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3話 魔法が無くても

花火の音を聞こえてきた。試験開始の合図だ。そこで僕は近くの茂みに隠れて状況の確認を行う。


この試験の難しいポイントは配点が分からないことだ。次点で森の中であることだ。後者はいつ敵が来るか分からないし、倒しに行ったとしても音で周りにばれて漁夫の利されかねない。そして前者が言いたいのは頑張って倒したとしても点が全然もらえない可能性があることだ。ほとんど無いなんてことないと思うけど、それでも生き残った方が効率がいいなんてことは大いにあり得る。半々でいい感じに取っていくのが一番いいかな。それなら相手を探そう。


決まったなら早く行動するが吉。周りに気を配りながら移動を開始する。


森は視界が悪く索敵は困難だが条件は相手も同じ。時折足跡を消すために木の上を飛び移りながら移動していると一人見つけた。ここから30mくらいだろうか。姿勢を低くして辺りを探っていた。それを確認した僕は体のなかの魔力に意識を向け全身に魔力を行き渡らせる。纏という身体能力を上げることが出来る技術だ。その状態で移動中に拾っておいた石を構えて狙いを定める。狙いは人ではなく横の木。思いっきり投げた石は相手の近くの木にめり込んだ。辺り一帯に大きい音が鳴り響く。それと同時に投げられた本人は急いで防御態勢に入る。そのときに魔法を使用した。


よし、魔法を使った。


僕は急いで石を投げた場所から離脱する。相手はまだ僕を見つけられておらず石が来た方を油断なく見続けている。その間僕は手を出さずに近くの茂みに身を潜める。そのまま放置していると向こうもこちらの意図が見えず、何がしたいんだと困惑してきた。相手からすればまだ視認出来ていないこの絶好のタイミングで追撃して来ないことを不思議に感じているはずだ。アドバンテージがまだこちらにある以上、向こうは攻撃に移れない。


が、膠着を破る第三者が現れる。音と魔力を感じ取ってきたのだろう。余程魔力の操作に長けた者で無い場合、纏や魔力を使えば自分の魔力が漏れる。それを感知した者が寄ってくると祐人は踏んでいた。そのまま戦いが発生する。


それを祐人は観察する。二人を引き合わせた理由はネックレスの防御結界がどのくらいの耐久度を持っているか調べるためだった。自分がこれからやりたい戦法をとるにあたって一番の不確定要素であるため、万が一をなくすためにこの回りくどい方法をとった。


そのまま二人の戦闘は激化していき、最後は後から来た方の攻撃が胴体へもろに当たり、ネックレスは砕けた。


あれくらいなら、何とかなりそうだ。


そう思ってここで彼と戦うかどうかを考える。石を投げてから結構経っているし、戦闘も激しかった。いつまた人がきてもおかしくない。ならここで無理に戦う必要は無い。そう結論づけてその場を後にした。


少し移動してまた索敵。完全に背後を取れる位置だった。先ほどの場所から遠いわけでは無いここら一帯の人間は向こうに意識が向いているはず。なので倒すことに決める。正直、先ほどのことを含めて相手を脱落させることに自分の性格上気が引けるけど、同情は相手に失礼だろうしこれは試験だ。自分の持てる力を全て出さないと合格なんて出来ない。


さっきの感じから僕がネックレスを割るのに必要なのは二発。さっきのように戦闘をすれば少なからず人が寄ってくるので時間は掛けられない。一気に行く。


纏を使い木刀を両手で握りしめる。十数mある距離を一瞬で詰め一閃。背中に命中した攻撃の衝撃で相手はぐらついた。ネックレスのお陰で痛みは無いが衝撃は防がないこともさっきの戦いから分かっていた。混乱している相手に対し防御される前に胸へもう一発。パリンという甲高い音と共にネックレスが砕け散った。そして緑色の線が自分のネックレスの紐に刻まれたことを確認した僕は驚愕する相手を置き去りに、すぐさまその場を後にした。


