2話 入学試験
入学試験当日。
やや緊張した面持ちで黎明高校の校門をくぐった祐人はその規模感に圧倒されていた。
「こ、これが黎明か……」
周りの建物の規模感に圧倒されて唖然とする裕人。このような田舎者が都会を初めて見たような反応するのは何も祐人だけではない。周囲の人間も今まで見たことのない大きさの建物群に魂を吸われたように呆けてしまっていた。
「ちょっとあんたどこ見て歩いてんのよ!」
「……悪かった」
「ちゃんとこっち見て言いなさいよ!」
「だから、悪かったっつってんだろ」
「朱莉!ちょっと落ち着いて」
そんな中にも例外があるようでどこからか声が響いてきた。声のする方を見ると黄色い髪の男子と赤い髪の女子の二人が言い争いをしておりそれを仲裁しようともう一人の男子が間に入っていた。よく見ると女子のスカートが汚れていた。さっきの会話と合わせるに黄色い髪の男子が女子にぶつかったようだ。それにしても女子の圧が強い。正直自分の苦手なタイプだと祐人は思った。それと黄色髪の男子の方はどこかで見たことある気がするんだよなあ。どこだっけ?
そんなことを考えながら見ていると赤髪の女子がクワッという効果音が付きそうな振り向き方でこちらを向いてきた。
「何見てんのよあんた」
あ、やばいと思ったら時既に遅し。赤髪の女子はぐんぐんとこちらに近づいてきた。あれ、僕このまま死ぬの?このままあの人にボコボコにされちゃうの?
「わああああ!!朱莉ストップストッッッップ!!!!」
僕が覚悟を決めて初撃に備えていると、もう一人の男子がそれに待ったをかけてくる。
「朱莉!今日は受験日なんだよ?問題を起こして試験受けられなくなったらどうするのさ。それ以前に彼は関係ないだろう?試験に遅れるし早く会場に行こうよ」
そういう彼はお願いだからこれ以上はもう止めてと表情が語っていた。説得された赤髪の女子はだんだんと怒気を収めて冷静になっていく。そして僕に「勝手にこっち見ないでよね」と吐き捨てて先に行ってしまった。さっきの場所を見ると黄色髪の男子はもういなかった。以前どこかで見たような気がするのでもう一回ちゃんと見たかったんだけどなあ、なんて思ってると先ほど止めてくれた男子がこちらに向かって話しかけてきた。
「すいません。昔から朱莉は血の気が強くって。あ、朱莉というのはさっきの女子のことです」
「いえいえ、僕も不躾に見てしまったので」
「そう言ってくれるとありがたいです。朱莉とは幼馴染みなんですけど毎回手を焼いているんです」
さっきの感じから彼の悩みの種っぽいなと思っていた祐人は納得と同時に自分に近しい何かを感じた。何というか気弱な感じが自然と仲間意識を生み出していた。
「あ、そういえば名前を言ってませんでしたね。僕は植木草哉といいます」
「僕は天海祐人です」
向こうも同じことを考えているのだろうか、どちらからでもなく手を出し堅い堅い握手を交わした。
「今日の試験お互い頑張りましょう!!」
「うん!」
先ほど会ったばかりではあるが確かな友情を二人は感じていた。友情は時間だけではないことを証明するかのような出来事であった。
「草哉!何やってんの、早く行くわよ」
「おっと。じゃあ天海くんまた会場で」
朱莉に呼ばれた植木は手を振ってここを後にする。こちらも手を振り返して応えて試験前の騒動は終わったのだった。
◇◆◇
会場に着いた僕は最後の受験手続きを済ませて人型のネックレスと何か武器は使用されますかと言われたのでじゃあ木刀をと言った。ちなみに武器は全て木製であった。
会場というか今は広場にいて目の前にはどれだけ広いか検討のつかない森がある。試験が始まるまで待機しているのだが、ざっと見てこの場所には500人ぐらいが集まっている。自信に満ちた人、少々緊張している人といろんな人がいるが一貫して全員強そうだなと思った。黎明を受ける時点で実力か自信がある者達だ。黎明の名声は伊達ではない。
