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ロードオブロードロウドウ  作者: 昼ヶS


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第十二話

 次の日、アオイのささやかな望みは、街道を進み始めてすぐの所で潰えた。

「そこを右に曲がってね」

 テクトが、街道を曲がり間道に入るようアオイに指示した。その言葉にアオイは絶望した。よくよく思い返せば、メンは街道を進んだ先に村があると言っただけで、実際にそこを通るかはテクト次第である。自分が勝手に期待しただけだった。

 アオイは気落ちしながら荷車を牽いた。土の路面は丁度、車輪が通るところに大小さまざまな窪みがあり、そこにはまらないように力を込めて引くたび、舗装された街道の有難みが身に染みる。

「何で……こっちを……通る……のよ」

 息を切らしながら、テクトに問う。多少遠回りであったとしても、街道を通った方が早いし安全なはずだ。しかも、路面が昨日の雨によってぬかるんでおり、足が滑る。余程の理由が無い限りは通る者はいないだろう。

「それはね。この間道には測量しきれていない部分があるからなんだ」

 アオイはこの荷車に測量用の機材が載せられている事を思い出した。初めて出会った時にもそれはあった。

「もし……かして……会った時に……間道を……通ってたのも……測量……するため……?」

「ううん。あの時には既に測量は終わっていて、最終確認のために歩いてたんだよね」

 何の最終確認かと聞けば、着工する前の最終確認らしい。あそこの間道は数年前から街道として生まれ変わる事が決定されていて、ゴブリン族達に落とされた、あの間道の規模に対していささか立派すぎる橋も、後の街道化に先立って架けられた物らしかった。

「あいつらのせいで計画は暫く延期になったけどね……」

 テクトの顔は後ろにあるので見えないが、怒っているのは声色で分かった。

 暫く会話の無いまま、黙々と間道を進んでいく。時たま大きな窪みに嵌るも、後ろからの強烈な押しによって難なく抜け出せた。メンに今度何かを奢らなければ、とアオイは思った。

 悪路に悪戦苦闘しながら、これで何個目かという小さな窪みを乗り越えて荷車が激しく揺れたところで、テクトは思い出したようにアオイに尋ねた。

「そういえば君って『統一度量衡』って知ってる?」

 そのようなものが制定された事は聞いた事はあるが、大衆には浸透していない。詳しくは知らないと答えるとテクトは聞いてもいないのに話し出した。

 『統一度量衡』とは、統一法制定時に、各地でばらばらの長さや重さなどの単位を一つの基準を基に定めたものである。街道保安局や各地の公的な機関はこの単位を使用しており、その基準は不公平の無いように、テクトの父が新しく決めた。

 長さの単位はパッス(メートル)であり、これを百分の一に割ったのがペース(センチメートル)、千倍したのがミイル(キロメートル)である。

 重さはリブロ(キログラム)を基準にし、それの千分の一がスリプルム(グラム)であり、千倍したのがクレウス(トン)である。

「……何か中途半端ね。何を基準にしたのよ?」

 アオイの住んでいた地域の単位からしてみればひどく中途半端なものであった。

「確か……長さは当時使っていた杖の長さで、重さは晩御飯のステーキだったかな?」

「……そんなのが私達の生活の基準になるのね……。というかステーキ大きすぎでしょ……」

 そんなものを自分に教えてどうするのだろうとアオイが思っていると、テクトが荷車を止めるよう指示してきた。何かを降ろす為か荷台に引っ込みながらテクトは言った。

「実は君に測量を手伝ってもらおうと思ってね。そのために最低限知っておいて欲しかったんだ」

 アオイはそう言われ、自分でもしたと分かるぐらい露骨に渋い顔をした。今の日給は宿代が出るとはいえ並の肉体労働より安い。その上、更に仕事を与えられるのはどう考えても割に合わなかった。

「手伝ってくれるなら追加で三枚。どう?」

 荷台の中からそんな声が聞こえて来るまでは。

「勿論宿代はついたままよね!?」

 新たに提示された労働条件を確認しつつ、アオイは荷下ろしを手伝おうと荷車に上がろうとした。しかし、テクトが降ろそうとしたのは軽易に持ち運べる物だったらしく、上がりきる前に中から出てきた。

「はいこれ」

 アオイは木の棒のようなものを渡された。見ると等間隔で線が刻まれており、両端が鉄で補強されていた。 

「それは『尺杖』全長は一パッスで、刻まれている目盛り一つずつが一ペースだよ」

 直に見てようやく長さのイメージが分かった。試しにアオイが自分の身長を計ってみると一パッス六十ペースぐらいだった。それを基準に考えるとテクトは一パッス五十五ペースでメンは二パッス四十ペースぐらいであろう。数字にすると改めてメンの大きさが感じられた。

