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36 死神のように


 乱れ舞う剣撃を見極め、躱し、いなし、捌く。

 命の側を剣閃が抜けていく感覚の中、思い起こすのはまだ冒険者見習いにもなっていない頃の記憶。

 魔物と戦う前にまず人との戦い方を叩き込まれていた時代。

 当時は何のためだと疑問に思いながらも納めた対人スキル。

 それは今日、この日のために。


「面食らったけど」


 素早く二連を刻み、異形の両手に生えた剣を弾く。


「もう慣れた」


 鋒を振り上げ、がら空きの胴体に一撃を見舞う。

 しかし振り下ろした刀身が異形を断つ寸前に別の刃が割り込んでくる。

 それは両手のそれではなく、太刀筋の軌道上にあった胴体から生えた剣。

 手の甲から生やせるなら、体中のどこからでも剣は生やせるということ。


「関係あるか!」


 軌道上に差し込まれた剣ごと異形を斬る。

 致命傷とまでは行かないまでも太刀傷を刻む。

 ゴーレムを断った時と似た感触が手元に伝わり、怯んだ異形は即座に体勢を立て直す。

 刻みつけた傷からは赤い鮮血が流れていた。


「血は流れるんだな」


 かと思えば、太刀傷から幾つかの剣が生えて傷口が閉じる。

 生半可な攻撃ではダメージにもならない。


「アァアァアァアアアアアッ!」


 奇声を上げて迫り来る異形に合わせて召喚魔法を発動。

 アイルを龍の姿に変え、両手で握り締めるのはスクラッパー。

 振りかぶり、振り下ろす。

 ただし打つのは磨かれた床。


「心重」


 衝撃が床を割り、蜘蛛の巣状に走る亀裂。

 それをなぞるように、波打つ水面のように、瓦礫の槍が天を突く。

 剣山のように立った一本に巻き込まれ、異形が天井に叩き付けられる。

 スクラッパーをジオラマに返し、クラッカーを再召喚。


「心重」


 狙いを定めて引き金を引く。

 銃口から放たれた炎弾は標的を撃ち抜く過程で癇癪玉のように拡散。

 無数の弾幕に晒され、両手の剣が溶け落ちた。


「アァアァアァアアアッ!」


 得物を失い、全身を溶かされ、ようやく異形は悲鳴を上げる。

 融解した体を引きずりながらも両手に新たな剣を生やす。

 それを杖代わりによろよろと立ち上がり、面を上げる頃には俺も次の手を打っていた。


「サモン」


 クラッカーを返し、召喚するのは湾曲した鋭利な刃。


「グリムリーパー」


 鋭く研ぎ澄まされた死神を思わせる大鎌を握り締め、構えを取る。

 同時にすり切れた黒いローブを身に纏い、自らの視線を隠す。


「心重」


 赤熱する異形は怖じ気づくこともなく、こちらを仕留めに掛かる。

 一息に間合いを詰め、二振りの剣を持って斬り込んだ。

 しかし、その攻撃は当たらない。

 異形からしてみれば俺が突然消失したように見えただろう。

 スクラッパーの心重は大地の槍。

 クラッカーの心重は癇癪玉。

 そしてグリムリーパーの心重は霧散と再構築。

 二振りの剣がこの身を裂く寸前、ローブを纏った俺の体は霧と成った。

 直後に異形の背後にて再構築、グリムリーパーを振りかぶる。


「――」


 死神を思わせる大鎌は音もなく通り過ぎた。

 草花を刈り取るように、融解した胴体から頭を切り離す。

 宙を舞うそれはまだ自分が斬られたことにすら気付いていない。

 胴体が倒れたのは首が落ちた後だった。

 床を転がったそれが自身の胴体を見た瞬間、糸が切れたかのように地に伏す。

 勝敗は決した。


「――真導」


 死体から目を逸らし、まだ戦い続けている真導を見やる。

 戦況は一進一退。

 蒼い輝剣が攻防の役割を果たし、舞うように軌道を描き、迫る剣撃を受けている。

 しかし、幾ら斬っても傷口は塞がれてしまう。

 すでに異形の胴体や四肢からは無数の剣が生えていた。


「真導! 加勢する!」

「待って!」


 輝剣の隙間を縫うように差し込まれた剣をファラで受け、真導は叫ぶ。


「あたしに任せて、お願い」


 本来ならそれでも加勢するべきなのだろう。

 でも、それは真導が成長する機会を奪うことにも繋がる。

 俺がすべきは親のように世話を焼くのではなく、その背中を押してやること。


「わかった」


 グリムリーパーをジオラマへと返し、龍の姿となったアイルを刀に戻す。


「――ありがと」


 戦闘は激しさを増し、真導にも傷が増えていく。

 深手は負っていないが、浅い傷は刻まれるばかり。

 加勢したい気持ちをぐっと堪えて、アイルの柄を握り締めた。

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