◇◆◇


「ふぅ、これで18本か」


試験が始まって大分たった頃。そろそろ終わりの花火が上がる頃かなと思う祐人のネックレスには先ほど18本目の線が刻まれた。一人目を倒して以降、同じように隠密からの奇襲を続けていた彼は特段危険も無く順調に勝利を繋いでいた。倒した後に敵に追われることも無く、作戦は完璧と言っていいまでに出来がいい。


「本当になんなんだろう。僕の魔力は」


その理由は祐人の魔力の特性にあった。祐人は生まれたとき魔力が無いと判断された。それはちゃんとした検査の結果であり、何度やっても判定が覆ることはなかった。


しかし、祐人は魔力が扱えた。物心ついた頃から魔力があると自覚していたし、実際に力は使えている。魔法はからっきしだが魔力は使えるので魔力があるのは確かなはずが、機械にも人にもそれは感知されなかった。よって戦闘を感じ取ってその場へ行ったとしても祐人の魔力を追えずに追撃の手が来ることはなかった。もちろん、祐人が即戦闘を終わらせていることも大きな要因である。ただ、そこにその特殊性が合わさり、追えるものも追えなくなっていた。


数々の可能性を祐人は考えてきたが明確なことは分からないためどれもが憶測に過ぎない。その疑問も黎明に入れば分かるかも知れない。それが黎明受ける理由ではないが、自分の能力を知るためにもこの試験を絶対に通ってみせる。


そう意気込んでみたものの、試験は終盤も終盤。残り人数は少ないだろうし探しても見つからない可能性が高い。それに18人も倒している。トップかは分からないが他と比べれば大分多いはずだ。配点に関して説明はなかったが順位や生き残ったことによる点数追加はあるだろうし、このまま身を隠して終わるのを待ってもいい。


色々な可能性を頭の中でああだこうだ考えていると小さいが戦闘音が聞こえてきた。雷のような音に何かが爆発したような音が合わさり小さくても激しさが伺える程だった。


行かない方がいいかもしれない。しかし、ここら一帯に鳴り響くその音に興味が湧き近づいてみることにした。


近づく毎に大きくなる戦闘音。大分ドンパチやってるなあと思いながら近づき視認できる距離まで来たので身を潜めて様子を伺う。


「何よけてんのよあんた!さっさと一発食らいなさいよ!」

「いや、普通避けるだろう」

「黙りなさい!!」


驚いたことに音の中心にいたのは自分の見知った人物だった。試験前にぶつかったことで言い合ったいた……いや、どちらかというと一方的だった気がするけどとにかくあの二人組だ。女子の方は朱莉だったかな。大分頭にきているのか高火力の魔法を連発している。彼女は炎系の魔法を使うみたいだ。一方、黄色髪の厳ついヤンキー風の男子はあまり好戦的ではなく、最低限の動作で炎を避けている。彼は雷系の魔法を使っていて、手には槍を持っている。


「あ、天海くん!」

「……植木くん?」


声が聞こえたので臨戦態勢に入りながら後ろを振り向いたら、植木くんがいた。


「ごめんごめん。僕に戦う気はないよ。そっちにあるなら話は別だけど」

「いや、僕も戦う気はないよ」


今戦ったところで旨みは少ない。予想に過ぎないけど撃破ポイントより生き残った方が総合的に点数が高くなるだろうし、無理に戦う必要性は感じない。良かったと言いながら近づいてくる植木くんの紐には20本の線が刻まれていた。


「君を見つけたとき嬉しくなって声掛けちゃったよ。よく生き残ったね」

「そっちもね。凄いじゃないか20人も倒すなんて」

「僕の場合はこの試験と魔法の相性が良かったからね。ていうかそれこそ天海くんもでしょ。18人とは恐れ入ったよ」


互いに生き残ったことを喜び合う。どちらも好成績を収めたようで二人して自然と笑顔を浮かべていた。


「それはそうとあれは?」

「朱莉が突っかかったんだと思う。朱莉もそれなりに点数稼いでるはずだから、もう戦うより生き残った方がいいのは確かなんだけどね。それも分かっててさっきの腹いせに勝負を仕掛けたんじゃないかな」