そんなことを考えていると前にあった壇上に上がる者がいた。集まっていた受験者達が一斉にその人物へ視線を向け静まる。
「今回の試験で試験官を担当する鵜鷹使冴だ。これから試験内容を説明する。聞き漏らさないよう注意して聞いてくれ」
そう言うのは無精髭を生やしたやる気の無さそうな男性だった。強そうかと言われるとその前に怠そうという印象が先に来る人だった。ただ、黎明の教官だけあって底には覇気が感じられる。
「試験内容は至って単純だ。先ほど渡された人形のネックレスがあるだろう?全員それを首に掛けてもらう。それには結構な魔法が込められててな、壊したら面倒だから大事に扱ってくれ。そんで全員この森に入ってもらう。ある程度時間が経ったら花火が上がるからそれまでにばらけるようにしてくれ。んで、その花火が上がったらスタートで、お前らには戦ってもらう。ここにいる全員が敵だ。試験時間は二時間。もう一回花火が上がったら終わりだ。相手を倒したかどうか判断はそのネックレスが割れたらとする。さっきも言ったがそのネックレス意外と高性能でな。使用者本人に防御結界を張ってくれる。使用者の体に沿う形で展開するぞ。で、その耐久値を削ればネックレスが壊れる。壊した本人のネックレスには撃破数が記録されるようになってるいて、倒した数だけ紐の部分に緑色の線が入る。撃破数によって試験の点数は上がるし、他にもある特定の条件で点数が入る仕組みになっている。魔法は自由に使って構わん。禁止事項としてはネックレス破壊後にその相手への攻撃禁止。スタート時に狙い撃ち禁止。これをしようとするといつまで経っても試験が開始しないようになっている。ざっとこんなもんかね。質問がある者は?」
一通り説明し終わった鵜鷹は全体を見回す。そこで一人が手を挙げて、鵜鷹が質問を促す。
「配点に関してはご説明いただけないのでしょうか」
「配点に関しては説明を行っていない。相手を倒せば点が入ることまでは伝えるがそれ以外にどういう行動が点に繋がるかのは答えられない。他に質問者はいるか?」
もう一度周りを見渡すが今度は誰も手を挙げない。
「よし、それじゃあ各自森に入ってくれ。森で迷子になるなよ。迎えに行くのが面倒だからな」
後ろ向きに手をひらひらさせながら去って行く試験官。その姿を最後の一言が余計だなんて思いながら見た僕は、どれだけ広いか知れない森へと入るのだった。
◇◆◇
黎明高校のとある部屋。
「いやー、今年の受験生は優秀ですねー」
「ええ、学校始まって以来の豊作ではないでしょうか」
この部屋にいる7人は思い思いの生徒資料を片手に今年の質の異常さを語る。
「天帝に氷王の子、果てには救世主と同じ魔法だ」
「全員が同じ年ってのも何か運命を感じますよね」
「やっぱり同じクラスにするべきでしょうか」
「この子達の面倒を見れるとすれば……」
「まあ校長か鵜鷹だろうな。鵜鷹に関しちゃ癪だが」
「皆さんそろそろ試験が始まります」
そこで皆が手を止めモニターへ意識を向ける。
「この試験の注目生徒は?」
「火野宮朱莉、植木草哉、迅雷司辺りでしょうか」
「なんでしょう、全部予選なのに決勝になってるようなこの異常事態は」
その言葉に全員が苦笑する。それだけ今期の質はおかしい。
「ああ、そういえば魔法も魔力もない子がいましたね」
「そういえばいたな、そんな奴。魔法はともかく魔力もないんじゃ試験にならないんじゃないか?」
「魔法はまだしも魔力がないんじゃなぁ。今時珍しいよね。もう彼だけなんじゃない?」
「本当に魔力は無かったんでしょうか」
「そうらしいですよ。どちらにしろ見れば分かるのではないでしょうか」
ここで花火が辺りに音を響かせながら打ち上がった。試験の開始を告げる花火だ。
「うふふ、どうなるのか楽しみね」
そんな中で一人の魔女が笑った。