4 自然ジオラマ
「わぁ!」
飼育部屋に立った真導が感嘆の声を漏らす。
「この魔法、凄い! ジオラマって言うんでしょ? これ。この中にいっぱいいる! 何体くらいいるの?」
「十六」
「十六かぁ。一、二、三、四――」
魔法を施した自然ジオラマを覗き込み、ウェポンビーストを見付けては指折り数える。
そんな子供じみた無邪気な姿なんて教室では見たことがない。
すこし真導に対する印象が変わった。
「あれー? 見付かんない。十三まで見付けたのにー。百瀬くん、ヒント!」
「ヒント? そうだな」
真導が見付けていないウェポンビーストは一カ所に固まっている。
だから。
「灯台もと暗し、かな」
「灯台もと暗し? えーっと、じゃあこの場合は……」
視線が手元に引き戻され、ジオラマの端にある大きな湖で止まる。
「いた! 水の中! えへへー、コンプリートー!」
満足げな表情でピースサインをくれた。
「それにしても沢山。この子たちみんな百瀬くんがお世話してるんだよね? 大変じゃない?」
「大変だよ。大変だけど、嫌だと思ったことはないんだ」
ただの一度も。
「みんな可愛い我が子だよ」
「そうなんだ。なんか百瀬くんの印象変わっちゃったなー」
「俺の印象?」
「そ。前まではなに考えてるのかわからない人だったけど」
そんな風に思われてたのか。
「家族思いの優しい人だってわかった! あたしのことも家に上げてくれたしね」
「勢いに押されてな」
「押しが強いのがあたしの長所だもん、嬉しい!」
「ポジティブだなぁ」
俺とは真逆の感性をしている。
「ねぇねぇ、百瀬くん。もっと近くでみたいよ、どうすればいい?」
「なら、ジオラマに入ってみる?」
「いいの!?」
「ただし、動物園じゃないんだ。檻もなにもないから、離れないように」
「ラジャー!」
期待に満ちあふれた瞳に応え、真導を連れてジオラマの中へ。
まずはスクラッパーのところかな。
§
「すっごい迫力! 見て見て! 車が粉々!」
「あんまり近づくとぺちゃんこにされるぞ」
はしゃぐ真導に釘を刺しつつ、スクラッパーの側を通る。
スクラッパー自身はこちらを気にも止めず、新調したミニカーにご執心。
スポーツカーを壊すのはさぞかし清々しい気分になれるだろうな。
「ファラちゃんみたいにちっちゃな子ばっかりじゃないんだね」
「そこは武器に寄りけりって感じだな。まぁ、基本は武器の大きさに比例するけど」
「大剣は大きくて、短剣は小さかったり?」
「そんなとこ。ファラは小さめだけど」
「きゅう」
ファラがまた胸ポケットから顔を出す。
呼ばれたと思ったのかな。
「可愛い!」
その仕草に再び真導はメロメロになっていた。
「それにしても凄いね、ここ。ホントに自然の中にいるみたい」
「この子たちの住処になるから高いのを買ったんだ。風は吹くし、植物は生えるし、水は循環するから澱まない。まぁ、懐はかなり寒くなったけど」
「そうなんだー」
あの頃は食費を切り詰めてたっけな。
「あ、お金の話で思い出したけど、ご飯代とかどうしてるの? バイト?」
「そんなところ。時々、知り合いの冒険者と一緒にダンジョンに行くから」
「え!?」
突然、大きな声がして足が止まる。
「な、なに?」
「百瀬くん、冒険者なの!?」
「あ、あぁ資格を持ってるだけで見習い状態だけど」
「そうなんだ! うわー、あたしと同じじゃん!」
「真導も冒険者見習いなのか?」
「うん! あ、そうだ!」
両手が合わさり、音が鳴る。
「今度の休日、一緒にダンジョン行こうよ!」
それはとても予想外な提案だった。
§
言葉に詰まる。
真導からの提案にすぐ答えを出すことができなかった。
断りたいわけではないけれど、一緒に行くのも気が進まない。
軸がふらふらしているようで定まらなかった。
「ダメ?」
「……考えさせてくれ。急には答えられない」
「そっか。じゃああたし待ってるね――あ! なんか飛んでる! あれなに!?」
「あぁ、あれは――」
ジオラマの中を一通り案内して見学ツアーは終了。
随分と満喫したようで帰ってきた真導は満面の笑みだった。
「今日はありがとう。また明日ね!」
玄関先で彼女を見送り、扉を閉める。
「また明日」
明日は平日。
当たり前のように登校日で、教室には真導がいる。
「今度の休日か」
それまでに答えを出さないと。
一緒に行くか、行かないか。
よければブックマークと評価をしていただけると嬉しいです。