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49 自主練の成果


 整備されているとはいえ、それはあくまでも最低限道の体を成しているだけに過ぎない。

 魔物の出没を考えると作業期間も取りづらく、完成した道もすぐに荒らされてしまう。

 結局、出来ることと言えば土を踏み固め、崖の縁にロープを張る程度。

 それでも進むべき方角を知るには十分だし、石や岩を踏み越えるより余程いい。


「登山ってやっぱり体力使うね。身体強化してなかったらもうバテてるかも」

「空気もさっきより薄くなって来た気がするし、この辺で広い場所を見付けたいな」

「なら、朗報だぜ。あそこならいいだろ?」

「適度に広いし、周りに燃えるものもない。安全」

「よし、じゃあそこにしよう」


 坂道を登り切った先で見付けたのは廃坑の跡地だった。

 中を覗くと仄暗く、古びた梁がダンジョンの元に戻ろうとする性質に抗っている。

 その周辺はある程度整備された広場になっていて心重の習得場所として悪くない。


「どうして廃坑になっちゃったんだろ、ここ。鉱石が取れなくなった、わけじゃないよね。ダンジョンの性質上」

「魔物の縄張りになったとか」

「掘り進んだ先でなんかやべぇ物質が見付かったとか?」

「単純に事故が起こったのかもな」

「色んな可能性があるねぇ」


 とはいえ、心重の習得に坑道は必要ない。

 中には入らず、その周辺に転がっている放置された木材や石材に腰掛けて一息をつく。


「さーて。んじゃ、はじめっか。その心重って奴の習得」

「なら、まずは自主練の成果を見せてもらおうか」

「わかった」


 伊鳴と蓮が二人間隔を空けて立ち、瞼を閉じる。

 風の音が聞こえるくらいの静寂の後、二人に変化が起こる。

 重力が可笑しくなったかのように伊鳴の周囲に石や砂が浮かぶ。

 蓮は両手に装備したヒートが激しく赤熱するも、以前のような熱波を感じない。


「あたしの時もこんな風だったの?」

「ん? あぁ、こんな感じだったよ。蒼い光が形になろうとしてた」

「へぇー。あたし目を閉じてたからわかんなかったよ」


 二人ともいい線を行っている。

 けれど、その先には行けず元に戻ってしまう。


「ふぅ……まぁ、こんなところだ」

「あと一歩、足りない」

「やっぱりそこで躓くんだな。小杖もそこだったし」

「そだね。あたしもそこが一番苦しかった気がする」

「尊人はどうやって心重を発動したんだ?」

「それが口で説明するのが難しくてさ。俺の中で明確な手順があるんだけど、それを言語化するのがちょっと苦手で」

「じゃあ小杖ちゃんは? どうやって躓かずに発動できたの?」

「あたし? あたしの場合は……」


 思考を巡らせた小杖は俺をちらりと見て、それからまた伊鳴を見る。


「とにかく二人と一緒に戦いたいって願ったからかな。尊人くんと伊鳴ちゃんがドラゴンと戦ってるの、あたしだけ後ろで見てるだけだったからさ。そんなんじゃヤダ! ファラちゃんお願い、力を貸して! って願ったら発動してた」

「あの時、そんな風に……」


 そんな風に思ってくれていたのか。

 てっきり窮地をバネにして心重を発動させたものだと思っていた。

 けれど、それはすこし嬉しいな。


「伊鳴たちのことそんなに好き?」

「え? あー……」


 また小杖の視線がこちらに来る。


「うん。大好き」


 恥ずかしげな小杖の笑顔にすこしどきりとした。

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