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ロードオブロードロウドウ  作者: 昼ヶS


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第十五話

 幸いな事に、魔物にも盗賊にも会わず、アオイ達は陽が落ちる前にイルナ川のほとりに着いた。

 濁流と呼べる程の勢いと、濁りのある大河がアオイの前で流れ続けている。テクトが言うにはここの川幅は一ミイル程だという。対岸が遠くに見えた。

「なんだか濁ってない?あたしが前に見た時はもっと綺麗だったわよ」

「どうやら上流で雨が降っているようだね。この様子だと今日は休みかな?」

 テクトが川を見回した。アオイもそれに習い、周囲を見た。

 まず目につくのは、石橋。と言っても桟橋の様に川岸から少し突き出た程度でしかない。はね橋の様な物もその先端にはあるが、それもかなり短い。対岸にも同じものがあるが、それらで川の向こうまで渡るのは絶対に無理だった。

 その次に、石柱。その石橋よりも上流部分にあり、川の中に等間隔に建てられている。それ以上の事は分からなかった。

 最後に、船。沿岸部にずらりと並べられた大量の船。それらが三隻ごとに固定されており、その固定部の上にはまるで橋の桁のようなものが据え付けられている。

 橋の補修現場だというのに、川を跨る建造物はどこにもなかった。

「……うん。いないようだね。とりあえず宿を取ろうか」

 テクトにそう言われ、橋からやや下流にある村に行く事になった。その村は橋が出来る前は渡し舟を出すのを生業としていたらしい。それならば、橋が出来てから寂れてしまったのではないかとアオイは思ったが、村に着くとその推測が外れていた事が分かった。アマラ達がいる村よりもその規模は大きく、それに見合う賑わいを見せていた。

「人の往来が増えた分、渡し船を出していた時よりも、潤っているんだよね。この村」

 街道がそばを通るかどうかでその村の明暗が分かれる。人や物がより多く訪れればそれだけ村に物や金が入る事になり、逆に街道が遠くの方に通れば減り、それだけ村は貧しくなっていく。そのため、村を訪れた局員に対して過剰な接待が行われる事は多々あり、ひどい時には脅迫すら行われる事があるのだという。アオイと初めて出会った時に商人らしき格好をしていたのは公正さと身の安全の為だった、とテクトは聞いてもいないのに話した。

 橋が補修作業に入っている為渡れないからか、多くの旅人らしき格好をした者や、商人達の物らしき荷車を村のあちこちで見かけた。

 広場では、暇と商品を金に換えようとしているのか、勤勉、あるいは欲深いと言ってもいいであろう商人達が簡易的な露店を開いている。それによって、一時的なものとはいえ、王都の市場に勝るとも劣らない熱気が出来上がっていた。

 宿は何処も満室だった。足止めを食らっている者達の他に、補修作業に来た人員も多くいるらしく、こうなるのも無理はなかった。

「しょうがない。詰所に泊まろう」

 アオイ達は村を出て、上流へと向かった。そこには人間の作業員の休憩場所と巨人族用の宿泊小屋があるらしい。そんな事をテクトから聞かされていると、その宿泊小屋らしき大きな屋根が見えてきた。

 太陽がその姿を殆ど地上から隠そうという頃に、詰所に着いた。巨人族用の巨大な宿泊小屋が幾つかあり、そこから少し離れたところに人間用らしき小屋が幾つか見える。それらの内の一つ、責任者のいるらしい、他のよりもやや大きい小屋のそばに荷車を止めさせると、テクトは中へと入って行った。アオイも中へと入って行こうとしたが、入るのを躊躇している様なメンが気になった。 

「どうかしたの?」

 誰かが余程大きな声で話しているらしく小屋の中から声が聞こえてくる。

「実は……」

 その漏れ出てくる声よりも、小さな声量でメンが話すには、どうやらここの責任者である『クレン』という者が苦手なようだった。

「大丈夫!もし何かあったら、あたしが助けてあげるから。安心して」

 酒場で酔っ払いに絡まれている女性を助けた事は何度もある。ましてや素面の相手なら造作もない。アオイはそう自負している。

「……どうして入ってこないの?何かあった?」

 中々入ってこない二人を心配してか、テクトが小屋から出てきた。

「それがね。メンちゃんが『クレン』って人が苦手らしくて……」

「あー……」

 テクトは思い当たる節があるようだった。アオイがそれを尋ねようとした時、中から大きな人影が出てきた。その大きな人影はメンに近づき、彼女の両手を取って挨拶した。

「メンさん!お久しぶりです!」

 その大きな声量と馴れ馴れしい行動から、この大きな人影が、小屋の中で喋っていた声の主であり、そしてクレンであるという事が一発で分かった。

「お変わりありませんか!?旅はどうでしたか!?ここに来るまでに魔物に襲われませんでしたか!?そういえば五十三号線の半ミイル標の打ち込みを終えたようですね1?」

 クレンは次々とメンに喋りかけていく。その声の大きさと淀み無くしゃべる様から、アオイはイルナ川を連想した。

「……大きいけど、あの人もただの大きい人間?」

 傍らにいたテクトにそうアオイは尋ねた。メンを基準に考えると恐らく三パッス程はあるだろう。その間にもクレンの大きな声は絶える事なく辺りに響いていた。

「ただの小さな巨人だよ。……ただのってわけでも無いか。有力部族の首長の息子だしね」

 種族が同じだったとしても、全員が同じ共同体に属すとは限らない。部族と呼ばれる共同体を作ってそれぞれ生活していることの方が多い。寧ろ全員が王国という一つの共同体に属している人間の方が少数派だろう。

 アオイは暗闇ながらメンの顔がこちらを向いていると気づいた。きっと助けを求めているのだろう。

 アオイはクレンを引き離す為、近づいて声を掛けた。しかし、掛けた声は大河の様なクレンの喋りに飲み込まれ、流されるように消えていった。アオイでこれならメンの声が届く事はまずありえないだろう。

 声が届かないなら仕方ないとアオイは二人の間に割って入った。引き締まった重たい肉の壁に挟まれながら、全力を込めて押しのけようとする。アオイの力では肉の壁を動かすことは出来なかったが、そうする事によってようやくクレンがアオイの存在に気づいた。ようやく、辺りに静寂が満ちた。

「――静かに聞いて」

 再びクレンが喋りだす前に、アオイは機先を制した。その低く鋭い声に、クレンは黙って頷いた。

「まず手を放して」

 そう言われクレンはメンの手を離した。その直後、アオイは背中に圧力を感じた。解放されたメンが後ろに隠れようとしているのだろう。

「あたしはアオイ。職業は吟遊詩人……だけど、今はあんたの上司に一時的に雇われているの。今晩私達が泊まれそうな小屋は何処?」

 相手に喋るきっかけを与えないように、アオイは必要な事を全部話した。アオイのそんな思惑通りに、クレンは無言で小屋をその太い指で指差した。

 アオイはメンを連れてその小屋へと移動した。一刻でも早くこの場から離れようとするメンに半ば引き摺られるようにして。


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