプテンコスモス! 代理戦争に参加しているプレイヤーの一人だ!!」

「「「えぇ……?」」」


 この人を選んだ悪魔は何を考えてたんだ?

 この人のどこを見て魔王になれる勝算を見出したのか小一時間は問い詰めたい。


「え、えーっとコスモス、さん? ぼ、僕は桐生飛鳥と申します」

「……如月了」


 二人が名乗ったので俺も一応、名乗っておく。


「す、すいませんコスモスさん」

「何の何の。というか私を見てスルーできる方がむしろ心配だしネ!」


 それはそう。


「とは言え互いの理解を深めるためにも少しばかり私について語らせてもらおうか」


 よっこらせと近くの席につきコスモスさんは語りだす。


「私は宇宙が好きでね」

「「「でしょうね」」」


 好きでもなきゃそんな鬱陶しい格好しねえだろ。

 これで日常生活送るにはかなりの根性が必要だと思う。


「それゆえ目指す偉業の形もそれに准ずるものとなっている。ざっくり説明すると科学オカルト両面から行う宇宙開拓だ」


 表の人間は与り知らぬことだが太陽系は既に地球の人外によってしっかり掌握されているらしい。


「マジでか」

「そう驚くことでもないだろう。天体と結び付けられる神やら何やらも多いのだから」


 火星ならアレス、金星ならルシファー、と何気なく言う了にちょっとドキっとした。


「そう。ただ彼らは太陽系より外に関してはまるで関心がなくてね」


 太陽系の外に関しては人間だけでやるしかないのだとか。

 そして裏の人間で宇宙探査を行うような物好きは殆どいないので実質、科学だけというのが現状らしい。


「だから私は化学の力、超常の力を用いて宇宙を探索し第二の地球となる惑星を探しているのさ」


 仮に成し遂げられればそれは凄まじい偉業だろう。

 なるほど、コスモスさんを選んだ悪魔も単なる馬鹿ってわけではないらしい。


「……すごいっすね」

「HAHAHA! 褒められるのは嬉しいけど私はそう立派な人間じゃないヨ!」


 いや十分立派だと思うが……。


「何せ己が野望のため悪魔と結ぶような人間なのだから」


 コスモスさんは断言する。

 便宜上、ライトサイドなどと呼ばれているが代理戦争のプレイヤーは基本的にロクでもないと。

 悪魔の力を借り誰かと殺し合う可能性すら許容した時点で決して善には成り得ぬと。


「「……」」


 飛鳥と了が黙り込む。


「ライトサイドなどという括りは偉業の形がマシ程度の認識にしておきなさい」

「助言、ありがたく」

「鵜呑みにはしないけど参考にはさせてもらいます」

「それで良い。自分の頭で考え続けるのは大切なことだからネ!」


 ちらとコスモスさんが俺を見る。

 あ、俺のスタンスも聞いておきたいってこと?


「俺がその人をどう見るかは俺が決めるんで」

「それも良し! 揺るぎなき己って大事だよネ!」


 何だこの人全肯定彼氏or彼女か?


「さて。アシュクロフト氏から既に事情は聞いているが……大変なことに巻き込まれてしまったね」


 コスモスさんの言葉には労りの色が滲んでいた。

 心底から俺らの境遇に心を痛めてくれているのだろう。

 本人はああ言ってたがやっぱ良い人なんだと思う。


「昨日の今日だしいきなり何かをするつもりはないがとりあえずお互いの予定の擦り合わせをしようか」

「「はい!!」」


 ほほう、昨日の今日でいきなりやり合った俺は?

 先生を見るとバツが悪そうに目を逸らされた。

 まあ別に良いけどね。精神的な疲労という名の罪悪感はともかく肉体的には全然へっちゃらだし。


「先生、俺らはどうします?」

「私は毎日でも構いませんが平日だとどうしたって夜になってしまうのでそれは流石によろしくありません」


 なので休日を含め週三回程度。これならお父さんにも誤魔化しが利くでしょう。

 先生の言葉は実に気遣いに溢れているが親父はもう知ってるんだよなあ。


「んじゃまあ、火・金・土でどうっすかね?」


 週の初めはかったるいのでワンクッション置いて火曜日。

 週の終わりでテンション上がってるので金曜日。

 明日も休みなので半日ぐらい潰れて問題ない土曜日。

 俺的に都合の良い日程を伝えてみると先生はあっさりと承諾してくれた。


「ではそれでいきましょう」


 ……何か逆に申し訳ねえな?

 隠し事の罪悪感はどうやったって消えないので、せめて先生の善意に報いなければ。

 どうやって報いるかは――まあ、俺がさっさと強くなるしかねえわな。


「ざっす。とりま今日も土曜なんでどうっすかね? 飯食ったら更に元気出てきたんで」

「強がり……ではなさそうですね。よろしい、お付き合いしましょう」


 わし、めっちゃタフやしな。


「……あの、コスモスさん」

「……そちらの都合が良ければなのだが」

「HAHAHA! 勿論、付き合おうとも。青春だネ!!」

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