「血の気が凄い……」


ぶつかっただけでここまでされるのかと戦慄しながら戦闘を見ているとその血の気の多い人物と目が合った。本日二度目のあ、やばいと思うも時既に遅し。


「あんたは……あの時私を見てた奴!」


見てただけ!僕見てただけ!!という心の中の反論も空しく、こちらに気づいた朱莉は魔法こちらにも打ち込んでくる。慌ててそれを回避した僕達はそのまま(ひら)けた場所へ出てしまった。


「……なんで隠れていることに気づけたんですか?」

「ただの勘よ」


あっけらかんと言う彼女にさすがに呆けてしまった。あの戦闘中にこちら気づくのは至難の業だと思うんだけど彼女はただの勘と言った。試験前の出来事といい視線に敏感なんだろうか。


「てか、草哉もいたのね」

「ま、まあね」

「で、あんたもやる気?」

「いや、僕は遠慮しておくよ」


そう言って植木くんは後ろへジャンプするようにして森に消えていった。


「じゃあ、あんたもあの黄色いのと一緒に倒してあ……」


朱莉がそう言い切る前に横から気配を感じて木刀を構える。カンッという木と木のぶつかり合う音が辺りに響き渡る。


「見つけた」


声の主は攻撃してきた張本人、黄色髪のヤンキー風男子のものだ。そのまま連撃に移ってくる。胴、頭、手首、そして足へのなぎ払い。どれも洗練されていて一手一手に芯が通っていた。それを祐人は的確に捌いていく。両者纏の練度も高く、必然的に高度な打ち合いになっていた。


「何無視してんのよ!」


そこへ待ったの炎が入る。それを見た二人は後ろへ飛び距離を取る。炎は二人の間を通り後ろで爆発した。そのまま三人のにらみ合いになる。


「すまんがこいつに用がある」

「奇遇ね、私もよ」


朱莉の魔法と黄色髪の男の魔法がぶつかる。煙が巻き上がり、ここら辺の視界が悪くなった。そんな中で祐人に近づいてくる影があった。咄嗟に木刀で防ぐが衝撃を抑えきれず煙の外まで吹き飛ばされた。煙から出た僕に対しなおも肉薄してきた雷使いとそのまま森の中での闘いになる。武器を扱いにくい森の中では槍より刀の方が短いので僅かに有利だ。そのまま押したいところだがなかなか踏み込めない。向こうの槍の使い方がうまいのもあるが、一番の理由は雷の魔法だ。ネックレスの効果で痺れることはないかもしれないが、使い方と威力次第では一気に結界を壊される恐れがある。あまり迂闊なことは出来ない。


そうしてなかなか決定打が生まれない中、一つ違和感が生じた。それを確認するために今までより一歩相手の懐に踏み込む。ここまで内に入ればこちらの間合いだ。迫る槍を弾いて、開いた胴体に木刀を振るう。


が、当たる直前で槍の持ち手部分を間に入れられ結界へのダメージは与えられない。ただ、一つの疑問が確信に変わった。今の攻防で互いに距離が出来たため素直に相手に聞いてみる。


「……何で魔法を使わないんですか」


そう、彼は祐人との剣戟の最中に一度も雷魔法を使っていなかった。


「雷は特性上、即効性に優れています。使用すれば今の攻防の中でも十分効果を発揮したはず。なのになんで使わなかったんですか」


実際、雷があったから懐に飛び込めなかった。あるだけで脅威の魔法だ。さっきの朱莉さんとの魔法の打ち合いから威力もしっかりあることは証明済み。ではなぜ魔法を使わないのか。


「…………」


答えない。いや、言うべきか迷っている風に見える。使いたくない理由でもあるのかなと思った祐人だが次に口から出てきた言葉は予想だにしないものだった。


「お前は……魔法が使えないだろ」


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