 仕事の内容は、一定の距離ごとに道沿いに、杭のような標識『標杭』を打ち込むのを手伝うというものだった。五百パッスごとで打ち込んでいくため『半ミイル標』とも呼ばれているらしい。その半ミイル標らしき、ぽつんと立っている杭を見ながらテクトはそう言った。その杭には番号と街道からの距離が刻まれていた。テクトはその刻まれた数字を手元の書類と照らし合わせるように見比べると、

「ここからだね」

 と言った。

 何故分かったのかアオイが尋ねると、テクトは手に持っていた書類を見せてきた。開かれたその書類の下の方には先程見ていた、杭に刻まれていた番号と同じものが書かれており、その横には素人が見ても良く分からない単語や、数字の羅列が書きこまれている。アオイがその書類の表紙を見ると『間道五十三号線』と書かれていた。さっき見ていたページに戻り、次のページをめくると真っ白で何も書かれていなかった。アオイはそれで、ここが今まで打ち込んできた半ミイル標の終点であるという事だけは分かった。

「早速だけど、これ持って」

 アオイはテクトから糸巻を渡された。巻かれた白い糸には印の為か所々着色がされている。糸の全長は丁度五十パッスあるとテクトは言った。アオイが自分は具体的に何をすればいいのか聞くと、どうやらこれを持って道を歩くらしい。

「なるべく道の真ん中を通って。後、糸を張らないように気を付けて」

 先に手本を見せると、テクトはアオイを半ミイル標の隣に立たせ、自分がさっき言った注意事項を守りながら糸を限界まで引っ張って行った。

「これを十回繰り返した位置に標を立てるんだ!」

 丁度五十パッス離れたところからテクトがそう言った。

 それから尺取り虫の様に五十パッスごとに進んでいき、五百パッスの地点に来るとメンが標杭と大きなハンマーを持ってやってきた。

「ここですか……?」

 頷くとメンはアオイの横の道端に標杭を一撃で打ち込んだ。その後、番号と距離を刻み、これで一つの半ミイル標を設ける事が出来た。後はこれを繰り返していき道の終端まで行くのだろう。

 休憩に入ると聞いてもいないのにも関わらず、テクトはこの半ミイル標の意義を話してきた。それによると、通行人の道標になったり、もし、この道を街道にするとなった時に行われる、本格的な調査の簡易な基準になるらしい。

「歩測で測ればもっと早くに出来るんだけど……。僕は……父さん程には正確には測れないから……」

 勝手に自己嫌悪に陥っていくテクトを、アオイが立ち直らせるまで作業は再開されなかった。

 

 間道を抜けると、再び街道に出た。街道沿いは既に調査が終わっているらしく、ただ移動するだけだった。三日ぶりの、窪みもなく滑にくい路面に軽く感動しながら、アオイは荷車を牽いた。

「この街道を進んでいくと確か村があったよ」 

 そんな耳よりな情報を再び聞き、意気揚々としながら街道を進んでいく。四日ぶりの人里で何を食べようか、そもそも何があるのだろうかと思案しているうちに、前方に、街道から外れて横転した荷車が見えた。

「……止めて」 

 後ろから聞こえて来るその声色から、ただ事ではないとアオイは悟った。アオイはすぐさま荷車を止めた。

 後方にいたメンもこの状況に気づいたようで、杭打ちに使っていた鋼鉄製の大きなハンマーを持ってやって来た。

「魔物ですか……?」

「それか盗賊かもね」

 戦いの経験の無いアオイには、二人の冷静さが不気味に感じられる。

「ちょっと見て来るよ」

 剣を握りしめながら、テクトは倒れた荷車の元へ忍び寄っていった。荷車の様子を見て安全を確認した後、近くに来るようアオイ達に合図した。

 駆けつけてから車内を見ると、中は酷く荒らされていた。被害者の姿は見えなかったが、車内につけられた小さな爪痕のような傷と、染みついた血痕がここで起きた惨状を物語っていた。

 この世界に、真の平和が訪れるのはまだ当分先なのだとアオイは思わされた。

「爪痕と……金品が残されている事から恐らく魔物の仕業だろうね」

 落ちていた、銀で出来たネックレスを拾い上げながら、テクトはそう言った。

 魔人と違い、魔物は獣と変わらない。彼らをこの世に産みだした魔王に使役されなくなってから数十年が経っているが、その繁殖力と適応力で各地に生息し続け、今もその本能のままに、人間や魔人を襲い続けていた。

 何か身元を判明するものが無いかと三人は車内を探しだした。探し始めると、すぐ荷車の主が受取人であろう手紙が幾つも発見された。個人の尊厳を守るために中身は見なかったが、表に書かれていた差出人は全て同じであり、テクトが言うにはどうやらこの先にある村の住所から送られた物のようだった。

 このまま貴重品を捨て置いて邪な者達に取られるのも忍びないので、それらを集めて、その何度も手紙をやり取りするほど親しい人に渡してあげたいとアオイは思った。その考えを二人に言うと、二人とも同じだったらしく快く了承してくれた。 

 銀で出来たネックレスに、大きな財布とそれを満たす中身。そして大量の手紙を袋に入れ、一行は先を急いだ。

 














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