33 二人の初陣
正規の冒険者としての資格を掲げ、意気揚々と結界を潜る。
沮まれることなく通り過ぎた先に広がるのは豪華絢爛な空間。
西洋の絵本に出てくるような絵に描いたような宮殿の内部。
天井には煌びやかなシャンデリアが輝き、光を放つかのように磨かれた床が奥へと続く。
装飾の施された燭台が一定間隔で並び、その灯火すら幻想的だ。
「わぁ! 凄く綺麗! あたし小さい頃はこんなお城に住みたかったんだよねー。ここ宮殿みたいだけど、似たようなもんっしょ?」
「大きな違いはないかもな。綺麗な場所だし、憧れるのもわかるよ」
庶民生活に慣れ切った身からすると少々眩しすぎるような気がするけど。
「あそこはテラスになってるのか」
開けっ放しの窓から外に出て石造りの手すりに手を駆ける。
「うわ、すご」
空には星が輝き、その下では果てしない奈落が広がっていた。
宮殿を支える台地以外に何もなく、ただ深い闇だけが星明かりを吸い込んでいる。
この手すりから先に行けば、それだけでもう助からない。
「なになに? わっ、怖っ。落ちたら一溜まりもないじゃん」
「あぁ、でも綺麗だろ?」
夜空を指差すと、真導の瞳に星が映る。
「そうだねぇ、満天の星って感じで綺麗。吸い込まれそう」
星空に手を伸ばす真導を見ていると、カチャリと金属音がする。
すぐにテラスを離れて宮殿内に戻ると、二人の騎士と相対した。
煌びやかな宮殿に相応しい、細かな装飾が施された騎士鎧のゴーレム。
二つはこちらを認識すると、定められた動きをトレースするように、全く同じ動作で剣を抜く。
「冒険者になって初戦闘だ。準備は?」
「オッケー! 初陣を勝利で飾ろう!」
アイルを抜き、ファラを構える。
龍鱗がうねり、蒼い輝剣が宙に浮かぶ。
迫り来る二つのゴーレムにこちらからも向かい、一気に距離が縮む。
剣撃が交差し、鍔迫り合いに持ち込んだ最中、魚群のように空中を泳ぐ龍鱗がゴーレムの脇腹を削り取る。
ゴーレムは痛みを感じない。
だが、削れた分だけ脆くなりバランスが悪くなるのは同じ。
回り込んだ龍鱗の群れが今度は両の手甲を削り取り、鍔迫り合いの最中に折れる。
両腕を失ったゴーレムに為す術はなく、自らの剣が鎧に食い込んだ。
「――」
その好機を見逃さない。
食い込んだ剣の柄を左手で掴み、力を込めて鎧を両断。
自らの剣で致命傷を負ったゴーレムはそのまま地面に転がり、機能を停止した。
「良い切れ味してる。アイルには劣るけどな」
「くあー!」
龍の姿となったアイルの下顎を撫で、ゴーレムの剣を投げ捨てる。
それから真導のほうへと目をやると、ゴーレムがちょうど膝をつく頃だった。
蒼い輝剣を全身に浴び、糸の切れた人形のように機能が停止する。
「心重も慣れたもんだな」
「えへへー。毎日ちゃんと練習してるからね。ね、ファラちゃん」
「きゅう!」
ハリネズミの姿に変わったファラが元気な声を上げる。
古城ダンジョンや冒険者試験のように、ずっと武器の形態で居続けなければならないほど、今回は余裕がない訳じゃない。
アイルもファラも窮屈な思いをせずに済みそうだ。
「ゴーレムが復活する前にコアの回収っと」
「ここのゴーレムはダンジョンの一部扱いだからな」
ダンジョンの性質上、コアを抜き取っても修復はされてしまう。
だが、完全に修復されて機能が復活するまでの時間は稼ぐことが出来る。
すくなくとも俺たちが帰るまでこのゴーレムたちはこのままだ。
「さてと、じゃあ本格的に始めよっか。しっかり下見しないとね」
「順路とか、魔物の強さとか。ちゃんと把握しとかないと次に繋がらないからな」
喫茶店での打ち合わせの結果、今回の目標は宮殿ダンジョンの下見になった。
次に踏破できるように今回はそれを徹底する。
「でも、途中でなにかトラブルがあったら素直に引き返す。それでいいよな?」
「うん。命あっての物種だし、ファラちゃんとお別れなんて嫌だしね」
「きゅう!」
背中の剣を器用に避けて、真導はファラに頬ずりをする。
相変わらずの溺愛ぷっりを微笑ましく思えるようになったのは、実はつい最近のことだったりする。
「それじゃ下見開始だ」
「オッケー!」
ゆっくりと修復されるゴーレムの残骸を残して先へと足を進める。
何事もなく、トラブルもなく、下見を終えることが出来ればいいんだけれど。
よければブックマークと評価をしていただけると嬉しいです。




