夕闇のまぼろし
夏の座敷には向日葵が似合うから
そっと静かな季節を置いておきます
向日葵が泣きださない様に
懐かし町の灯りが灯っている
今朝は雨だから道行く人が
迷い子になりませんように
迷路だらけの人生を
縫うように歩いていく人々の
肩のあたりに蝋燭を置いて
ただただ雨の経典を
南無南無しておきます
真昼の月に照らされると
膝の成長痛が痛かった
踝を撫でているとじっと
何かに見つめられる気配がする
宿場町では不思議な事が起こる
皮膚に鱗が生えてきて
しきりに水を欲しがった
その娘はやがて姿をくらまし
近くの池で濡れた学生服が見つかった
静かな町では影は濃く
逢魔が刻には蝙蝠が舞う
夜行列車で赤い夢を見る
遠い故郷で墓石に赤い糸を巻きつけていた
宿に着いてからお湯に浸かっていると
桜の枝に赤い紐を巻きつける夢を見た
ふと、両手のてのひらは血まみれなのだ
そして目の前に娘が倒れていた
何処からか笛の音で
通りゃんせの音色がして
黒い影が彼岸参りをせよと
耳元で囁くのだ
何気ない日常に
秋刀魚の香りが何処からか
今日の夕飯は焼き魚か
銀河に捨てた古い靴は
何故か仏壇の奥の方で
うつうつと眠っている
どうしてたましひの形は
太鼓のようなまんまるではなく
ちょっと歪なおたまじゃくしのような形
庭の櫻の枝に老人が座っていて
櫻は満開だ
枕に耳を当てると
遠い潮騒
夏祭りの火照りはだいぶ落ち着いた
帰ってきて横になると
天井に燈篭の灯りが万華鏡のように映しだされて
不意に背中に銀河を感じて
孤独に背骨が軋んだ
僕もあの子も此の世の歯車でしかないんだ
絶望と混沌が脳味噌を掻きまわして
たったひとりなんだと
あの神社の狐の子も
赤い血が流れているのかな
夢の在り処は風の吹く町
旅人のコートの中には銀河が入ってゐて
ふとした瞬間道端に星屑を落としてしまう
荒れ野に立つ僕は切ない季節になった秋を
だいぶ悲しんでいて
夕陽の入った提灯を大事に抱えてる
お祭りの提灯の中には
死んだ人のたましひが入ってゐるんだよ
夕闇に揺れて綺麗だな
光の経典
影を求めて旅に出る
夏はまだ何処かに隠れているかなと
宿場町の片隅にまだ夏は居た
小さな駄菓子屋さんのお菓子の中に
夏は寝ぼけまなこで飴玉を欲しがっている
小さな子供の様な夏
これがおおきな入道雲になるのか
稲妻鋭し夕立に
とりあえず夏を買った
200円だった
静かな宿場町の静かな物語
闇はうつつを映す鏡
宿場町の黄昏時にはあちこちで
回文怪人がひらりひらりと夕闇を跋扈して
此の世がはらりはらりと夕闇の花を
散らしてもまた闇の中
真っ赤な背表紙の本も逢魔が時に
宿場町の片隅で少女を傷つけても
そっと涙を拭いて道を渡りましょう
影の深い場所には穴が開いているから気をつけて
雨のそぼ降る梅雨の入口は
夏の隧道みたいに湿気ってる
蕎麦殻の枕にしてからというもの
急に路地裏を散歩する夢ばかり
何かの謎かけなのかもね
今日も雨
雨に打たれて家に帰る
傘は左腕に引っ掛かったまま
紫陽花が用意されていた
夢だったのかもしれない
てるてる坊主もそろそろ
風鈴に変えようか
宿場町の秋はひとけない影ばかりの國
闇は家の中の至る所にたましひを喰らおうと
古き家は懐かしいゆめ
だから布団の中には優しい影が丸くなって
押入れの中は覗いては駄目
大きくなった闇が夕餉の味噌汁を頂こうと
星々が空から堕ちてきて金平糖のガラス瓶に混ざりこむ
月は静かにご飯をよそっている
涼し気な山の夏の日の事だった
古き寺町はほとんどが店を閉め
閑散とした景色の中に
荘厳なお寺と羅漢様の仏像達
ここに来ては私は口をつぐむ
到底、仏様に顔向けできない詩ばかり
性根を入れ替えてこれからは
真面目に清らかな心で
そう緑の風のように
すうっと背中の影は
