46 性能テスト
二叉の赤い蛇となった手甲がヒートと名付けられてから一週間後。
一日三食、欠かさずサラマンダーの炎鱗を摂取したヒートの耐熱性能はかなり上昇しているはず。
あれだけあった炎鱗も食べ尽くしたとのことなので、冒険者組合本部のトレーニングルームにて性能テストを行うことになった。
「なぁ、もしこれで耐え切れずに融解しちまったらどうなんだ? やっぱ苦しいのか?」
「まぁ、そりゃな。元は武器でも痛いものは痛いだろうし、自分が溶けたらそりゃ苦しいだろ」
「そうか……」
「安心しろ。自分の限界値はヒート自身がよく知ってる。溶けそうになったら自分から蛇になって逃げ出すよ」
「なら……安心した」
ヒートを装備した蓮から安堵の息が漏れる。
「随分と愛着が湧いたみたいだな?」
「そりゃ一週間も一緒にいりゃあな。朝起きると布団の中に入ってきてるし。だから心配なんだよ、傷つけないかどうか」
装備したヒートを撫でる蓮の顔は立派な里親だった。
「ウェポンビーストには大なり小なり戦闘本能がある。元が武器だからな。その関係上、多少は傷ついても平気なように出来てる。痛みや傷は勲章だ」
「そういうもんか?」
「そういうもん。だから、いい加減始めようぜ」
「あぁ……そうだな」
拳を打ち合わさり、蓮の気合いが入る。
それを見届けてから距離を取り、離れた位置に立つ。
「上手くいくのか?」
「見てればわかります」
「では見させてもらおう。キミ達の成果を」
雪村さんの口が閉じると、熱気の波が頬を撫でる。
炎の魔力に包まれた蓮は、灼熱の最中で拳を握り締めていた。
「ここからだ。耐えろよ、ヒート」
更に火力が増し、腕を盾にしなければならないほどの余波がくる。
離れていてもこれだけ熱いなら、火炎の中にいる蓮やヒートは更にだろう。
それでもヒートは蛇の姿となって逃げ出す様子はない。
すでにサラマンダーを真正面から殴り倒していた頃の炎よりも激しい。
それでも融解する様子が見えないということは。
「上出来だ、ヒート。これなら俺も全力で戦える」
炎の魔力が掻き消え、残暑のような熱い空気がトレーニングルームに満ちる。
汗すら乾くような熱波はなくなり、じっとりとした汗を掻く。
そんな中でもヒートを見つめる蓮の笑顔は夏に吹く風のように気持ちの良いものだった。
「これで濡れ衣は晴らせましたか?」
「たしかにキミはよくやった。私の想像以上の成果が出ている。だが、あの武器でアマルガムを倒せなければ意味がない」
「それが証明できれば無実だと認めてくれるんですか?」
「答えはその時になってからだ」
「……そうですか」
やはり、この人とは相容れない。
「……キミは考えたことがあるか? ウェポンビーストを価値のわかる者に売れば一財産を築けるのではないか、と」
「ありませんね」
「では、なぜ鍛冶師を目指してる?」
「鍛冶師になりたいのは俺のためじゃなくて、ウェポンビーストたちのためです」
視線を雪村さんへと向ける。
「担い手となるべき人物と出会った時、あの子たちは本当に幸せそうな表情をするんです」
それはファラと小杖が教えてくれたこと。
「それが見られるなら俺はそれでいいです」
「大金を得て思い通りの生活を謳歌することよりも重要なことなのか? それは」
「派手な腕時計や高級車よりも価値のあることですよ、俺にとっては」
「……そうか」
耐熱性能テストを終えて蓮が戻ってくる。
結果は大成功。
ヒートは見事に耐熱性能を上昇させ、蓮の全力に耐え切った。
あとはアマルガムと戦い、その有効性を示すだけ。
蓮には頑張ってもらわなければならない。
そのためのサポートは惜しまない。
出来る限りのことをしよう。
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