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9 最初の一歩


 自分が抱いていた夢を自覚してから数日。

 目的のないやり過ごすだけの日々に方向性が産まれていた。

 どうすれば鍛冶師になれるのか。

 最近はそのことばかりを考えている。

 鍛冶師と一口に言っても色々な形態があるもの。

 依頼を受けて武器を製造する従来通りの鍛冶師がいれば、冒険者と共にダンジョンへと赴き、破損した武器の修繕を専門とする鍛冶師もいる。

 ウェポンビーストという特異な要素を十全に生かすにはどうすべきか。

 今日もそんなことを頭の片隅で考えているといつの間にか昼休みがやってきていた。


「見て見て! うちの子、めっちゃ可愛いの! 背中の剣を磨いてあげると気持ちよさそうにしてさ! この前取った鉱石もがじがじ食べてたしもう堪らないよ!」

「うん、知ってる。俺が教えたことだし」


 ファラの里親になった真導はこのところ毎日この様子でファラの近況を報告してくれる。

 親としてはありがたい限りだけど、日に日に様子が可笑しくなる真導に言い知れぬ危機感を覚えて始めていた。

 どこかで歯止めが利いてくれるといいんだけど。


「あーもう食べちゃいたいくらい愛しいよぉ」

「口の中がズタズタになれば正気に戻れるんじゃないか?」


 とはいえ、それだけファラを愛してくれているということ。

 あの時、ファラの意思を尊重して真導を里親に選らんだことは間違いじゃなかった。

 きっと幸せだ。


「あ、そうだ。百瀬くんにまだまだファラちゃんのこと聞きたいんだけど。放課後空いてる?」

「今じゃダメなのか?」

「実践して色々と見せて欲しいの。だから今度うちに来て欲しいんだけど」

「……真導の家に?」

「それ以外にある?」

「いや、思い当たらないけど」


 しかし、真導の家か。


「あ、もしかして女の子の家にいくの初めてとか? かーわいい」

「残念、行ったことくらいある」

「ありゃ、そうなんだ。それにしては口ごもってたけど」

「随分と昔のことだから、それはそれとして緊張するんだよ」

「緊張してる百瀬くん、初々しくてかーわいい」

「からかうな」

「あははっ」


 真導から視線を逸らしつつ総菜パンを口に運ぶ。


「というか、ファラはもう真導の家にいるんだし、俺たちがここで会う必要もなくないか?」

「えぇー、いいじゃん。ファラちゃん自慢できるの百瀬くんだけだし」

「それは……そうだけど」

「あたしこれでもかなり我慢してるんだよ? 本当ならすぐにでも友達に自慢したいのに。せめて百瀬くんに聞いてもらわないとあたし発狂しちゃいそう」

「そんなに? うーん」


 親ばかになってくれていることは嬉しいけれど。

 元々、ウェポンビーストのことを口外してほしくないのは失望されたくないからだ。

 以前のように期待に応えられないことが恐ろしかった。

 だったら最初から期待なんてされない麒麟児の落ちこぼれのほうがいい。

 その結果が今の学校生活だ。

 誰とも関わらず、ひっそりと学生生活をやり過ごしている。

 でも、真導のお陰で俺にも夢があることが知れた。

 鍛冶師という夢を叶えるには恐怖に立ち向かわないと。


「……わかった。じゃあ、言っていい」

「言っていいって――自慢してもいいってこと!?」

「こうなったらもう遅かれ早かれだろうし、里親はもう真導だし」

「わぁ、なんかうずうずしてきた! もう我慢できない! あたし友達に自慢してくる!」

「あ、あぁ」


 ファラが映った携帯端末を握り締めて真導は物凄い勢いで駆けていく。

 静かになった空き教室では足跡のように薄く埃が舞う。


「夢を叶えるには……まず落ちこぼれを卒業しないとか」


 麒麟児の落ちこぼれ。その汚名を返上し、恐怖を克服する。

 まずはそこからだ。


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