消えた気がした
私は闇だの業だの青臭く
いつか煩悩を捨てなければならない
川は清らかにして風光明媚
心洗われる青空は眩しい夏に囲まれて
久遠の刻を感じる瓦屋根
闇の中にはもしかしたら仏が居るのやもしれぬ
現世で燃えさかる炎の如く罰ばかりする私を
叱って仏の功徳を滔々と説法させれる
此の世は何処迄も修行
灯りとは魔物だ誘蛾灯に虫が引き寄せられる
暗闇の中でしか語れない手紙の内容がある禁忌の便り
枕の下に闇は潜んでいる其処が地獄である証拠
櫻は夢幻、薄紅色の粉雪がまた前世の夢を見せる
夜には夏という業がアルバムの中でごとごとと言って
逃げ出さなくては此の世には慈しみという極楽があるから
夏のため息は街角に星屑になって隠れてる
お風呂場では昔の人の鼻歌が今日も聞こえる空耳として
懐かしい通り道に夏は居候、夜の外灯見上げて
誰かが気が付いてくれるのとじっと待っている
古町迷宮、旅人の足音だけが通りにこだまして
寂しい晩秋に永遠は答えてくれるだろうか
夢はまぼろし
冬に夏の夢をみる午後十時の常夜灯ただ孤独だけが膨らむ
悲しみも苦しみも夏が連れてった蝉の抜け殻だけが抽斗の奥で泣いて
理科室の人体模型は冬の空気に慄きながら夏の夢を見て
洗面台で亡くした薬指が今日も懐かしい想い出を探して本棚の前に堕ちている
夏に亡くした心も勇気もあの季節は戻らない
眠る磯の貝の中で宇宙は小さな銀河を作っている可視化の世界
宿場町は眠りながら夜行列車の足音を耳を澄ませて
夜という生き物は伸縮自由で枕の隣で百面相をしているらしい
旅人は銀河を抱いたままのコートを壁にお湯に溶けている午後十時
夜の古町に星々は瞬き人間たちが暗闇に怯えない様に
懐かしい町に行くと次第に眠くなってくる母の子宮
冬のお化けは大体街灯の下で震えてるから毛布を
夏は終わらないから旅に出る夜行列車は星々を乗せて
風は吹く秋の空は裏切りと失意を混ざり合わせて嵐となる
嵐が起きると何かが起こる大体物語はいつもそういう展開
掌に陽だまりをのせて君を抱くよ
まるで呪いの様に金木犀は美しく咲く
ゆめまぼろしとしての財布お守りは櫻のはなびら
冬に咲く花は残念ながらありませんと店員はにこやかに
地球儀に日本は赤く塗りつぶされていて呪われし國
街灯は寂しい道端に白い交流電流の花を咲かせる
夜鳴く虫の音色も少なくなってきてたましひが泣いている
畳の隅にも風が吹く
夕べの味噌汁はそういえば妙な味がした
仏壇には線香の香りと金木犀の香りが混ざり合い
確かに彼岸への道しるべかと
お風呂場で眠っていた月にお湯をかけてやると
裏の枯れ井戸を見てご覧と言われて
井戸を覗き込むとぎっしりと蛍石が敷き詰められ
洗面所で堕とした指に
魔術を
あの神社には夕方頃に
見知らぬ少年が遊んでいる
ちりんと鈴の音が何処からか
秋が更けて祭りは終わって
雨の中に黒い影が混ざったら
後ろを振り返ってはならない
夢とまぼろしが交差する逢魔が時
秋赤音は何処へ行ったのだろう
夜の虫も鳴き声が静かだ
やがて木々は枯れてゆき
深淵へと心の旅へ
ぼんやりと雨の町並みを見つめてる
水に濡れる町は美しい
直線と灰色に満たされるその佇まい
秋が深まって景色はもうろうと昏い
夏のお祭りは去って
秋の雨が私を苦しめる
明日は晴れてほしい
いつまでも夏を語る人
春の櫻に惑う人
そんな幸せな刻が
しずかに冬に
死んでゆく神経
それでは
葬式を
冬に向かうにつれて
神経が死んでゆく
気持ちが駄目になってゆく
筆はもう持てないかもしれない
悲しみの淵に
昔町の町並みは寄り添って
夜も灯りが心穏やかに
雨降りも余裕のある時だけ
読書の気分に…
そんなときもありますが
秋の雨は苦手です
秋雨前線
好きじゃないし
櫻が見たくて
仕方ありません
