40 抱いた想い
「たぶん雪村さんも、冒険者組合も、本気で俺がこの件に関わっているとは思ってない」
冒険者組合の本部を後にして近くの喫茶店で作戦会議。
アイスコーヒーに浮かんだ氷がからんと音を立てて動く。
「俺が提出した進路希望の内容まで知ってたんだ、それくらい調べれば直ぐにわかるはず」
「じゃあ、それでも疑いを掛けてきたのは……」
「十中八九、ウェポンビースト」
「だな。アマルガムに効果的だし、冒険者組合が価値を見いだしたのかも。今更な話だけどさ」
「平気?」
「平気だ。そりゃ昔は悩んでたけど、今はもう大丈夫だ。ありがとな」
「うん」
十年越しの再評価。
思うところはあれど、深く悩むほど今はもう引きずってはいない。
「わからないのはなんで素直に協力してくれと言わないのかってことだ。そうしたほうが面倒がないのに」
「そのほうが得なんじゃない? ほら、尊人くんへの報酬代が浮くし」
「そんな端金のためにあんな回りくどいことするか?」
「そっかー、そうだよねぇ。でも、なんか違和感あるのは確かだし」
「うーむ。あいての意図が見えないな。なんでこんなことを」
とにかく判断材料が少なすぎる。
いま悩んでも答えは出なさそうだ。
「悩んでもしようがない。やれることもないし、リストが送られてくるまで俺は待機だな」
「あたしたちにも出来ることなさそうだし。あ、伊鳴ちゃんこの後、一緒に――ってごめん! 今のなし。遊んでる場合じゃないよね」
「いや、気を遣わないでくれ。俺はまったく気にしないから。今すぐどうにかなるってことでもないし、むしろ遠慮されるほうが辛い」
「そう? じゃあ」
「うん、行く」
「やった! じゃあさ、じゃあさ!」
二人はその場で今日の予定を決めていく。
それをしばらく耳にしながらアイスコーヒーを飲み干した。
§
尊人くんと別れて伊鳴ちゃんとデート。
ショッピングにも行きたいし、スイーツも食べたい。
冒険者用の雑貨屋にも行けたらいいな。
尊人くんが大変な時期だけど、だからこそ遠慮せずに楽しまないと。
けど、その前に。
「あのさ、伊鳴ちゃん。あたし話しておきたいことがあるんだ」
「うん。そんな気、してた」
「あはは、バレバレかぁ」
伊鳴ちゃんには敵わないな。
「たぶん、伊鳴ちゃんはもうわかってると思うけど」
「うん」
「あたしも尊人くんのことが好き」
立ち止まって、向かい合って、目を見て、言った。
「だと思った」
「いつから気付いてたの?」
「初めて会った時から、だよ。なんとなく、そんな気がしてた」
「えぇー、そんな前から……」
「確信したのはドラゴンを倒したあとだけど、ね」
「自分で気がつくのに随分かかっちゃったなぁ」
あたしって自分が思うより鈍感なのかな?
「でも、小杖ちゃんは気付いてからが凄いと思う」
「そう?」
「いつの間にか、下の名前で呼び合ってた。隅に置けない」
「あー、あれは……滅茶苦茶、めーっちゃくちゃ勇気振り絞ったんだよ。心臓が張り裂けそうなくらいドキドキしたし」
実際、赤面しちゃったし。
尊人くんもしてくれてたけど。
それが嬉しかったけど。
「いいな。伊鳴もそういう経験、してみたかった」
「そっか。伊鳴ちゃん尊人くんと幼馴染みだもんね」
「うん。物心ついた頃から一緒だった。名前も気がついたら下の名前で呼び合ってたし。そういうイベント、羨ましい」
「あたしは伊鳴ちゃんのほうが羨ましいけどなぁ。あたしの知らない尊人くんをいっぱい知ってるし。あたしも知りたいなぁ、特に子犬の尊人くんを!」
「ふふっ。なら、歩きながら話す、ね」
「うん。あたしも代わりに学校での尊人くんのこと話してあげるから」
「楽しみ」
笑い合って歩き出す。
伊鳴ちゃんとの会話はお店についた後も止まらなかった。
あたしの知らない尊人くんのことを沢山知れたし、伊鳴ちゃんとのデートも楽しかった。
また一緒にデートしたい。
そう思えば思うほど、あたしはほっとしちゃう。
尊人くんをめぐって伊鳴ちゃんと争わなくて済む。
ライバルじゃなくて友達のままでいられる。
競い合うことも、嫌い合うこともない。
あたしにはそのことが、とてもとてもありがたかった。
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