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8 目指すべきもの


「この声、ウェアウルフか」

「しかも二体……」

「狼づくしになったな」


 ガリガリと鋭利な爪で壁を引っ掻きながらウェアウルフは姿を見せる。

 見上げるほどの巨躯、強靱な肉体、鋭い爪と牙、二本足で立つ人狼。

 背負った大剣を抜き、鋭い視線でこちらを射貫く。

 奴らの脅威度はハイウルフの数段上だ。


「片方、任せてもいいか?」

「う、うん。大丈夫、任せて」


 その返事には覇気がない。


「――なるべく早く片付けるから、それまで耐えてくれ」


 きっとまだ真導にはウェアウルフを相手にするほどの自信がない。

 先ほどの身のこなしなら勝てると思うが、ともかく迅速に片方を始末して加勢しよう。

 そのためにも先んじてウェアウルフへと突撃し、真導がそれを追い掛ける。

 迎え撃つあちらは大剣を振りかぶり、首を刎ねるように一撃を見舞う。

 迫り来る一撃を躱すために身を低くすると、頭上を大剣が通り過ぎて壁に食い込んだ。


「チャンスッ」


 壁から大剣を引き抜くのに一瞬時を要する。

 その僅かな隙を縫うように懐へと潜り込み、深く踏み込んだ一閃を放つ。

 けれど、刀身が毛皮を裂くその前にウェアウルフは飛び上がる。

 跳んで躱し、天井で跳ねて背後に降り、刺さった大剣を抜く。


「身軽だな」


 再び振るわれる大剣をアイルで弾いて軌道を逸らす。

 手に伝わる衝撃からしてアイルでなければ得物が折れていた。

 弾いて即座に翻る大剣。それと打ち合う数秒間。

 甲高い音と火花が散る最中、ウェアウルフの背後から煌めく何かが舞う。


「しまっ――」


 真導の短い声を聞いて、現状を理解する。

 得物を折られた。


「サモン!」


 魔法を唱え、左手に魔法陣を展開。

 ウェアウルフの大振りな一撃を滑り込むようにして躱し、股を抜けて背後へ。


「アイル!」

「くあー!」


 アイルを刀から龍へと戻し、腕を伸ばして指を差す。

 手の甲に乗ったアイルは目一杯口を開いて火炎を圧縮。

 狙い澄ますのは指の先。

 今まさに真導へと大剣を振り上げた二体目のウェアウルフ。

 圧縮された火炎は弾丸の如く放たれ、その脇腹を打つ。

 着弾と同時に爆ぜたそれは毛皮を焦がし、肉を焼き、その巨躯からバランスを奪う。

 命は繋がった。


「真導!」


 手の平の魔法陣から召喚を成功させると共に投げる。

 放物線を描いて真導の元へと向かうのは幾つもの剣を背負うハリネズミ。


「ファラちゃん!」

「きゅう!」


 返事をしたファラは蒼剣となって真導の元へ。

 折れた剣を捨ててファラを手に取ると、体勢を崩していたウェアウルフも復帰。

 再び振り下ろされた大剣が蒼い軌跡に両断される。


「凄い――これなら!」


 勢いづいた真導の剣撃を止める術などウェアウルフに残されていなかった。

 一瞬にして刻まれる幾つもの太刀傷。

 それら一つ一つが致命傷にいたる深手となり、血に染まった巨躯が膝をつく。

 勝負あった。


「俺も負けてられないな」


 視線を自分が相手をしていたウェアウルフへ。

 奴は命を落とした仲間を見つめ、更に視線を鋭くしてこちらを睨む。

 大剣を構え、足の爪で地面を抉り、泣き叫ぶような咆哮を上げて突進する。


「サモン」


 左手の魔法陣から召喚。

 突進するウェアウルフに向けたのは銃口。


「クラッカー」


 装弾数十八発、オートマチック拳銃。

 引き金を引けば文字通り火を噴き、緋色の弾丸が対象を撃つ。

 肩を穿ち、膝を砕き、肘を貫く。

 派手な音を立てて大剣が地面に落ち、膝をついたウェアウルフの前に立つ。

 最期の抵抗として鋭い牙が喉元に迫ったが、それが到達する前に首が宙を舞う。

 狼頭が地面に落ちると、糸が切れたように残された肉体も倒れ伏した。


「ふー……流石に今のは焦ったな」


 真導を死なせるかと思った。


「平気か? 真導」

「うん! 百瀬くんとファラちゃんのお陰! ありがとう!」

「きゅう!」


 頬ずりをする真導と、嬉しそうにするファラ。

 その様子はまるで特別な絆で結ばれているかのようだった。


「――あぁ、そうか」


 目の前の光景を見て、気付かされる。

 きっとファラは最初から決めていたんだ。


「真導」

「なに? どうかした?」

「ファラの里親になってくれないか?」

「里親? え!? えぇええ!?」


 大きな声が響き、目が丸くなる。


「だ、だって。え? そりゃ里親になれるなら喜んでなるけど。でも、家族なんでしょ?」

「そうだよ、大事な家族だ。でも、真導を選んだのはファラだ。そうだろ? ファラ」

「きゅう!」


 短い両手を大きく挙げてファラは肯定する。

 きっとあの時、真導と初めてあった時、ファラは自分の主を見付けたんだ。

 俺はファラの親だけど、主じゃない。武器には主が必要だ。

 ファラは真導といたほうが幸せだろう。


「じゃ、じゃあ、いいの? ホントに?」

「あぁ。でも、最後にお別れだけさせてくれ」


 側に寄ってファラに手を伸ばす。


「きゅう……」


 ファラは小さな体で俺の指を抱き締めることで別れを告げた。

 これでもう思い残すことはない。


「今からファラの里親だ。大事に育ててくれ」

「うん! めっちゃくちゃ大事に育てる! 今日からうちの子だよ! もう絶対に離さないからね! えへへ!」

「きゅう!」


 もう一つ気がついたことがある。

 それは俺の今後を、人生を左右するような大きな気づき。

 今回の件を経て、俺はようやく自分というものを理解した。


「俺にもまだ夢があったんだな」


 自ら育てたウェポンビーストを、然るべき主の元へと導く。

 それが俺の夢。


「え? なにか言った?」

「いいや。それより他の魔物が来ないうちに移動しよう。連戦は疲れる」

「そだね。さっき大声出しちゃったし、行こ行こ!」


 そうして今日のダンジョン探索は終了した。

 そして次の登校日。

 進路希望調査票の空欄を埋めて先生に提出した。

 俺は鍛冶師になる。

よければブックマークと評価をしていただけると嬉しいです。

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