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43 武器の育成


「まさか二人でこうしてダンジョンに挑戦する日がくるとはな。十年前の俺に教えてやりてぇぜ」

「言っても信じないだろうけどな」

「かもな。あの頃のお前は荒れてたし」

「あぁ」


 どろどろに溶けた溶岩の海。灰色に染まる石の数々。

 目の前に聳える火山からは絶えず火が漏れている。

 空は焦げ、火山灰のせいか日差しは弱く、気温は高い。


「それで? 今日はどいつを狙うんだ? 勿体ぶってないで教えろよ」

「サラマンダーだよ、サラマンダー」

「サラマンダー? そいつはこの手甲の……」


 蓮の視線が手元に落ちる。


「原材料だろ? だから、そいつの素材が欲しいんだ」

「……こいつを鱗か何かで補強するってことか?」

「惜しいな。間違ってはないけど」


 話ながら足を進め、火山にぽっかりと空いた洞窟へ。

 見上げた天井は高く、そして見渡せるほど広い。

 明かりはないが壁から流れ出す溶岩の明かりで視界は確保できた。


「俺たちの魔力が競合するかもって話はしたよな?」

「あぁ、それで伊鳴も最初は失敗したんだろ? で、その解決策が愛剣だったって話だ。俺の場合はこいつになるが……」

「その手甲の耐熱性能じゃ融解するのがオチだ。だから、サラマンダーの鱗を喰わせる」

「喰わせてどうするんだ?」

「喰わせて、育てるんだ。サラマンダーの一部を取り込ませて耐熱性能を向上させる。蓮の火力に耐え切れるようになるまでな」


 あらゆる方法を考えた。

 魔法で氷の武器を造るだとか、水に関係するウェポンビーストならどうか、だとか。

 中には実現不可なものもあったが、とにかく悩み抜いた末の答えがこれだ。

 これが一番現実的な方法なのは間違いない。


「ウェポンビーストってそんなことも出来んのかよ。たしか十年前はそんなのわかってなかったよな?」

「あぁ、まぁ、あの頃は本当に武器を生物にするだけだったからな。誰にも見向きされなくなってからなんだ、色々とわかるようになってきたのは。武器の育成だって初めて気付いたのは五年くらい前になる」


 毎日、ウェポンビーストたちにご飯を上げ続けた結果、以前よりも武器としての性能が上昇していることに気がつけた。

 その時はなんだか報われたような気分になったのをよく憶えている。


「十年もあれば色々と変わるってことか」

「あぁ、色々な。でも、この方法も絶対じゃない。耐熱性能が上がるかどうかはウェポンビースト次第だ」

「そういうことなら、腹いっぱい喰わせてやらねぇと」


 両の拳を付き合わせて蓮は気合いを入れる。

 その動作は十年前からしている癖で、ふと懐かしい気分になれた。


「昔はよく探検したよな」

「ん? あぁ、家の近所をぐるっと一周するだけの探検な。今じゃ散歩コースにもなりゃしねぇけど、あの頃の小せぇガキには大冒険だった。お菓子と水筒もってさ」

「あと虫かごな。蟷螂かまきりやら蝶やらを見付けては虫取り網を振り回してさ。危ないからって伊鳴に注意されて」

「はっ、そんなこともあったっけな。もう随分と遠い過去になっちまいやがった。時が経つのは早ぇよ」

「今のおっさんみたいだぞ」

「思い出に耽るとみんなおっさんみてぇになるんだよ」


 思い出話に花が咲き、気がつけば洞窟の奥にまで辿り着いていた。

 最奥に鎮座する巨大な火の蜥蜴、サラマンダー。

 赤い鱗は炎を宿し、火の吐息はそれだけで岩肌の地面を赤く染める。


「お出ましだ。準備はいいよな、尊人」

「あぁ、いつでも行ける」

「うっし。じゃあ、やるぞ! 俺が一番手だ!」


 靴底を爆破して急加速した蓮はそのままサラマンダーに殴りかかる。

 その一撃はサラマンダーを怯ませ、火蓋は落とされた。

 俺もその後を追うように駆けだし、自宅のジオラマからウェポンビーストを召喚する。

 手元に握るのは一本の槍。

 それは大海原を泳ぐ梶木鮪のように水流を身に纏っていた。

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