48 山岳ダンジョン
「真導小杖か」
「あぁ、直に来るはずだけど」
「なんか妙な感じがするな。尊人の友達と会うってのは」
「まぁ、経験ないだろうな。蓮や伊鳴たち以外に友達いなかったし、伊鳴はすぐに慣れてたけど」
「そりゃ女同士ならな。俺は男だし、どんな顔してればいいんだ?」
「普通にしてろ。変なことしてると確実に失敗するぞ」
「だよな。普通か、普通普通」
妙にそわそわとしている蓮と待ち合わせ場所で待つ。
場所はいつも通り、ダンジョンからすこし離れた位置。
伊鳴と蓮が見付かれば野次馬が来てしまうので身を隠すようにして息を潜める。
それからしばらくして伊鳴と小杖が現れた。
「お待たせ。あ! 牧原くんだ! この前、雑誌に載ってるの見たよ!」
「お、おう。そりゃありがとな」
「その赤い手甲がヒートちゃん? 見せて見せて!」
「あ、あぁ」
手甲が二叉の赤い蛇へと変わる。
「わぁ! 聞いてた通り、二叉だ! 可愛い! うちの子も負けてないけど!」
「そ、そうか」
蓮は光での勢いに若干押されていた。
「コミュ力お化け」
「俺や伊鳴には無理な芸当だな」
あの勢いで初対面の人とは話せない。
「だから尊人も変わったのかも」
「そう……かもな。小杖がいなかったら今こうしてないだろうし」
こうして一堂に会することもなかった。
自分の夢に気がつくことも、恐らくなかっただろう。
「尊人が小杖ちゃんと出会ってくれてよかった」
「あぁ。俺もそう思うよ。感謝してる」
ヒートとファラが邂逅を果たし、そこにシフとアイルも加わる。
命を与えたのはどれも俺だから、アイルたちは兄弟と言っても過言ではない。
そのこともあってか、アイルたちはすぐに打ち解けられていた。
「凄いな、真導って。もう懐に入り込まれた気分だ」
「だろ? 俺もあんな感じだったよ。最初は」
閉じていた心の扉をこじ開けられるような、そんな魅力が小杖にはある。
蓮は俺ほど心を閉ざしている訳でもないし、こうなるのは必然だ。
これからダンジョンに挑戦する上で重要なチームワークを小杖が築き上げてくれた。
「それじゃあ、行く?」
「あぁ、行こう。準備は?」
「いけるぜ」
「オッケー!」
身を隠すのは止めにして堂々とダンジョンへと赴く。
周囲の視線はあれどそれらを無視して張られた結界の向こう側へ。
視界に広がるのは見上げるほど高く聳える山脈。
山岳ダンジョン。
雲を掴む山々の只中に、俺たちは降り立った。
「わぁ、凄い絶景! やっほー!」
山彦が小杖に返事をする。
「こんな大自然、冒険者じゃなかったら体験できないよね」
「行き来も楽だし、これで魔物が出なければな」
「それなら気軽に登山も楽しめたのにねぇ」
吹き抜ける風がすこし強く、髪を靡かせていく。
「二人とも、ぼさっとしてないで行くぞ」
「心重の練習が出来る場所、探そ?」
「あぁ、悪い。すぐ行く。行こう、小杖」
「うん。あたしがしっかり教えちゃうよ!」
ある程度整備された山道を通り、広く空けた場所を目指す。
いつもより綺麗ですこしだけ薄い空気を味わいながら歩き出した。
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