選ばれなかった子たちは
何処へ行けというの
この手はもう凡てを
失ったと云うのに
秋の雨は芯の底まで
冷やしてもう何も描けない
あなたのせいです
あなたの絵見るんじゃなかった
その破壊力
苦手です
昔何処かで見ましたから
繰り返す悪夢
見事に負けなんです
ひそやかに左手の
葬式は執り行われる
雨は悲しい人の上にも
降り続けます
町は哀しみに包まれている
そんな気がしたんだ
自分勝手なエゴと深層心理のイドは
互いに手をとりあって
雨の中錆びたはさみを掴んでいます
ふでばこの中身は小さな鉛筆がいて
怖がるように震えています
大丈夫、はさみは錆びていて
使い物にならないから
秋の唄
秋の雨が降ります
心にも雨が降ります
誰かさよならと小さくこぼして
何もなかったように去って行く
その背中に贈る言葉などなく
ましてや祝福できる訳もなく
ただただ雨に降られて
宿場町しか残ってません
だいぶ前の話かもしれません
地球は聞いているでしょうか
あの満月は雲の上で
小さくため息を
あの町に風が吹いている
雨に打たれている友達よ
声のしている方へ行け
風の吹く町へ
旅人がお湯に溶けている頃
夜の帳はあなたを
優しく包んでくれる
映画館を出た後は
テールランプばかりの町を
誰も知らない子供のように
独りぼっちで花火をしよう
影はじっと見つめてくれる
その無垢な眼差しで
何処にも逃げ場がない人に
小さな港町は待っている
風に吹かれて旅人も
遠くの海の見える町で
人を想って歩いている
燐寸は煙草を線香花火の様に
夏は凡てを許すから
そっと待ちましょう冬の訪れを
また来る来年の夏に
上手に手を振って
また泣きださないように
今日は仏壇に雨を咲かせようと
窓を開け
青い夏海の様に
いらかは燕の家を守る
人の心も守る
還ってくる場所は此処だよと
笑う青空ささやかに
遠い景色には夏がよく似合う
涙ひとつ宿場町の片隅に
ビオトープの金魚に
涙ふたつ
私の悲しみ知っておくれと
美しい宿場町の片隅に
影はひっそりと眠る秋にも
風は宿場町を赤子の様に
あやします
夏の座敷には向日葵が似合うから
そっと静かな季節を置いておきます
向日葵が泣きださない様に
懐かし町の灯りが灯っている
今朝は雨だから道行く人が
迷い子になりませんように
迷路だらけの人生を
縫うように歩いていく人々の
肩のあたりに蝋燭を置いて
ただただ雨の経典を
南無南無しておきます
透明な子らは不思議の階段を上がって鬼にも狐にもなれる
町は曇り空でどよどよと気分の上がらない午後二時の緑茶は渋い味
曇り空は頭に靄がかかったみたいに思考停止のまま歩道を渡る
赤信号は踏切に近いとおりゃんせは流れぬものの不吉な香りのする
青信号に青空を灯して、あの青には夏が紛れ込んでいる
前世の記憶では確かに此処に夢が在ったらしい箱庭
硝子の瓶に夕べを閉まって置けるか部屋の隅は煌々と
柑橘系の香り漂う同僚はオレンジ色の夕焼けの唇の色
夏は終わらない心の中は永遠に夏模様
古い町並みの神社には妖しい影が幾つも闇に溶け
仕事帰りは夕闇の町並みに溶けてゆく大人の群れ
秋の訪問は喪服の闇だった
仏壇の前で線香を上げた闇は
私に小さな匣を残して消えた
匣の中には朝顔の剥製
彼岸からの呼び声が
聞こえるようになって
耳を塞ぐと潮騒の音
朝顔の剥製は脆く
触れると粉になって消えて
なんだか悲しくて
その日は寝付けなかった
綺麗な物ばかりを集めると
人は儚くなる
まるで呪いの様に金木犀は美しく咲く
ゆめまぼろしとしての財布お守りは櫻のはなびら
冬に咲く花は残念ながらありませんと店員はにこやかに
地球儀に日本は赤く塗りつぶされていて呪われし國
街灯は寂しい道端に白い交流電流の花を咲かせる
夜鳴く虫の音色も少なくなってきてたましひが泣いている