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ある日の午後

作者: 泉水立夏

乱雑とした部屋で雑然とした生活を送る女のもとへ、突然男が現れる。

玄関で立ち尽くす男に女はお茶を勧めるが、果たしてふたりの関係は――?

「もう、びっくりさせないでよ!」


扉が開く音から一拍遅れて、女は肩をびくりと震わせ、さらに一拍開けてからゆっくりとこちらを振り返る。


扉を背にした男は、大股で部屋に進み入る。扉の隙間から僅かに差し込む光が、脇に丁寧に並べられた色とりどりのハイヒールを照らしていた。


険しい顔つきのその男は拳をきゅっと握りしめ、玄関から一歩踏み出したところで立ち止まると、まっすぐ女を見据えた。


「ね?私がビビリなのは知ってるでしょ」


女は下着姿だった。空き巣でも入ったのかというほどに着替えや本やらが乱雑に散らかった部屋に、手入れの行き届いていない髪。染めているわけでもない黒髪なのに毛先は少し茶色がかっていた。あられもない姿のまますくと立ち上がると、女は小棚に向かって歩き出す。


「なんか飲む?あ、こないだ買ったお湯注ぐだけのキャラメルティーがすごくおいしくてね。おいしすぎて1日で6杯も飲んじゃった。まだあるから一緒に飲も」


やはり散らかった棚に置かれた、ラタン風の編みかごを片手に持ち、もう片方の手で中をかき回す。


「あっれー、最後の1袋じゃん。どうしようかな……まぁ、私はもうたくさん飲んだし、今回は譲ってあげるよ」


よくしゃべる女はそう言うと、洗い置き場にあったクマの顔が大きく描かれたマグカップをポットのそばに置く。そうして今度は食器棚の最上段をごそごそと探り、奥の方から犬の顔が大きく描かれたマグカップを取り出す。さっと水道でゆすぐと、かけてあったリネンのタオルでこれまた乱雑にざっと拭く。


男はその様子をじっと見ながら、微動だにせず立ち尽くしている。


女は小袋を開け、手際よく中身をさらさらと注ぎ、お湯を注ぎ、ティースプーンでかき混ぜる。キャラメル色の水滴がついたティースプーンを口に含むと、「あちっ」と小さく声を出し、「でもおいしい」と続けた。


冷凍庫を開け、小さめの氷をひとつずつマグカップに入れると、両手にマグカップを手に持ち、小さなティーテーブルに運んだ。少し色あせた青が基調のクッションは彼女の定位置だった。


「ほら、座りなよ」


男は片膝をピクリと動かした。躊躇っているようだった。

ふたりの間に妙な沈黙が流れる。


女はティースプーンでくるくると氷を溶かす。薄くなった氷は透明さを増し、穴が開いていた。


「君は悪くないよ」


それまでマグカップに目を落としていた女は、そう言うと、まっすぐな目で男を見た。女は均整の取れた顔立ちで、少し小さめの黒目が印象的だった。目と鼻の間に広がるそばかすは、花びらを持たない花畑のようだった。


男はなおも硬直していた。左手にはじわじわと汗が広がる。男は手の中のそれが滑り落ちないよう、指に力を込めた。


女は視線を上げ、再び男の目をじっと見据える。女は先ほどよりも、心なしかやわらかな表情を浮かべていた。


「君は、悪くないから」


響くような優し気な声音に、氷の割れる高音が重なる。


「いいから、おいで」


男は崩れるように女のもとに駆け寄った。薄い床に響く足音、化繊の衣服が奏でるパサパサという擦れる音、金属音。女の前にへたり込む男を、女は少し上目遣いでじっと見据える。


「ほら、飲んで」


目の前に差し出されたカップ。クマがが大きく微笑みかけてくる。

中には緑の液体が泡立っていた。


「やっぱり、キャラメルはもらうね。抹茶あげる」


女は茶目っ気あふれる仕草で肩をすくめると、くすりと笑った。

それにつられて、男もそっと頬を緩める。


心地よい乾いた秋の風が、少しだけ開いた窓から入ってくる。風はカーテンを揺らし、女の毛先を揺らし、男のレインコートのフードを揺らした。

さくっとふわっとえび天のように小説書いてます。


ちょっぴり興味があって始めてみましたのでお見苦しいのはお許しください♪


完成品2作目ですー

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